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ぼくらの漂流記 Vol.1 根がヤンキー《後編》

前回のあらすじ
長野県で生まれ育った久保田くん、地元のメインバンクに就職したものの1年で退職。Twitterでの出会いから縁が繋がり、遠く離れた福島県いわき市の中之作までたどり着いたのですが、、、。

8. ピークを知る町

——では、今いる場所について聞かせてもらえますか?

久保田
ここ中之作は、昔から地形的に港に適した場所だったようで、江戸時代には磐城平藩専用の貿易港だったんです。生活必需品が中之作から平の方に運ばれていったという、そういう場所だった。
 明治になると、石炭が近隣で採れたのでその輸出港になり、戊辰戦争では激戦地になって、昭和以後は秋刀魚の北洋漁業というもの拠点になったんです。各地の漁船が船団を組んで集合し、ロシアとか北方の遠い海洋で漁をして帰ってくる。その拠点となるような漁師町になったんですね。
 ところがその後、排他的経済水域の200海里が設定されて北洋漁業が成り立たなくなり、町がどんどん衰退していった。
そういった、ピークを知る町なんです。

——今の中之作での暮らしはどうですか?

久保田
かなりコミュニティが濃密な場所なんですよ。やっぱり漁業ってチーム戦じゃないですか。一つの船に船頭がいて乗組員がいて、丁稚がいて、みたいな。家族だけにコミュニティがとどまらず、外部にも広がっている、というような文化があって。それで今でも、町の人は家族以外にもすごくフランクに接してくれる。
 そういうのが苦手な人にはここで暮らすのは厳しいかもしれませんけど、僕も似たような文化のある場所で育ったので、お互いの顔が見えてとても暮らしやすいです。
 歩いて行ける距離に購買施設がないのでそこは不便ですけど、それ以外は、海もあって自然も綺麗で暮らしやすいです。

——漁師さんはまだいるんですか?

久保田
まだ一応漁業は残ってて、昨日も鰹の水揚げがあったみたいです。3トンとか少ない量なんですけど。魚市場の施設も一応あるけど、あまり使われていないみたいですね。

9. きっかけは「ノリ」だった

——では改めて、久保田さんの関わっている「中之作プロジェクト」とはどんなプロジェクトなんでしょう?

久保田
まず、これは、豊田善幸(とよだ・よしゆき)さんと、千晴(ちはる)さんがご夫婦でやっている事務所なんです。
 元々、建築士としていわきで活動されていた豊田さんが、震災後に中之作に来て、倒壊判定というのをやったんです。全壊なのか、半壊なのか、みたいなのを建築士が判定して、判定によって補助金が決まる、というような。
 で、今プロジェクトの拠点になっている「清航館」という建物が、元は商家の建物なんですけど、それが歴史的に貴重だということを震災前から豊田さんは知っていた。震災があったときに、それが津波で解体助成が出るので壊してしまおうという話になっていて、それはもったいないということで、豊田さんはその建物をノリで買ってしまったらしい。

——ノリで、、、。

久保田
自分でも「衝動買い」と言ってました。でも、お金も無いしどうしよう、となって、NPOを立ち上げ、補助金で回収することにした。それが、今ある中之作プロジェクトなんです。

——活動内容としてはどんなことをしてるんでしょうか?

久保田
ざっくり言えば、空き家の再生と地域のイベントの開催。最近は福祉事業にも手を出そうとしてます。

——幅広い、、、。

久保田
地域に関わることなら何でもやってます。

——その中でも特筆すべきことは何かありますか?

久保田
活動のメインは空き家再生なんですけど、そのやり方が面白くて。スタッフだけで直すんじゃなくて、ボランティアを募って一般の方向けにワークショップも開いて、大工さんにできるだけ頼らずに、自分たちの手で建物を直す、という方法をとっています。これは建築士じゃないとできない技なんです。専門職への依存度が圧倒的に低い。それが特筆すべき点じゃないかな。

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10. 若い人が集まる場所へ

——中之作プロジェクトについてはもっと掘り下げたいことばかりなんですけど、今回は久保田くんへのインタビューなので。久保田くんはもう一つ、「コウノヤ」というプロジェクトもやってますよね。

久保田
コウノヤは中之作プロジェクトの事業なんですよね(笑)。

——あちゃー。戻ってきてしまった(笑)。

久保田
中之作プロジェクトも10年やってたら、結構地元の人からも空き家の相談が来るようになって、その内の一つが今コウノヤになっている建物なんです。
 以前はお婆ちゃんが一人で住んでいた家なんですけど、一昨年亡くなって、しばらく空いていたんです。娘さんがこの家の処分を迷ってうちに相談してくれて、丁度いいタイミングで僕が職員になったので、じゃあ住めばいいんじゃね、という話になって(笑)。
 というか多分、若手職員を募集していたのって、ここの住民を確保するという要素も大きかったと思うんですよね。

——繫がった、、、。

久保田
なんか、うまくやってんなあ、って感じですよね(笑)。

——(笑)じゃあ、豊田さんは住む人を確保したかったんですか。

久保田
というか、建物を活用できる人がいなかった。当初はゲストハウスにする案もあったんですけど、僕がそこまでマネタイズする知識がなかったので、とりあえずシェアハウスでどうですか、と提案して。今の所僕しか住んでないですけど、完成を目指して活動しています。

——住み始めてどれくらいになりますか?

久保田
約半年になるかな。去年の11月ごろに入居したので。

——もう住人は募集しているんですか?

久保田
募集してます。工事が今まであまり進んでいなかったので、入居者希望者にも待ってもらっていたんですけど、徐々に工事が進んで、ようやく入居者が住めるような状況になってきた。工事が終わる8月頃には、もう人がいる状態になってます。

——どんなところを工事してるんですか?

久保田
ベコベコになっていた床を貼り直す、というのがもう少しで終わるんですけど、あとはトイレの付け替えとか間取りも変えて。はじめから状態は良い家だったので、あまり手は加えずにやれてます。

——募集ってどんな感じでしてるんですか?

久保田
直接声をかけてもらっています。中之作での生活はコミュニケーションが大切なので、希望者には、まずはワークショップに参加してください、というように伝えています。

——コウノヤは今後どんな施設になっていくんですか?

久保田
僕が一番思ってるのは、やっぱり若い人の居場所にしたいということ。いわきは若い人が集まれる場所があまりなくて。居場所がないから悩んでる人もいて、そういう人たちの居場所になればいいかな、と思ってます。
それと、中之作って、いろんな活躍の場があると思っているんです。例えば、こないだ僕は隣の空き地の草刈りをしたんですよ。勝手に(笑)。そこの所有者さんは中之作プロジェクトの会員さんなんですけど、老夫婦なんでなかなか草刈りもできない。それを、僕が草刈りしてあげたんです。すると、その方からめちゃくちゃ感謝されて、沢山贈り物をもらう、みたいなことがありました。

——やったことへの見返りがわかりやすいんですね。

久保田
そうなんです。居場所ないな、と思っていた若者がここで生活することによって、自分にも活躍できる場所があるんだな、と感じてもらいたい。そんな場所になればいいな、って思ってます。

11. 久保田くん、去る!?

——ところで、風の噂で久保田くんが中之作を離れるって聞いたんですけど、本当ですか。

久保田
そうですね(笑)。既にプロジェクトを次の人に渡すことを考えていて。その上で、コウノヤの管理人や中之作プロジェクトのスタッフになってくれる人をどう見つけ、どう地域に慣れてもらうか、そんなことを今考えています。それがひと段落した時点で、僕は地元に帰るかな。

——じゃあ安曇野に戻るってこと?

久保田
地元でバチっと決まった何かをやるとか、予定はまだ何もないんですけど、ただやっぱり僕の生まれ育った明科にもっと手を加えたいな、と。

——よりローカルな単位で、明科なんですね。

久保田
そうそう、明科に活躍の場を持ちたいなと思っていて。何をやるかは非常にふわっとしてるんですけど。でも、明科もやっぱり空き家が多いので、その再生だったり、それによって町の価値を上げていくこともしてみたい。後は地元の企業のブランディング、あるいは企画の立ち上げとか、そういうことだったら是非やりたいなって思ってます。

——どうしてこのタイミングいわきを離れるんですか?コウノヤもこれからいよいよ本格的に始まるわけですし。

久保田
割とプライベートな事情はあったりとかするんですけど(笑)

——でも、今まで久保田くんは色んな人の縁に引っ張られて、気がついたら中之作までたどり着いていた。今回はそれとは違う、久保田くん自身の決断ですよね。

久保田
いわきに来たのは修行のつもりだったんです。だからずっといる場所ではないとは最初から思ってました。今はまだ若いと言われますけど、もう少し経って30代になったら、また別の責任が生まれてきてしまうから、地元への執着があるなら、あまりいわきにグズグズいてしまうと、地元に帰れなくなってしまうような気もして。
 いわきでの仕事は、多分地元に帰ってからも請けたいなと思っています。いわきって、いわきか東京かみたいな直線的な価値観のルートなんです。だからそこに僕が関わることで、新たな視点を提示できたらいいな、と思っていて。僕が長野といわきを仕事で往復することで、お互いに新たな価値観を創造できるような、そんな2都市の媒介になれればいいかな、と。超でかい構想ですけどね(笑)。

——じゃあそれぞれの土地で働いて学んだことを別の地域でやる、みたいなイメージ?

久保田
そうそう。それができたら面白いなって。今までは東京の一極集中が進んでて、東京の価値観がどこの地域にも浸透していた。で、特にいわきはその影響を受けていたところだと思う。原発もその象徴だと思うし、昔も石炭を掘って関東に輸出していたし。でも、その枠組みって、持続可能性がないじゃないですか。結局ただ搾り取られるだけみたいな。そういう社会の構造にも立ち向かいたんです。

——じゃあ、今後地方に拠点が増える可能性もありますか?

久保田
いや、あるとしたら東京じゃないですか。残念ながら僕はそれ以外の土地を経験したことがないから。あとは知り合いのツテをたどって、北海道とかね。それぐらいじゃないかなあ。

——経済規模も文化も全く異なる複数の地域に自分の拠点を持っておけるのって、凄く良いですよね。

久保田
結局それぞれの地域に少しずつ依存してるのが一番健康じゃないですか(笑)。

——確かに。でも、ノマドではないんですね(笑)。

久保田
ノマドはないかな。僕も結局家があるので、十何代続いたという実家が。実は、いわきにも実家があるから来てる、みたいな感じがあって。要は、いつでも帰れる場所があるからここにいても大丈夫だ、という感覚が常にあるんです。

——僕も松本在住で明科は近くなので、戻ってきたら是非一緒に面白いことやりましょう。

久保田
是非、本当に。

12. 久保田的ヤンキー論

——さて、ここまでお話を聞いてきたんですが、結局、久保田くんの「根がヤンキー」というのはどういうことだったんでしょう(笑)。

久保田
結局、根の部分なんですよ。僕、地元意識めっちゃ強いし、常に俺が一番って思ってるみたいなところがあるんです。一方で外見は良くしてないと人付き合いがうまくできないと思っているし、実際臆病なんですけど。だけど、根はヤンキーなんです。

——ああ、ヤンキーって、自分の弱さを持ってるからこそ格好良いですよね。最初から強かったらツッパる必要もないし、守るべきもののために強がる、みたいな。

久保田
攻撃が最大の守備、みたいなね。なんか、ツッパってないとやられちゃうから、ってところはあると思います。

——いやあ、良い話だったなあー(笑)。ツッパリ続けた先に、今があるわけですか。

久保田
はい(笑)。

——ありがとうございました。じゃあ僕、編集頑張りますね(笑)。

久保田
はい(笑)。

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今回の一問一答(仮題) 回答者:久保田貴大
①自分を色に例えると?
ー青。
②好きな言葉は?
ー「見る目と聞く耳」。
③好きなクリエイターは?
ーカネコアヤノがめっちゃ好きっす。
④(過去、未来、フィクション問わず)誰と飲んでみたい?
ー今パッと思いついたのはピエール瀧。
⑤オールタイムベストの映画は?
ー『わたしは光をにぎっている』(脚本・監督:中川龍太郎/主演:松本穂香)
⑥好きな場所は?
ー地元、明科の長峰山の山頂。
⑦絶対にカバンの中に入っているものは?
ー印鑑は無意味に入ってますね。銀行員だったからじゃないですか?
⑧今の仕事以外に就いてみたい職業は?
ー最近やりたいなと思ったのは林業、、、というか木こり?
⑨人間以外になれるなら何になりたい?
ー猫。
⑩シメは何を食べたい派?
ー松本のラーメン藤(即答)。

《編集後記》
 僕自身、就職したものの職場や仕事に馴染めず1年で退職した身。今年退職したばかりの僕にとって、その経験を経て、いわきの地で活躍する久保田くんは、夢に出てくる1年後の自分のように眩しく感じました。
 対談に先駆け、企画について何時間も打ち合わせに付き合ってくれ、既に旧知の仲、という気でいます。
 インタビュー後の飲みでは、「自立とは依存先を増やすこと」という名言も飛び出し、地域での自分の居場所の作り方や、これからのことについても、たっぷりと話すことができました。
 僕よりも一歩先を行く久保田くんが、信州にやってくる。ちょっと先の未来が、とても楽しみになるインタビューになりました。

《次回予告:末廣優太くん(石川県加賀市)》
今年4月、久保田くんに会う前に、僕は石川県加賀市にもお邪魔していました。元々は、「ノトゲキ 」という企画で能登をリサーチしていたときに知り合った(偉大なアーティスト)あやおさんの新居を訪ねて行ったはずなのですが、そこで出会ったあやおさんのイケメン夫と意気投合してしまいまして、、、。つまりそれが末廣くんだったというわけです。
 めちゃくちゃ多忙なのに、突然のオファーにも全く動じることなく対応してくれた末廣くん。話を聞けば聞くほど、格好いいんです。メディアにも取り上げられる彼の仕事ぶりだけでなく、その生い立ちや生き様からも、学べることが多いはず!是非次回もお楽しみに!

末廣優太くんの活動についてはこちら

前回までの記事は以下よりお読みいただけます。


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