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現場調査の話③-参与観察で何を見る?-

 今回のお話は、参与観察で”どのような事象や物事を観察し、記録するのか”についてです。前回は参与観察の概要についてしかお話できなかったので、前回の記事の補足的な位置づけで閲覧していただけると幸いです。

参与観察を実施する上での前提

 調査をする上で前提となることがあります。それは、調査者が抱えている問いを明確にしておくことです。調査者は現場に入る前に、人に聞いたり、本や記事を読んだりして、調査をしようとする現場のことを把握すると思います(事前調査)。事前調査を行い、自分の中の問いをしっかり持った上で、現場での参与観察に臨むことが重要です。基本的には"how","why" の形で問いを作ればいいと思います。

下記に問いの例を列挙します。

調査開始時点での問いの例
・農作業や三輪車の手入れをする場
⇨農家の方々はどのように農作業の機械を手入れしているのだろう?農業に対する思いはどのようなものだろう

・生活困窮者支援の活動現場
なぜ支援活動を継続できているのだろう?どのように支援活動をしているのだろう?

・地域の伝統的な祭りなどの伝統行事
⇨地域住人は祭りを開催するにあたりどのような準備をしているのだろう?どのように地域全体を巻き込んでいるのだろう?

・病院での看護業務やリハビリテーションの場
⇨患者さんが安楽に感じるケアにはどのようなものがあるのだろう?どうすれば、定時で退社できるのだろうか?
事例は前回の記事(現場調査の話②)より

 というのも、事前調査を十分にせずに現場調査を行う場合、「そもそも何を知りたかったのか?」という疑問に苛まれることが往々にしてあります。疑問を抱えたまま調査をしても、現場の実態を掴むことは難しいのではないかと思います。というわけで、現場調査の前には自分なりの問いを必ず持っておきましょう!

参与観察で見るもの、記録するもの

調査初期

 調査の初期は、自分の見たもの、聞いたもの全てをありのままに記録を取り、フィールドノーツを作成することをお勧めします。調査の初期段階において、自分の問いは一般的に広く、浅いものであることが多いです。そのため、ありのままに記録し、調査後にフィールドノーツを見直すことで、現場ではどのような事象が多いのかどのような人々の行動が多いのか、など把握することが可能になります(オープンコーディング)。

※ここではコーディングなど、フィールドノーツを使った分析方法については言及できないため、関心のある方は成書をご一読すると理解が深まると思います。

調査後期

 この時期になると、フィールドノーツの分析が進んでいるため、ある程度自分の問いを具体的かつ深いものになっています。

農作業の事例を挙げると
(初期)農家の方々はどのように農作業の機械を手入れしているのだろう?

(後期)農作業の機械を長く使うための工夫にはどのようなものがあるのだろう?
※農業の専門家ではないため、問いが浅くて申し訳ございません…

 問いが具体的になると、研究設問(リサーチクエスチョン)と呼べるものになっていることが多いです。ここまで来ると、学術的にも意味のある問いに昇華されています。この段階では具体的な問いを明らかにしてくれる対象の行動現場のマネジメント方法などに焦点を絞った観察をして、フィールドノーツの記録をとると良いです。

(参考)
今回扱っている研究手法は質的研究と呼ばれています。質的研究は仮説形成型の研究であり、現場調査を重ねる度に、"問いから新しい問いへ"渡り歩いて行くようなイメージを持っておくといいと思います。

以上、実際に参与観察で見るもの、記録することを中心に記載させていただきました。この記事が、現場調査をされる誰かのお役に立てたら嬉しいです。

参考文献

1)佐藤郁哉.質的データ分析法-原理・方法・実践-.新曜社.2013
2)佐藤郁哉.フィールドワークの技法-問いを育てる、仮説をきたえる.新曜社.2007








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