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スピッツとの出会いは「シロクマ」と『とげまる』だった

 今回は、私がスピッツにハマるきっかけになったアルバム「とげまる」について語りたい。一番好きなアルバムとしては【さざなみCD】を挙げているが、私とスピッツはこのCDから始まった。いわば馴れ初めのようなものだ。ちょっと恥ずかしいね。

 2010年頃、私はラジオっ子になっていた。きっかけは、自宅にあったCDラジカセだっただろう。なぜか同じ型のものが家の中に2台存在し、1つをほぼ私物化して使っていても怒られなかったゆえ、部屋にこもってラジオを聴く日々を送っていた。地元のFM局を一日中流し続け、当時は番組のタイムテーブルも暗記していたレベルだ。
 ラジオでかかった曲で気になったものがあればアーティスト名とタイトルをメモする、という勤勉ラジオリスナーだった私が、一聴で心を奪われたのが「シロクマ/スピッツ」だった。スピッツの有名曲は聴いたことがあっても、リアルタイムの新曲を聴いてもそれがあのスピッツとはなかなか結びつかなかった。この1曲との出会いがその後の私の音楽人生を変えることになる。
 CDラジカセはカセットでラジオを録音することができて、「シロクマ」が流れる度に録音していた。ラジオではしばしば音楽の上にDJの声が入り込んだり曲の途中で切られたりする中で、どうにかフルバージョンを録音できてからは、1日に何回も繰り返して聴いていた。
 たった1曲の、何がそんなに私の心を掴んだのかは今となっては分からない。しかし、今聴いてもたしかにいい曲だし、あの頃の興奮は忘れていない。本当に好きな曲だ。

 好きな曲であるのに変わりはないのだけど、さらにこの曲、そして収録されたアルバムが好きになった理由は別にある。それは、父がこのアルバム「とげまる」を購入していたことだった。
 当時の私は自分の気に入った曲について語ることはなかったし、父も私が「シロクマ」が好きだとは知らなかったようだ。しかし、元々音楽が好きでCDを衝動買いすることのある父のことだ、おそらく何かが気になってこのアルバムを買ったのだろう。それを家の中で見つけてからは、シロクマはもちろん、それ以外の曲も飽きるほど聴き続けた。
 思い返すと、私にとって、人生で初めて「好きなCD」ができた時だったように思う。今でももちろん好きなアルバムではあるが、そういった特別な意味があるということもあって、ある種の情がわく、と言った感情を持つCDでもある。

 というわけで、ここまでで一通りのアルバムとしての思い出を書き連ねてきました。以下は、全曲感想&思い出語り。

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01. ビギナー

 →【ライブ映像
 タイトル通り、1曲目にふさわしい、“始まり”の曲。イメージとしては夜明けとか、そういう印象を受ける。
 全力疾走してるときにふと、「だけど追いかける 君に届くまで」っていうサビの歌詞を思い出す。結構走れそうな感じする。
 あと、スピッツの歌詞ってわりと名詞句が並ぶことが多いんだけど、この曲でいうと「理想家の覚悟 つまずいた後のすり傷の痛み」がそれに当たる。名詞句の列挙って、文法的に考えると並列か修飾かって感じするけど、スピッツの場合はどちらともとれたり、どちらにも当てはまらないような気がしたりする。ここに関しても正直判断がつかない。だからこそ、あらゆる解釈が存在しうるし認められるんだろうなあと。

02. 探検隊

 正直、最近はこれを聴いてると、こっちの方が1曲目っぽい。疾走感というか、ジャカジャカ感? みたいなのが幕開けっぽさを出してるんじゃないかなあ。
 今歌詞見て初めて知ったんだけど、「ああ」じゃなくて「Ah」とか「Uh」でもなくて「あゝ」って表記なのね…… スピッツには珍しい気がする。
 その「あゝ」の直後に来るのが「ピカプカ」という聞いたこともない擬態語。ピカピカもプカプカも存在するけど、それを足そうなんて誰が思いつくだろうか? しかもこれが副詞じゃなくて「ピカプカな」という形容動詞なのである。スピッツにそういうのっていくつかあると思うが、聴いてるときにはスっと耳に入ってくるけど、よく考えてみると分からない造語、というのを作り出す天才なのだろう。

03. シロクマ

 →【MV
 最愛の曲。出会いについては上述の通り。
 歌い出しから「すごく疲れたシロクマです」っていう名乗りに、斬新さを感じた。“ここからの語りはシロクマ目線です”、という宣言。
 ただ、このシロクマっていうのは、疲弊した現代人のことなんじゃないかと思える。「慌ただしい毎日 ここはどこだ」って、自らをシロクマであると思い込むことで現実逃避するみたいな。
 サビの歌詞「今すぐ抜け出して 君と笑いたい」っていうのも、真っ直ぐで素敵な歌詞なんだけど、それだけ日々のストレスが溜まってるんだろうか…… と思ってしまった。
 ラストの歌詞も「なんとなくでは終われない 星になる少し前に」って、ちょっと不安になるような感じ。星になるって死の比喩表現じゃないですか……? なんとなく、本当になんとなくだけど、疲弊しきった社畜の図が浮かぶ…………

04. 恋する凡人

 自らを「恋する凡人」と自称する歌い出し。確かに、物語の主人公はいつも何か特別なものがあるから、恋する非凡かもしれない。そうじゃなくて、「やり方なんて習ってない」と平凡であることをアピールしている。それでも「変わりたい 何度思ったか」と前向きな姿勢も示している。
 サビの「今走るんだ どしゃ降りの中を 明日が見えなくなっても」は、雨の日とか全力疾走してるときとかに思い出す。走ればなんとかなる、って言ってくれてる気がして、背中を押される大事な歌詞だ。(あとこの箇所はコーラスがとても良い。)
 この曲の最大空耳ポイントは「その眼差しに刺さりたい」→「そのまま雑誌に刺さりたい」(過去の私)ですね。あと「力ではもう止められない」→「力では求められない」(過去の私)、物理かなんかか? と思っていた。
 「君みたいないい匂いの人に 生まれて初めて出会って」←匂いフェチか? と思ったが、私のも鼻がよくきくタイプなので匂いには敏感だ。本能的に好きな匂いがあるって言うやつ。遺伝子的に近いものを不快に思い、遠いものをいい匂いだと感じて好む傾向がある、って話。それを思い出した。ちなみに私の好きな香りはシトラス系です。私の誕生日プレゼントにアロマディフューザーとかルームフレグランスをくれようとしてる人は参考にしてください(誰?)。
 最後、「これ以上は歌詞にできない」っていう歌詞で終わるの、斬新すぎませんか? そしてその後ジャッ ジャッ ジャ-ン、とあっさりと3音で終わっていく。

05. つぐみ

 →【MV
  頭のドラムが格好良い。崎ちゃーん! スキー! からの、「愛してる それだけじゃ足りないけど 言わなくちゃ」って、とってもかわいらしい歌詞で始まるこの曲。明るい曲調だし、なんか穏やかで素敵な愛の歌なのかなと推察する。
 余談だけど、世の中、コミュニケーション不足で失敗してる例が多すぎるんですよね。そういうのを諌めてる歌詞に聞こえる。私も自分がコミュ障であることを分かってるから、できるだけコミュニケーション不足にならないように頑張って生きているんだが、みんなももうちょっと気をつけた方がいいと思うよ(誰目線)。
 ラスサビ前の「言わなくちゃ 言わなくちゃ できるだけ真面目に」は、とても心に刺さる。しかもこの前の歌詞が「愛してる この命 明日には尽きるかも」と、やや切羽詰まった印象を受けるフレーズなのだ。死ぬ前に伝えたいことはちゃんと言っておかなきゃ残せないよ、ってことかなあ。
 余談だけど、死ぬ前に誰かに何か伝えたいことってあるかなあ、とふと思うことがある。例えば家族に感謝を伝えておくべきだったとか、好きだった相手に好意を伝えたかったとか、そういうのがもしあったら嫌だなあとは私も思う。だからちゃんと伝えられるときに伝えるようにしなきゃね。

06. 新月

 音楽的な耳のない私だけど、この曲はピアノが良い! 気がする!全編通してピアノがかなり強く使われている。イントロもアウトロもピアノの同じフレーズが目立っている。
 イントロからじわじわ広がる音が、新月の夜の暗闇を照らす光みたいに感じられる。
 この曲は歌詞を見ると比較的短い。しかし曲の長さは5分超と、スピッツの中では長い方にあたる。言葉は少ないけれど、ゆっくりなテンポとか余韻とか、そういうのが込められているんだろう。
 なんとなくちょっと暗い曲調に聴こえるんだが、「明日には会える」みたいな未来志向の歌詞も含まれていて、ただ暗いだけじゃなくて、明るさを含んでいる。新月の次からは満月の日まで明るくなり続けるからね。そういうことを示しているんじゃないかと、なんとなく思った。

07. 花の写真

 物語は、遠く離れた「君」に花の写真と手紙を封筒に入れて送る「僕」の視点で語られる。毎年同じ花が咲いては写真に撮って送っているようだが、この両者の関係は何だろうか。遠距離恋愛中のカップルか、はたまた親子か親族か。どんな関係性にせよ、手紙を送り合うというのは良いなと思う(私が手書き文字が好きなのもある)し、花で季節を感じてそれを他者と共有するというのも風流だなあと思って羨ましい(私の名前が花に関係してるのもある)。
 ちなみに私は遠距離恋愛中のカップルである、という説を推したい。わざわざ花の写真を送っている、しかも黄色い封筒を選んで、ということはかなり意味があるように思えるのだ。ただの家族とかだったら、わざわざ封筒の色まで気遣わなさそうだし、それを覚えていなさそうなのだ。しかも、「僕らの明日も 澄み渡りますように」と、“僕ら”という一人称、そして“明日”という未来を意識しているところから、どこかでこの2人の未来が交わるんじゃないだろうかと思わせてくる。
 この曲の1番は「いつかは終わりが来ることも 認めたくないけど分かってる」っていう歌詞。時々“認めたくない”けれど、いかなる場合もこの世の真理である“終わり”。ふとした瞬間にこの歌詞を思い出して、現実を突きつけられて悲しく苦しい気持ちになることがある。けれど真理だから目を背けることはできないんですよね……
 これを前述の遠恋カップルに当てはめると、“恋愛にはいつか終わりが来る”という意味にも、“たとえ結婚したとしてもいずれ死がやってきて別れがやってくる”という意味にも取れる。いずれにせよ別離だ。 辛いね…… ほんとにね……(別離が弱点の女こと私)
 

08. 幻のドラゴン

 そもそもドラゴンっていうのは幻の生物のはずでは? と思ってる。だから、同語反復に見えるタイトル。でも、改めて考えるとドラゴンって何なんだろうな。なんとなくイメージする姿はあるけど、それをなぜ私がドラゴンだと思い込んでいるのか。そもそもドラゴンって何なんだ……?(迷宮)
 サビの「君に夢中で泣きたい」というフレーズはたしかCMソングになっていた時にも使われていた箇所。とにかく「君」しか見えてないんだろう。だから君に夢中になって、その上泣いてしまいたい、と。ここでいう“泣く”っていうのは、あらゆる感情のMAXの状態を指していて、例えば「君」への愛しさとか好きとか、そういうものが最高潮になっている状態のことなんじゃないかな。それほどまでに想う相手がいるということが素敵なことだし、そこまで想われている「君」が羨ましくもある。
 気になってるのは、「優柔不断な気持ちはマッキーで塗りつぶす」っていう部分。マッキーっていう商標が歌詞に含まれてたら歌番組では歌えないんだろうか、なんて。まあそもそもスピッツは歌番組に出ることが少ないし、この曲をあえて歌うこともない気がするのでただの杞憂だ。
 曲中で何度か出てくる「燃えているのは幻のドラゴン」という表現。ドラゴンが燃えているとは? 燃えて命を削っている、みたいなのをイメージしたが、ふと地元球団の応援歌を思い出して、そういや燃えろドラゴンズって言ってたな…… と。ドラゴンが燃えるっていうのはメジャーな表現なのか?

09. TRABANT

 イントロからしてギタージャカジャカ系のロックな感じ。こういう、スピッツがロックバンドであるということを強調してくる曲、嫌いじゃないよ(むしろとても好き)。
 「部外者には落ちまいと」という表現は、個人的には結構お気に入り。第三者ではなく、当事者でいたいという意味かなあって。私自身、いろんなことに首を突っ込みがちで、わりと「部外者には落ちまいと」思想の持ち主かもしれないなあ、なんてね。
 ラスサビの「ギリギリの持ち物と とっておきのときめき」という対比が面白い。持ち物はギリギリ、つまり最小限だけれど、とっておきの、最大のときめきを持って行く、ってなんか素敵だなあって。ときめきさえあればわりとどこにでも行けそうな気がしてきちゃうよね。しかも、ときめきってことは誰か/何かに対する感情だから、1人じゃないってことで。そこまでを想像させる上手い表現だなあと関心している(超上から目線)。

10. 聞かせてよ

 冒頭、ベースか何かの僅かな音から始まってイントロに繋がっていくところを初めて聴いたとき、非常に感動した記憶がある。CDラジカセで聴いていた頃には気付けなかった音が、イヤホンで聴いて初めて聴こえてきて、
 「聞かせてよ」という言葉、個人的にはとても好き。まあそれは私がおしゃべり好きなのもあるけど、人に対して話すって自己表現でありながら自分を認めてもらうための手段でもあるから、相手から「聞かせてよ」って言われるのは自分の存在が認められている、承認されていることを明示しているように思えるのだ。
 ここでは「ありふれた愛の歌」とあるから、きっと聞いてほしいのは曲なんだろう。いずれにせよ、自己承認欲求ではあるような気がする。そして、それを認めてくれているということだから、きっと相手にとっての自分も、自分にとっての相手も、どちらも大切な存在で、なくてはならないくらいの関係性なんだろうなあ。

11. えにし

 サビの歌詞は「伝えたい言葉が 溢れそうなほどあった だけど愛しくて 忘れちまった」。恋する相手に言いたいことがたくさんあって、前の日から色々シミュレーションしてたのに、いざ目の前にすると何も言えなくなっちゃった! みたいなシーンを少女漫画でよく見ますよね。イメージはそんな感じかなあって。ただ、スピッツが歌うともうちょっと歳上の、大人の恋愛に聞こえる。しかも、スマートな恋愛ができる大人じゃなくって、ちょっと不器用でもどかしくて、でもあたたかい恋。ここまで全部妄想なんですが、20代半ばではそういう恋愛をしてみたいものです。
 さらに、サビの最後では「君に出会えてよかった」とまで言う。これは相当惚れ込んでいる。まあ出会いというのは常々奇跡だなあと思うが、それを相手に直接伝えるって照れくさいし恥ずかしいけど、それでも伝えたくなってしまうくらいの「君」なんだろう。そう思える相手がいること、そういう関係性、羨ましいなあ。


12. 若葉

 →【MV
 「若葉の茂る頃」だから初夏ソングかな。
 サビ直前の歌詞は「ずっと続くんだと思い込んでいたけど 指の隙間からこぼれていった」で、サビに繋がっていくわけだが、失恋とか別れの歌に聴こえる。切なげな曲の雰囲気も相まって、相手がいなくなってしまった、振られてしまったのかなと想像してしまう。思い返すといろんなことがあった、あんな季節こんな季節にあんなことをした、どれも素敵な思い出で今も残っている──
 感想のギターソロが格好良い。音聴いてるだけで、格好良く弾きあげるテツヤの姿が浮かぶ。ああ、スピッツのライブに行きたくなってきてしまった。

13. どんどどん

 イントロから「どんどどん どんどどん」ってフレーズを繰り返してるように聞こえる。
 当時、衝撃を受けた歌詞は1番Aメロ「僕のハンドル 壊れてるくさい」。壊れてる+臭いという意味かと思っていたんだが(イメージは車のハンドルの合皮部分が劣化して臭いすら発し始めている感じ)、“壊れてるっぽい”って意味なのだろうとそれなりに年数経ってから思い至った。
 ちなみにその直前も「天使はシラフではつらい」っていう夢も何も無い言葉。まあそういう天使も、いる、んだろう……?
 あとは「青とピンクの 音に酔いましょう」というフレーズ。音に色が見える人(共感覚)もいるのかもしれないが、私にはいまいちイメージがつかない。青とピンクの音……? それがどういうものかを考えるのが、これからの私の課題かも。時間をかけて考えてみたい。
 この曲は最後が「終わらないで 終わらないで」という歌詞で終わっていく。私は別離と終焉が苦手で、永遠に弱くて、そういう物語はかなりの確率で泣いてしまう。だから終わりが怖いという感情はかなり理解できる。「終わらないで」とある種縋るような言葉を使ってまで終焉から逃れたい気持ちが現れているんだろう、と私は理解している。

14. 君は太陽

 →【MV
 「君は太陽」って、好きとか愛してるとか、そういう普通の告白を超えるだけの愛情が込められているような気がする。好きな人/物ってたくさんあるだろうけど、太陽ってこの世に一つだけだし、「君」をそれに例えるというのは相当の愛情と意味があるように思える。

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 以上、全曲感想でした。公式でMVが上がってるものについてはYouTubeリンクを載せています。MVのない曲はぜひ各種サブスクで聴いてみてください。
 私は「シロクマ」という曲、そしてこのアルバムとの出会いから、本格的にスピッツを好きになった。振り返ると8~9年も前のことになる。この記事を書くにあたって何回もリピート再生したが、かなり好きなアルバムだから、ほとんど全ての曲の歌詞を覚えていて、気付くと口から歌いだしていた。そういうアルバムってあまり多くないし、やはり何年経っても私にとってはとても意味のある、それでいて大事な、大好きなアルバムであることを再確認した。ぜひ貴方にも聴いてみてほしい。そして、もし気に入った曲があると私は嬉しいし、私と違う解釈があればぜひ教えていただきたい。
 というわけで、「とげまる」、いい曲多いので聴いてみてくださいね。

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