SF小説ジャングル・二ップス4ー8
土着系SF小説「ジャングル・二ップスの日常」代4章シーン8
※qというタイトルで下書き保存したつもりが公開状態になっていました。
軽トラ
「あの男、少林寺拳法の有段者だとか言ってたよ。」
マウンテンバイクにまたがって麻加多神社のほうに男が去ってからヤスオがそう言った。
隣に立って雑誌を読み始めたら、
ヤスオさんのケースイスのスニーカーに気づいて話しかけられたそうだ。
ヤスオさんはイスラエル人だろうと感じたらしい。
モサド。
今は佐倉市内の沖縄空手道場に通っているとゆう事だ。
「英語教師とかしているタイプではなさそうだな。得体の知れない職業でも言いそうだったから聞かなかったよ。」
ショーネンがコーヒーを口に含み頷く。
昔、日本の玩具を世界中にネット販売しているというイギリス人が、マチコさんの店に通い始めた事があったが、なんとなく胡散臭く感じて誰も相手にしなかったらいつの間にか来なくなった。
エースケさんとマチコさんは始めから最後まで丁寧に接っしていたが、ショーネンにはイギリス人の正体を言わなかったので尋ねていない。
「ああゆうタイプたまにいますよね。」
ヤスオが二本目の煙草に火を点けるのを見てショーネンも点けることにした。
「あの男でも、なんだか一般人には見えませんでした。」
「ああ、貴族的な面立ちしていたよな。」
「はい。トランプの娘婿みたいな、そういった感じの冷たさです。」
ヤスオが煙を細く吐く。
「デイトナのサインペイント特集の写真を見せてこれをキミはどう思うと聞いてきたのはなんか変だったな。」
世田谷ベースと思ったがデイトナのだったようだ。
これどう思うと尋ねられても真意が分からない。
「別にどうとも思わない。写真は綺麗だなと言ったら頷いていた。」
ヤスオさんは外国人に信用されるタイプだ。
意見がなくても意見を探さないと大抵の外国人の男には嫌われる。
相手に質問する時は、まず質問する理由を説明するのが西洋的な礼儀だ。
真意が分からない質問をする奴は、礼儀知らずの田舎者か、必ず下心を隠している。
これを君はどう思う?
ヤスオさんのようにハッキリと相手に意思を伝えるのが嫌なのであれば、答えずに、それをキミがどう思うのかを先に教えてくれと聞き返えせばいい。
日本人が英語を話すのが苦手なのは、英語が難しいとかの問題以前に、意思をハッキリと相手に伝えるのが苦手だからだと言い切って良いはずだ。
「あのビアンキのマウンテンバイクだって20万円じゃ買えなさそうっすよね。」
「ははっ。あのくらいのなら最近は8万も出せば買えるはずだ。」
「8万。8万か。いいっすね。」
「気持ちいいだろうな。」
荷台に大きいスクーターを積んだ銀色の軽トラが駐車場に入ってきた。
「ショーネン、俺、トイレに行くのを忘れたから先に行っくれ。」
ヤスオが店内に向かう。
8万であのくらいのマウンテンバイクが買えるなら、ちょっとジョイフルにある自転車屋に行ってみるのも良いかもしれない。
自転車は触って選びたい。
通販ではダメだ。
「あのスミマセン。」
軽トラから降りてきた男に声をかけられた。
腕捲りした太い両腕がトライバル・デザインのタトゥーで埋まっている。
「なに?」
ショーネンが聞いた。
「あの、ヒーいいですか?」
男がライターをつける仕草をする。
「いいけどよ。ビビラせんでよ。オヤジ狩りにあうのかと思ったっしょ。」
「あ、きっついなぁそれ。」
男が笑顔を見せると前歯が一本かけているのが見えた。
ショーネンがライターを渡すと律儀に会釈をする。
「地元のヒト?」
「いえ、俺はオオサクラのほうっす。」
「えらいドイナカに住んでんね。」
「あ、きっついなぁもう。」
男が笑いながら煙を吐く。
ガラムの臭いだ。
この男は半端なく強い。
さっきのイスラエル人なんて比べ物にならない。
この辺りで見かけない妙な野郎がいつもの場所で煙草を吸っていたから、どの程度か探りをいれてきたのだ。
この手の男がライターを持たずに出歩くはずがない。
「俺、そこの目の前のタローさんの所の古本屋に先輩に連れられて来ただけなんだよね。」
「ああ、タローさんの所ですか。」
「ああ。なんか面白い店だね。」
「ああ、そうらしいっすね。」
「んじゃ。」
「あ、ありがとうございました。」
男が柄にもなく気を付けをしてお辞儀をした。
ショーネンがピースサインをすると、笑顔でピースサインを返してくる。
いい奴。
この辺りの不良は大丈夫だ。
ちゃんと地元を守っている。
ピースサインの本当の意味も、まだ理解できているようだし。
つづく。