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認知症の前段階から予防をしよう 【読書感想文】 軽度認知障害(MCI)診療マニュアル

★★★★★
Amazonでレビューしたものです。

プライマリケア医,高齢者をみるすべての医療スタッフに役立つ認知症を予防するための1冊

EBMに基づく非薬物的アプローチでMCIを適切にマネジメント! MCIの診断・治療・管理の必須知識を基礎から解説し,臨床現場で実際に出るCQについてエキスパートの対応を伝授.MCI の診断後支援に役立つ患者・家族へのアドバイス付き.早期発見と的確な対応で認知症予防に役立つ実践的知識が学べる1冊.注目の新薬レカネマブについても解説!



1.軽度認知障害(MCI)とは認知症の前段階


①認知症と軽度認知障害は違う


認知症
とは、
さまざまな原因によって、
記憶や注意力などの認知機能が低下し、
それによって日常生活が困難になった状態、

です。

この本で取り上げられている軽度認知障害とは、その前段階の概念です。
認知機能が以前よりも低下し、
正常ではないが、
日常生活機能は保たれており、
認知症ではない、

ことを指します。

mild cognitive impairment の英語表記から、MCIと呼ばれます。

いわゆる物忘れである記憶障害、今日の日付や曜日を覚えていない時間の見当識障害、家事や買い物などが一部困難になる実行機能障害注意力障害言語障害視空間認知障害、などの認知機能障害があります。

日本の65歳以上の方の13%がMCIと推計されています。ちなみに認知症は15%です。

MCIのうち一定割合が認知症に進展すること(コンバート)がわかっており、研究結果により幅があるものの、1年におよそ10%と考えられています。
一方、MCIのうち一定割合が、認知機能正常状態へ戻ること(リバート)もわかっており、こちらも研究結果により幅があるものの、1年におよそ20%と考えられています。
しかし、再度MCIになり認知症へ進展するケースもあります。

②予防には生活習慣の改善を


この本によると、

薬物による認知症の予防法はまだ確立されておらず、MCI段階での生活習慣病の積極的な診断を介入が望ましい。

となっています。

WHOの調査研究では、修正可能な認知症のリスクとして、
中年期の難聴、外傷性脳損傷、高血圧、肥満、飲酒、高齢期の喫煙、うつ、社会的孤立、身体不活動、大気汚染、糖尿病
などがあり、
治療介入や生活スタイルの介入により、認知症リスクを軽減できると考えられています。


特に定期的な身体活動が、認知機能低下や認知症の発症を抑制すると報告されており、WHOガイドラインにより推奨されています。

運動ですね。

有酸素運動とレジスタンストレーニング=筋トレです。

最近の研究では、太極拳も有効の可能性があるそうです。


食事も大事ですね。
地中海食が認知機能低下に抑制に働くという研究結果があります。地中海食とは、スペインやイタリアなどの地中海沿岸の食習慣で、果物や野菜を豊富に使用し、乳製品や肉よりも魚を多く使う、オリーブオイル、ナッツ、豆類、全粒粉など未精製の穀物をよく使う、食事と一緒に適量の赤ワインを飲むなどの特徴があります。

日本の場合そのまま当てはめられないため、「品数が多く、主食に頼らない野菜を中心とした和食に乳製品をプラスした食事」が適していると考えられています。

多量の飲酒は認知症の発症リスクを上昇させることが多くの研究で報告されています。週276g以上、1日38g以上のアルコール摂取によって認知症の発症する危険性が高くなることが報告されています。また、長年飲酒を続けてきた人の脳では、記憶と関連の深い海馬が萎縮していることも報告されています。
さらに、MCIの人では、週に192g以上、1日に27.5g以上のアルコールを摂取すると認知症のリスクが高くなるとされており、前述の276gより少ない量に注意が必要です。

1日38gだとすると、ビール中瓶(20g)2本弱、チューハイレギュラー缶(20g)2本弱、ワインハーフボトル(375ml 36g)弱となりますね。


中年期ならびに高齢期の喫煙は認知機能低下の危険因子となっています。しかし、喫煙していてやめた前喫煙者と非喫煙者との間では認知症のリスクに差がなかったことから、禁煙には遅くないとなっています。

まとめると、運動をしてバランスの良い食事をとり、飲酒はほどほどにして禁煙をする、となります。地道な毎日の生活改善が大事ということですね。

他にもこちらの本には、MCIから認知症発症を予防するための生活改善について書かれています。

③レカネマブという新しい治療方法

基本的にMCIには治療薬はなかったのですが、
先日発売されて話題になったレカネマブ(商品名:レケンビ)は、MCIから初期のアルツハイマー病が対象となっています。


アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)の病気の原因に、アミロイド仮説という説があります。
アミロイドβというタンパク質が脳の中に異常に蓄積することによって、神経細胞の機能障害から細胞死を引き起こすというものです。発症する何年も前からアミロイドβが蓄積し始めていることがわかっています。

このアミロイドβ蛋白質に対する抗体療法がいくつか研究で進められており、その一つがレカネマブになります。
それについてもこちらの本で解説されていますね。


2.日本認知症予防学会という学会


こちらの本は、日本認知症予防学会という学会によるマニュアルになります。

主に認知症の予防についての学会になるそうです。


認知症関係ですと、日本認知症学会という学会が有名ですね。

一般的な診断治療はこちらになります。

また、認知症ケア学会という学会もあります。

こちらは認知症ケアにあたる看護師が活躍している学会です。

それぞれ特徴がありますので、色々見てみるのがおすすめです。


早く認知症が治療され、予防される時代になって欲しいものですねえ。

3.Contents


第1章 軽度認知障害(MCI)とは 〈太田康之〉
 CQ1-1 MCIの概念とは?
 CQ1-2 なぜMCIの概念が作られたか?
 CQ1-3 MCIの概念はどのように変化してきたか?
 CQ1-4 MCIの種類(サブタイプ)に何があるか?
 CQ1-5 MCIに類似する概念に何があるか?
 CQ1-6 MCIの症状は何か?

第2章 軽度認知障害(MCI)の疫学と予後 〈池田佳生〉
 CQ2-1 MCIの有病率はどのくらいか?
 CQ2-2 MCIから認知症へのコンバート率はどのくらいか? 
 CQ2-3 MCIから認知症への進展(conversion)に影響する要因はあるか? 
 CQ2-4 MCIから認知機能正常状態へのリバート率はどのくらいか?
 CQ2-5 MCIから認知機能正常状態への回復(reversion)に影響する要因はあるか? 
 CQ2-6 MCIの亜型により,認知症へのコンバート率に違いはあるか? 

第3章 軽度認知障害(MCI)の原因 -生活習慣病の関与- 〈佐治直樹〉
 CQ3-1 MCIの原因は何か?
 CQ3-2 MCIに関与する生活習慣病は何か?
 CQ3-3 MCIに高血圧はどのように関与するか?
 CQ3-4 MCIに糖尿病はどのように関与するか?
 CQ3-5 MCIに肥満(メタボリック症候群)はどのように関与するか?
 CQ3-6 MCIにうつはどのように関与するか?
 CQ3-7 MCIに難聴はどのように関与するか?
 CQ3-8 その他にMCIに関与する生活習慣病はあるか?

第4章 軽度認知障害(MCI)の検査とバイオマーカー 〈木村成志〉
 CQ4-1 MCIの診断において必要な検査にはどのようなものがあるか?
 CQ4-2 MCIの鑑別診断に有用な画像検査にはどのようなものがあるか?
 CQ4-3 アルツハイマー病によるMCIの診断に有用なバイオマーカーにはどのようなものがあるか?
 CQ4-4 アルツハイマー病によるMCIを診断するのに有用なPET検査にはどのようなものがあるか?
 CQ4-5 アルツハイマー病によるMCIを診断するのに有用な脳脊髄液バイオマーカーにはどのようなものがあるか?
 CQ4-6 アルツハイマー病によるMCIを診断するのに有用な血液バイオマーカーにはどのようなものがあるか?

第5章 軽度認知障害(MCI)の診断と評価尺度 〈松村美由起〉
 CQ5-1 MCIはどのように診断するか
 CQ5-2 MCIの診断基準にはどのようなものがあるか
 CQ5-3 MCIの評価に推奨される尺度には何があるか
 CQ5-4 MCI評価尺度はどのように実施するか

第6章 軽度認知障害(MCI)から認知症への進行予防法 〈杉本大貴,櫻井 孝〉
 CQ6-1 身体活動を増加させることで認知症への進行を予防できるか?
 CQ6-2 どのような食事が認知症への進行予防に効果的か?
 CQ6-3 社会的活動によって認知症への進行を予防できるか?
 CQ6-4 認知トレーニングや知的活動によって認知症への進行を予防できるか?
 CQ6-5 高血圧,脂質異常症,肥満,糖尿病の治療によって認知症への進行を予防できるか?
 CQ6-6 飲酒によって認知症の危険性は上昇するか?
 CQ6-7 禁煙によって認知症への進行を予防できるか?
 CQ6-8 聴力障害に対して補聴器を利用することで,認知症への進行を予防できるか?
 CQ6-9 多因子介入によって認知症への進行を予防できるか?

第7章 軽度認知障害(MCI)への診断後支援 〈浦上克哉〉
 CQ7-1 病状告知の際の注意点
 CQ7-2 生活習慣病対策はどのようにすればよいか?
 CQ7-3 その他の生活習慣に関わる対策にはどのようなものがあるか?
 CQ7-4 自動車運転についてどのようにアドバイスすればよいか?
 CQ7-5 成年後見制度についての情報提供は?
 CQ7-6 MCIと診断後の経過観察

第8章 軽度認知障害(MCI)に対する地域での取り組み 〈島田裕之〉
 CQ8-1 MCIに対して地域でどのような取り組みがなされているか?
 CQ8-2 身体活動はMCIの認知機能向上に有効か?
 CQ8-3 認知活動はMCIの認知機能向上に有効か?
 CQ8-4 社会参加はMCIの認知機能向上に有効か?
 CQ8-5 多因子介入はMCIの認知機能向上に有効か?
 CQ8-6 ICTの利活用は認知機能向上に有効か?

第9章 軽度認知障害(MCI)に対する治療研究 〈山下 徹〉
 CQ9-1 MCIの発症や増悪に影響する因子にはどのようなものがあるか?
 CQ9-2 MCIの発症や増悪を抑制できるサプリメント療法などはあるのか?
 CQ9-3 MCIに対する抗体療法にはどのようなものがあるのか?どの程度期待できるのか?
 CQ9-4 MCIに対する抗体療法が実際に始まった場合に危惧される問題点とはどのようなものがあるのだろうか?
 CQ9-5 MCIに対する治療法で他に有望なものはないのか?

索引 


著者:浦上 克哉 (監修), 池田 佳生 (編集)
出版社 ‏ : ‎ 中外医学社 (2023/9/20)
発売日 ‏ : ‎ 2023/9/20
言語 ‏ : ‎ 日本語
単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 120ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4498229525
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4498229525
寸法 ‏ : ‎ 14.8 x 21 x 0.75 cm

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