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追憶の味 ニンニクと唐辛子のスープパスタ

その昔、代官山の旧山手通り沿いに「peco」というイタリア料理店があった。あの辺りでは珍しく野ざらしの食堂みたいな店で、でも来ている人たちは結構イケイケで、結局やっぱり代官山だよね、ここは、みたいな腑の落ち方をする店だった。当時勤めていた恵比寿の会社から近かったので、仲の良かった仕事仲間とまあよく通った。だいたいオーダーするものは一緒で、サラダ食べて、ピッツァ食べて、あともう一つくらい食べて、締めは絶対に「ニンニクと唐辛子のスープパスタ」。このパスタに行き着くために、他のメニューがあったと言っても過言ではない。狙いはいつもここにあった。不思議なことに、あんなにばかみたいに食べていたはずなのに、メニューにこのパスタがなんと書かれていたのか、いまいち自信がない。多分「ニンニクと唐辛子のスープパスタ」だったと思うのだけれど、ペペロンチーノ風スープパスタだったような気もするし違う気もする。

鶏のスープとトマトソースで、突如フラッシュバック

「peco」に行かなくなったのは、閉店してしまったからだ。そして「ニンニクと唐辛子のスープパスタ」への熱狂は、意外にあっさりと冷めてしまった。若かったのかな。あの味を再現しようと家で何度もトライしていたのに。店が閉まってからは多分一度も作っていない。

さらに、なぜだろう。二拠点先の湯河原の家で、たまたま実家から送られて来た大量のトマトでトマトソースを作り、知人が作ってくれた鶏料理で骨からとったスープがあって、その2つをみた瞬間「ニンニクと唐辛子のスープパスタ」が蘇った。旨辛でちょっと酸っぱくて、やみつきになって飲んだ記憶の破片が、とんでもないところから飛んできて刺さったのだ。ニンニクはある、スパゲッティーニもある、ドライオレガノもある(バジルだったかな・・・)、つまり、できる。

実を言えば、最初「peco」の名前すら忘れていて「代官山の唐辛子とニンニクのスープパスタが、めちゃめちゃ美味しかった店」としか思い出せなかった。つなぎ合わせて検索して「peco」に行き当たり、店のオープンが1989年で、神泉に移転して「ピオッピーノ」という店で同じようにこのメニューを出していて、2018年12月に再び閉店したのを今更ながら知った。

記憶を辿ってレシピを再現してみた

関心を失っていた自分と、20年近く経って猛烈に記憶を呼び起こしている自分に驚きながらも手は動いていた。

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材料はシンプル。シソは本当は入ってない(あったので)。ニンニクと唐辛子はもっとたっぷりだけれど、一人分なのでちょっと控えめに。鶏のスープ、細めのパスタのスパゲッティーニ、そしてトマトソース。

多めのオリーブオイルでニンニクをまずは炒める。香りが出るけど焦げないくらいに炒めたら赤唐辛子を入れて、鶏のスープをたっぷり入れる。

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「peco」で、鶏のスープは丸鶏のガラで取ると言っていたのを思い出した。今回は軍鶏の若鶏の丸焼きの残りでとったスープ。ちょっと贅沢。

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硬めに茹でた細麺パスタを入れて、

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ドライオレガノ(ドライバジルだったかなー)を入れて、仕上げにトマトソース(自家製)を。

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「peco」では、ラーメンの大盛り丼みたいなサイズのボールで供されていた。今、手元に丼もないし、ちょっと小盛りになってしまったけれど、着火した好奇心をおさめるには十分。オレガノが良すぎちゃって、もうちょいひねたくらいの香りのが、ぽいなーと思いながら、それでもトマトソースが鶏スープに溶けて馴染んで、トマトの酸味とニンニクと唐辛子が合わさって猛烈に誘う。これですよこれ。今年の夏は、久々にマイブーム復活の予感。



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