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青い花を摘む前に|素描 〜そして《カフェ・ファンタジア》について

「こんなにも儚く美しく悲しいひとがこの世にいたのかと...体ごと抱きしめて、世界中の風から守って、二度と泣かなくていいように、と...」

 青年の口元を皮肉な、寂しげな笑みがかすめる。

「そして、あのひとの目に僕しか映らないようにするために、必要なら少し傷つけてでも、僕という存在を深く刻印したいと望む...愚かな生き物なのですよ――

 あのひとはいまも青い花咲く野辺にたたずみ、僕が来るのを待っている...それはわかっていますよ...でも、僕には行けないのです。――あなたなら、行けますか?」


* * * 

いつかの朝、目が覚めて、ふと降りてきたイメージを書き留めつつ(この時はすごく具体的でした…夢でも見ていたのかな)、

ああこれは、以前書いたネモフィラの女性の想い人だな、と気づいて。

こんなふうな、ストーリー展開のないお話のかけらを書くのは、小説を書くのとは別種の愉しさがありますね。枠組みを決めない分、自由なのかもしれません。

* * * 
 名前を、たとえば《カフェ・ファンタジア》としましょうか。
 そこにくるお客さんはみんな物語の登場人物。

 汀さんは、店員さんに
「いつものフレーバーを、今日はキーマンと雲南と…それから――ディンブラかルフナかはおまかせするわ」
 店員さん、しばし汀さんの表情を計り、
「では、ルフナにしますが、アッサムも少し入れましょうか、あるいはケニヤのCTCでも? 浮かないご様子なので、気持ちを落ち着かせたいなら」
「…おまかせするわ」
とか言いながら(汀さん紅茶好きなのね♡)、店員さんが運んで来てくれた、ミルクガラスの白いティーカップに、高温でヒビが入らないように先にミルクをそそいでから、熱い紅茶を継ぎ足します。

 ふう…と息をついて、ふと聞こえてくる話し声に耳をかたむける...

 そこで、聞こえてきたのが、冒頭の青年の声...というわけです。

 でも、ネモフィラの女性、ずっと待っているのに…と内心気が気でない汀さん。

 このおふたりさんがどうなるのか、またいつかふっと聞こえてきたら、汀さんに書き留めておいてもらいましょう。

 ふたりで《カフェ・ファンタジア》に来てくれたらいいのになあ…🤔


ご参考までに。ミルクガラスのティーカップとソーサー。イギリス製の、いわゆるヴィンテージ。以前、テーブルフォト用にセッティングしたものです。↓


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