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#137 蒼の煌めき



あの瞬間は現地で観ていました。


サイドとしては自分が座っている側だったけど、距離はそこそこあったのでその瞬間に何が起こったのかはわかっていませんでした。
しかし宇佐美が交代をアピールするジェスチャーは見えて、三浦弦太と谷口彰悟が猛スピードで駆け寄ったあの時点で、あのシーンをハッキリ見えない角度にいた人を含めた全員が「ただの怪我じゃない何かが起こった」事を察するのに時間はかからなかったでしょう。慌ててスタジアムの中でDAZNで確認すると……その映像は一時的な激痛であれという淡い希望を打ち砕くような姿でした。


ガンバ大阪にとって宇佐美貴史とはいつでも特別な選手であり、宇佐美貴史にとってのガンバ大阪も同じであるはずです。
海外移籍以外で、唯一宇佐美がガンバを出る可能性が現実的になったのが今オフでした。正直なところ、あの時…私はあのオファーが成立しても、ショックと同時に理解は出来る…とも思っていたんです。多分、彼はサッカー人生で目指していたものの中で、日本国内で叶えられるものは一つを除いて全て叶えたはずで、そして唯一叶っていない"それ"はおそらく「家長昭博と共にプレーする事」だとも思っていて。
なにより2021年の宇佐美は、彼は責任感の強さゆえにあまりにも多くのものを背負おうとし過ぎていたようにも見えたんですね。それは特に、遠藤保仁が去ってから顕著でした。当然ながら、遠藤が去って以降…ユニフォームの広告や各種ポスターのセンターに起用されるのはいつも宇佐美になる訳で、彼は責任感と共に「ガンバの象徴である為に」という意識が凄く強くなっていたし、2021年はチーム状況も含めて、彼の感じた苦しみは人一倍だったとも思うんです。


でも彼は一つの心残りをも断ち切り、象徴としての重荷を背負い続ける事を選んだ。DAZNのドキュメンタリーにおいて、それを喜びとも表現してくれた。よりにもよって川崎戦でなんて、皮肉にしては趣味が悪すぎるとは思ったけれど───今はもう、ファンとしては宇佐美貴史を待つことしか出来ない。ただ、逆に言えば待つ事なら出来るし、いつまでも待ち続けたい。


「僕の夢はプロサッカー選手になることでもなく、Jリーガーになることでもなく、ガンバ大阪の選手になることでした」


かつてそうまで言い切った男が、再びパナスタのピッチに青の煌めきを振りまくその日まで。

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