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SF小説「ジャングル・ニップス」4ー2

ジャングル・ニップスの日常 第4章シーン2

姥が池

「チョーローはここを下った所にいる。

一人で行って挨拶してこい。

勘を頼りにしろ。

探さないでいい。」

ショーネンはヤスオの表情をチラリと確認しタバコを携帯灰皿にしまった。

エースケのぶっきらぼうな態度が修行の指令だと言っている。

特別な男を見つけるのに俺達の助けが必要じゃ今後の試練に耐えられねえぞ。

エースケノの目がそういっている。

歴博の裏、姥が池に下る階段。

木々が覆い被さり先が見えない。

ショーネンは緊張している自分に気づいた。

固い表情のままヤスオとエースケにと目を合わし会釈をする。

誰も登ってこない。

一呼吸おいて少年はそこを大股でかけ降りた。

チョーロー。

あだ名に惑わされるな、どこかでそんな言葉が光る。

短い階段だ。

階段とゆうよりスロープを整備して段にしてある。

広場が見える。

池の柵だ。

蓮池。

記憶よりずいぶん小さい。

俺はここに子供の頃来ている。

左側に草原が広がっているはずだ。

チョーローは独りで待っているのだろうか?

心をただの空模様のまま開いておけ。

灌木。

台風でなぎ倒されたのか?

整理の行き届いたこの空間にそぐわない。

落ち葉を拾え。

あれがいい。

ここは気持ちがいい。

「ああ。少年君いらっしゃいこっちこっち。」

上半身を無数の首飾りで装飾した美女が手招きをしている。

「正念で照念とは良く言ったものね。催促寺の爺やにしたら素敵なセンス。感心したは。」

紫がかった淡い色のロングスカート。

薄い生地だ。

無造作にかけたショルダーバッグが腰のラインに合っている。

五月だというのにノースリーブ。

色鮮やか出で立ちなのに全体的に白のイメージだ。

「階段降りきったらピタリと心を空にするなんて、爺やも良い弟子を持ったものね。マチコのの下の娘のキヨミよ、よろしくね。」

綺麗だ。

ショーネンはキヨミの目を見てそう思った。

「チョーローとはアナタですか?」

ショーネンは失礼を承知で尋ねた。

「ははっ。アタシがそんな風に見える?」

キヨミの笑顔にショーネンは吹っ飛ばされた。

空っぽだ。

浮いている。

膝から下の感覚がない。

タンポポの綿毛みたいに吹き飛ばされた。

「いい天気よね。」

キヨミが空に目を向ける。

「春ですから。キヨミさん。」

ショーネンはキヨミを見たままそう呟いた。

美しい。

心を見透かされている事にはすでに気づいていたが素直にそう思った。

ケラケラと笑うキヨミの声が心地よく響いている。

つづく。

ありがとうございます。