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エッセイ「天気雨」

天気雨といえば、真っ先に思い出すのは「狐の嫁入り」という言葉だ。
ご存知の通りこれは天気雨の別名であり、
私の祖母は天気雨が降る度に(そう頻繁に降るものでもないが)
「狐の嫁入りねぇ」と空に向かって狐のように目を細めていた。

しかし、考えてみると不思議である。
どうして天気雨が降ると狐が嫁に行くのか。
「狸のハイキング」とか「兎の潮干狩り」ではだめなのか。

そう思い軽くググってみると、
何やら信頼できそうな情報が見つかった。

このサイトによれば、天気雨が「狐の嫁入り」と呼ばれるのには、
①狐に化かされているような不思議な光景だから
②狐の嫁入り行列は本来人に見られてはいけないので、偽物の雨で隠している

という二つの理由が考えられているらしい。

なるほど。狐は確かに人を騙すイメージがあるし、
結婚が見られてはいけないもの、という考えはいかにも日本風だ。

古語では結婚することを「見ゆ」といった位だし、
狐が騙している→なぜ騙している?→見られたくないから→見られたくないものと言えば?→嫁入り
という発想だったのだろう。

しかし、これでは余りに古臭くないか。
狐は良いとしても、今では結婚式といえば寧ろ披露宴などで「見せる」ほうが主流なのだし、いつまでも「嫁入り」に拘っていては時代錯誤であるとの誹りを受けるのは免れないだろう。

いっそ新しい名前を考えてみるのはどうか。
現代風で、それなりの理由があって、お洒落な名前を。

そうと決まれば、まずは絶対に外せない要素から考えてみる。
「狐が人を騙している」という部分は欠かせないだろう。
これは原作リスペクトも兼ねて、
日本に古くから伝わる狐のトリッキーな印象を受け継ぐためだ。

ここに、コンテンポラリーでスタイリッシュな単語を結びつけるとしよう。
そのために、横文字はマストだ。
イニシアティブだのアセスメントだの、横文字を使っておけば現代風な響きを持たせられるのは日本語の妙である。

そして、「人に見られたくない行為」というのも、現代風である必要がある。
いかにも今の若者がやっていそうなことで、しかし人前ではしないもの…


ここで私の思考は止まる。
いくら矮小な脳みそを捻ったところで、
時代に置いて行かれた私に最近の若者のことなどわからない。
「狐のチル」とか「狐の鍵垢」とか「フォックス・エモ」とか色々考えてはみたが、私の感性の限界を思い知って恥ずかしくなるばかりで、
「狐の嫁入り」に代わる新しい呼び名など全く思いつかなかった。

やはり、「狐の嫁入り」こそ至高なのかもしれない。
ちょっと怪しい雰囲気がお洒落だし。凄く良い名前に思えてきた。
これから天気雨が降る度、今日のことを思い出して少し胸が痛むだろう。

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