フィドルのポジションと運指(フィンガリング)

対象:
初級者~中級者向け
バイオリンでファーストポジションの音階が弾ける、これから弾こうとする方

必要な知識:
この記事では音程を度数で表記することがあります(移動ド)。ある音をドとして、そこからドレミファソラシドを考えます。(ド=I度(ルート)、レ=II度、ミ=III度、ファ=IV度……シ=VII度、ド=再びI度)
弦楽器ではピアノのように黒鍵と白鍵の区別がないので、移動ドの考え方が重要になると私は考えています。

 フィドル(バイオリン)は非常によくできた楽器です。それは形が数百年変わらないという点もそうですが、完五度楽器という点が扱いやすいです。この記事では、完全五度楽器の特徴、それに基づいたポジショニングやフィンガリングのコツについて、私が個人的に普段考えていることをまとめます。(極論を言えば考えるのではなく九九のようにすらすら運指が出てくることが本当の意味での上達だとは思いますが)

完全五度楽器とは

 完全五度楽器、というのは弦のチューニングが、低いほうから数えて隣の弦が常に五度になるようにチューニングする楽器のことです。

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 私たちが普段扱う音階は12平均律で、循環しています。したがって、数学的にも高々有限回で周期性が現れるはずなのです。現実に存在するフィドルは4弦しかありませんが、五度が半音7個分上であることと、12平均律とは互いに素であることから、フィドルの弦が仮に12本あれば再びGに戻ってくることがわかります。したがってフィドルという楽器は本来弦が12本あると極めて美しいチューニングができるのですが、実用面を考慮してそのうちの連続する4本を採用した、と考えることもできると思います。

弦1本で考えてみる

 つまるところ、弦12本で完結する楽器を4本しか見ていないから周期性が見えにくいのです。手始めに、まず弦が一本しかないが、弦の長さが無限に長いフィドルを考えます。そのような楽器を想像した時、皆さんにはどのような楽器に見えますか?私は、黒鍵と白鍵の区別がない、同時に出せる音が1音のピアノだと思います。

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 私たちがピアノを見た時、ドの位置がわかるのは、黒鍵があるからです。したがって、白鍵しかない鍵盤(隣り合う鍵盤は半音の関係)では、どこをドとみなしてもいいことになります。唯一の決まりは、ドと決めた場所の12鍵隣が再びドになる、ということだけです。さらに、弦楽器が鍵盤楽器と違う点は、その間の音も出せる自由度の高さと言えるでしょうが、それはまた別の機会に語りましょう。

 さて、この楽器で音階を奏でることを考えた際に考えるべきことは、ある音に対して次の音が半音(1鍵)上なのか、全音(2鍵)上なのか、ということになります。つまりこういうことですね。

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 フィドルは、指をくっつけると半音、離すと全音の音程に大体なるサイズに作られています。したがって、親指を除くと人間の指は4本ですから、あるポジションでカバーできるのは上の音のうち4つとなります。例えば、レに人差し指を置くと、次のようになります。

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 今、音階の幅は有限(半音or全音)であり、指の本数も定数(4本)ですから、運指のパターンは高々有限個と分かります。具体的には次の4パターンです。

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 無限に長い弦の上で、ある調の音階の音をどこかの音に人差し指を置いて弾こうとした時、必ず運指は上の4パターンのどれかになります。じゃあ小指の続きを弾こうとした時どうしましょう?ポジションチェンジして小指の次の音を人差し指で押さえればいいですね。

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複数本への拡張

 では、これを踏まえて次は、弦を複数本に増やしてみましょう。完全五度楽器は、ある開放弦から4音上(五度)の音が隣の弦になります。つまり、鍵盤を途中からコピペしていくチューニングなのです。

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 この時、完全四度でも完全六度でもなく、なぜ完全五度が便利かというと、運指もコピペされる際、4つ上の音は再び人差し指になるからです。つまり過不足がないのです。

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 もしこれが完全四度楽器だとすると、小指の音が隣の弦の人差し指と重なるので、音階を弾くときに人差し指を飛ばして中指から弾かなければいけません。完全六度に至ってはポジションチェンジなしに音階を弾けないので論外です。

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運指の推定

 では、完全五度楽器が4本の指をちょうど使い切るところで移弦ができるとわかったところで、ようやく運指パターンが見えてきます。まず、どの音を人差し指とするかは、7パターンしかありません。したがって、ある音に人差し指を置いたとき、次に人差し指を置く位置も7パターンしかないわけですから、あるパターンからあるパターンまでの状態遷移は高々7通りしかないわけです。

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 このパターン遷移は、ある弦をどのパターンで押さえたかによって、隣の弦のパターンが有限個に決定されることを示し、有限オートマトンで表現可能といいます。

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 以上をまとめると、フィドルという楽器はたとえ指板のいかなる位置に唐突にどの指を置いたとしても、調と音がわかれば運指が容易に推定できることがわかります。

実用上のポイント

 そうはいっても、演奏中にこれだけのことを考えることは到底不可能に近いところがありますし、この記事は初心者から中級者向けです。なので、実用上は、いくつかの音階を覚えといて当てはめるようにするのがいいと思います。

 まず、ファーストポジションでキーA、B、C、Dの音階をスラスラ弾けるようにしましょう。

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 この4つを覚えることで、たとえどの弦からで、どんなポジションで、どんなキーの音階を弾くことになろうと、どの指から音階を始めるかによって運指を4パターンの中から推定することができます。これが完全五度楽器のすばらしさです。

 また、実際にはルートの音以外(音階の途中)からフレーズを弾くことが多くあります。その場合は、少しややこしいですが、そのキーの近くにあるルートの音をどの指で押さえることになるのかを考えると、同様に運指を推定できるでしょう。

まとめ

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。今回は、フィドルの完全五度チューニングという特徴に注目して、音階が覚えやすくなるかもしれない着眼点を紹介しました。このように、フィドルはどの指をどの音に置くか、もっと言えば、どの音に人差し指を置くか、が非常に重要な楽器になります。ポジションチェンジの練習をするときは、適当に指先で勘ぐって音を当てるのではなく、手首より先の形を保ったまま、親指の位置を頼りに手首全体を平行移動させることで、どんなポジションであっても、ファーストポジションと同じように音階を弾くことができるようになると思います。

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 また冒頭でも述べましたが、こういったことを自然と考えずに九九のように弾けるポジションが広がっていくのが本当の意味での楽器の上達だと私は思います。皆さんの上達の役に立てば幸いです。

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