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とある全盲の新入社員の働き方 ~ツール編~

こんにちは。アクセシビリティ・エンジニアのSUGIです。

私は全盲のエンジニアとして、2020年4月からサイボウズデザイン&リサーチでお仕事をしています。
これから4回にわたって、とある全盲社員の働き方を連載していきます。第1回目はツール編です。次回以降、自己表現編・協働編・テレワーク編を連載していきます。

さて、私は就活および入社前、こんな不安を感じていました。

全盲の私が働くにあたって不安に感じていたこと
・会社ではどのようなツールが使われているのか、それらははたして使えるのか
・自己(の障害)を周囲にどう表現、どう伝えていけば良いか
・(視覚的な情報格差による)周囲との理解や作業の速度差をどう埋めていけば良いか

おそらく同じような悩みを持っている方がいるのではないでしょうか。

そこで、この記事ではツール編と題して、「会社ではどのようなツールが使われているのか、それらは使えるのか」について、私の経験を元にお話ししようと思います。一例として参考になれば幸いです。

私の仕事の紹介

まず初めに、軽く仕事の内容や作業環境について紹介します。

【仕事内容】

サイボウズ デザイン&リサーチには、アクセシビリティに特化したポカリ(Poca11y)チームがあります。
私はポカリチームで、kintone/Garoon/サイボウズ Officeといったサイボウズが手掛けるプロダクトのアクセシビリティ向上活動と、アクセシビリティの社内外への啓発活動を行っています。

【作業環境】

OS : Windows10
スクリーンリーダー : NVDA
点字ディスプレイ : KGS社製ブレイルメモ

スクリーンリーダーはオープンソースのNVDAをメインで利用しています。そのほかアクセシビリティ検証用にPC-Talkerをインストールしています。
プログラミングをする時などはコードを点字ディスプレイで確認しながら行っています。

スクリーンリーダーで使えないツールがある

私がなぜ就活時に不安に思っていたかというと、スクリーンリーダーで操作できるツールとそうではないツールがあるからです。
会社の場合はセキュリティの観点で、自分が使いたいツールをかならずしも使えるとは限りません。もしメインで運用されているツールがスクリーンリーダーで使えなかった場合、仕事に大きな影響をきたすでしょう。

スクリーンリーダーで使えない例
・ボタンにラベルがなく(アイコンのみで示している)何のためのボタンなのかわからない
・押せないボタンがある
・フォーカスできない、読み上げない箇所がある
・そもそもキーボード操作に対応していない

私が仕事で使っているツールの紹介

これから、私が仕事で普段利用しているツールと、それらが使えているのかを10個紹介していきます。

※補足
スクリーンリーダーはNVDAを使用しています。他のスクリーンリーダーでの使用感はこのかぎりではありません。
使い勝手の評価はざっくりと3段階にしています:
著しく困難…機能を全く使えない、または制限を受ける
試行錯誤が必要…使いにくい部分があるが、各所で工夫を講じれば使うことができる
・直感的/無難…直感的、もしくは習熟次第で問題なく使うことができる

1. グループウェア:kintone/Garoon/サイボウズ Office

用途 : 情報の蓄積、共有、コミュニケーション
使いやすさ : 試行錯誤が必要
参考リンク : 
  ・サイボウズ アクセシビリティ | Cybozu Accessibility
  ・アクセシビリティへの取り組み | サイボウズ株式会社

サイボウズが提供しているグループウェアです。作ったグループウェアは、サイボウズ社員がフル活用しています。

グループウェア上では実にさまざまなことを行います。一例を示します。

・分報や日報を投稿する
・会議の資料や議事録を共有する
・タイムカードや備品購入などを申請する
・会議や勉強会のスケジュールを作成する
・チームのタスクを登録/進行状況を管理する
・ふとした疑問を書き込む/アドバイスする

このように、ほとんどのことをグループウェア上で行うため、これが使えるかどうかは仕事に大きく影響します。言うなれば、グループウェアにアクセスできないと、仕事ができない、チームに貢献できないことになりかねません。

サイボウズのグループウェアは、ポカリチームがプロダクト開発チームと連携しつつ、アクセシビリティ向上に日々取り組んでいます。サイボウズ アクセシビリティ | Cybozu Accessibilityで情報を発信していくのでご覧ください。

2. オフィスソフト : Office 365

用途 : プレゼンテーション資料の作成・閲覧、ファイルの共有
使いやすさ : 試行錯誤が必要
参考リンク : 
  ・Office 製品のアクセシビリティ - マイクロソフト アクセシビリティ
  ・視覚障害者のためのOffice 2013操作マニュアル | SPAN

マイクロソフトの製品は積極的にアクセシビリティ向上と情報発信を行っている印象があります。

私の場合は、会議資料の閲覧/勉強会での登壇の時にPowerPoint、共有された動画ファイルを見る時にMicrosoft Streamを使っています。
ほとんどはサイボウズのグループウェアで完結するので、利用頻度はあまり高くありません。
WordやExcelの代わりに、kintoneスペースアプリを使っています。

私は利用していないのですが、Microsoft Teamsをスクリーンリーダーで使っているという事例をよく聞きます。Microsoft Teams のキーボード ショートカットMicrosoft Teams 音声読み上げでの利用: 第 1 回「会議」などを参照するとよさそうです。

3. ビデオ会議システム : Zoom

用途 : オンラインでのビデオ・音声会議、チャット
使いやすさ : 直感的・無難
参考リンク : 
  ・アクセシビリティ(ユーザー補助) - Zoom
  ・Zoomのホットキーとキーボードショートカット – Zoom-Support

私たちのチームでは、ほとんどZoomで繋いで、打ち合わせをしたりモブプログラミングをしたりしています。もともとサイボウズはテレワークを普及してきましたが、コロナというご時世もあってさらに必要性が増し、Zoomは必須になりました。

いかにキーボードショートカットを使いこなすかが、Zoomを効率的に利用する上で重要だと思っています。スクリーンリーダーユーザの悩みの一つは、押したいボタンを見つけるのに時間がかかることなのですが、その点Zoomにはほとんどのボタンをショートカットキーで押すことができるため、覚えさえすれば素早く使うことができます。

4. ブラウザー : Google Chrome

用途 : ネット検索・閲覧、アクセシビリティ検証
使いやすさ : 直感的・無難

さまざまなブラウザーとさまざまなスクリーンリーダーがありますが、Google ChromeとNVDAの組み合わせが最も使いやすいと思っています(好みの問題)。メインはChromeですが、アクセシビリティ検証用にFirefox・Edge・SafariをPC・iPhoneに入れています。

5. メーラー : Thunderbird

用途 : メール・カレンダーの読み書き
使いやすさ : 直感的・無難
参考リンク : 
  ・Thunderbird のアクセシビリティ機能 | Thunderbird ヘルプ

メーラーはNVDA+Thunderbirdが最も使いやすいと思っています(好みの問題)。他にOutlookかGmailがありますが、Thunderbirdの使い勝手が群を抜いています。

6. エディター : Visual Studio Code

用途 : 文書作成、プログラミング
使いやすさ : 試行錯誤が必要
参考リンク : 
  ・Accessibility - vscode
  ・Keyboard shortcuts for Windows - Visual Studio Code(PDF)
  ・Visual Studio Code キーボード ショートカット - Qiita

Visual Studio Code(VSCode)はマイクロソフト社が提供している高機能テキストエディタで、NVDAで利用できるエディタの中でも最強と思っています。単なる文書作成にとどまらず、プログラミングのコードエディタとして使ったり、Gitでバージョン管理したりといろいろなことができます。

VSCodeを効率的に使うには、いかにショートカットキーを使いこなすかが鍵だと思います。機能が多いので、習熟するまでに時間がかかりますが、これさえ覚えてしまえばエディター問題は解決でしょう。VSCodeは、リリースノートでアクセシビリティの改善に関するセクションをしばしば見るので、今後に期待もできます。

私たちポカリチームでも、VSCodeはフル活用しています。複数人でファイルを共有する機能を使って、会議の議事録をリアルタイムで閲覧・編集したり、意見を言い合いながらプログラミングをしたりしています。

7. パスワードマネージャー : Enpass

用途 : パスワードの一元管理、自動入力
使いやすさ : 著しく困難

パスワードの管理にはEnpassが推奨されています。しかし、スクリーンリーダーではかなり使いにくいようでした。ボタンがたくさん並んでいるけれど、それらには一切ラベル(ボタン名)のテキストがないですし、ボタンを押すためにマウスクリックを発火させる必要があるなど、大きな障壁が立ちはだかっていました。

代替策として、サイボウズグループウェアのGaroonには個人のメモをを保存できるメモアプリケーションがあるので、そこに書き留めて管理しています。ちなみに、クラウドなのでPC紛失などで焼失したり漏洩したりする恐れがありません。意外と使える機能です。

余談ですが、私はプライベートではLastPassを使っていて、これは問題なく使えています。

8. オンラインホワイトボード : Miro

用途 : ホワイトボード(付箋・看板・ブレーンストーミング)
使いやすさ : 著しく困難

Miroはデジタルのホワイトボードで、デジタルの付箋を貼ったり、関係図を書いたり、アイデア出し・グルーピングをしたりと、あらゆる可能性を秘めたツールのようです。

スクリーンリーダーでは書いてあることを読めないなど大きな問題があります。会議で時々使われる時は、口頭で補足してもらったりしています。

視覚に訴えるグラフィカルなツールはスクリーンリーダーでのアクセスが難しくなります。良い方法はないのかと模索しています。

9. ソース管理 : GitHub

用途 : ソースコード・バージョン管理、協同開発
使いやすさ : 試行錯誤が必要

共同開発には欠かせないGitHubは、スクリーンリーダーで十分使うことができます。特定の行をピンポイントで指し示したり、ファイルの差分を確認したり、一部難しかったり試行錯誤が必要なところは多々ありますが、おおむね使えます。
また、ページの各所にスクリーンリーダーユーザに補足して伝えるテキストが埋め込まれているので、GitHub開発者はアクセシビリティ面も考えているのでしょう。

10. タスク管理 : Trello

用途 : タスクの見える化、進捗・ステータス管理
使いやすさ : 試行錯誤が必要

タスク管理にはサイボウズのkintoneを使っていますが、他に方法がないかと少し模索したことがありました。Trelloは少なくとも基本的な機能(タスクやステータスの追加・移動)はNVDAでできました。
その他、私は使ったことがないのですが、Backlogは、スクリーンリーダーユーザの意見をきっかけにこつこつとアクセシビリティ改善に取り組んでいるようです。
2019年のアクセシビリティのイベントで発表されたスライド、サービス運営しながら小さくコツコツ始めるアクセシビリティ改善でその道のりが語られています。

ツールの使い勝手をフィードバックしていくことが大事

以上、私が普段仕事で使っているツールを紹介してきました。5か月働いてみていますが、思いのほか不自由ないです。グループウェアが(試行錯誤は必要だけれど)十分使いこなせるというのが大きいです。

就活性の皆さん、ぜひ、こういうツールは使える・使いにくいというのを面接官・同僚・情シスの方々にフィードバックしていって欲しいと思っています。
実際、雇用する側としてもスクリーンリーダーで自社システムを使えるのか・仕事できるのかは気になっているでしょう。
最後に、それぞれの立場でできることをまとめます。

スクリーンリーダーユーザとしてできること
・(言うまでもありませんが)試行錯誤すること
・使いやすい/使いにくい体験を周囲に伝えていくこと
・新システムの選定の際にはスクリーンリーダーユーザーとしての観点をフィードバックしていくこと

同僚・情シスの方にお願いすると良いこと
・どうしたらお互いにとって使いやすいのか模索していくこと
・普段から観察してみること、問いを投げかけてみること
・新システムを導入する際には、アクセシビリティの観点も交えつつ当事者に聞きながら選定すること

私たちのようなスクリーンリーダーユーザーが抱えている問題は、そのユーザーだけではなくて、チーム共通の問題です。課題に感じていることや改善案をフィードバックしてチーム全体で良いやり方を模索していくと、チームの生産性が向上したり、お互いのことをよく知れたり、心理的安全性が高まったりします。

周囲に伝えていくことは、(それがスクリーンリーダー特有の問題だと感じてしまうがために)抵抗感があったりうしろめたさを感じたりするかもしれません。私自身がそうで、なかなか言えないこともあります。
しかし、伝えていくことで個人ないしはチームにとってプラスになると考えれば素晴らしいことです。お互いにとってより良い方法を模索できると良いですよね。

予告

次回は「自己(の障害)を周囲にどう表現、どう伝えていけば良いか」についてお話ししたいと思います。
9/11に公開予定です。

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公開しました。


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