見出し画像

表皮ブドウ球菌とは?美肌菌とは?

筆者紹介:福永祐一

米国サンフランシスコを拠点とする合成生物学・マイクロバイオーム関連のバイオベンチャー、Taxa Technologiesの共同創業者兼COO。ウィリアムズ大学で心理学と神経科学を専攻し、その後ドイツのマックスプランク研究所で博士課程に進学。起業のため中途退学。

X/Twitter: @bluemoon_yuichi

美容と健康に対する関心が高まる中、「美肌菌」という言葉を耳にする機会が増えているかもしれません。しかし、美肌菌とは具体的にどのようなものでしょうか?本記事では、保湿や肌を弱酸性に保つ機能を持つことから美肌菌と呼ばれている、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis, S. epidermidis)について詳しく解説します。

美肌菌バンク・美肌フローラ・オフィシャルサイトから抜粋

表皮ブドウ球菌は、コアグラーゼ陰性、グラム陽性球菌であり、通性嫌気性細菌として分類されています。つまり、酸素の有無に関わらず生存できる順応性の高い菌です(他の通性嫌気性細菌には、乳酸桿菌、大腸菌などがあります)。

コラム:ヒト常在菌の多くは嫌気性細菌である!

実は、ヒトに定着している多くの微生物は嫌気性細菌で、大気レベルの酸素がある環境下で生存することができません。つまり、ラボでシャーレ・ペトリ皿で簡単に培養したり、生きた状態で長期間保存することが難しくなっています。

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた(Alanna Collen)

皮膚の表面や鼻腔内には、多様な微生物が共生していますが、表皮ブドウ球菌はこの中でも特に一般的な存在です。(菊池 (2008) 日内会誌)ヒトの皮膚や粘膜など、自然環境下においては基本的に無害です。ただ、この菌が医療機器や人工装具に付着することによって人体・血液に入り込むと、生物膜を形成して抗生物質や免疫系の攻撃から守られてしまい、菌血症などの原因となる場合があります。(Lee and Anjum (2023) StatPearls

表皮ブドウ球菌の様子。
Fig. 1. Morphology of S. epidermidis cells. Abdallah (2021) Novel Research in Microbiology Journal Sources: https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29000633 (Light microscope), https://en.wikipedia.org/wiki/Staphylococcus_epidermidis (Electron microscope)

冒頭で少し触れた通り、表皮ブドウ球菌は近年スキンケア領域で注目されるようになっています。広告や化粧品のラベルで「美肌菌」という文字を見たこともあるのではないでしょうか。表皮ブドウ球菌は美肌菌という名称で、保湿や肌を弱酸性に保つ機能が謳われています。特定の条件下で皮膚に塗布することで、皮膚の水分蒸発を抑制し、脂質の量を増やすことが可能であると報告されているからです。例えば、ある研究では、表皮ブドウ球菌を顔に塗布&コロニー形成度を上げる(=表皮ブドウ球菌の数を増やす)した場合、皮膚の脂質(俗に、皮膚のバリア機能と呼ばれているもの)の量の増加、水分蒸発の抑制が見られています(Nodake et al. (2015) J Dermatol Sci)。よって、皮膚のバリア機能が強化され、保湿効果が向上するため、表皮ブドウ球菌をはじめとした微生物を用いたプロバイオティクスの化粧品利用が期待されています。

また、表皮ブドウ球菌は病原性の黄色ブドウ球菌(S. aureus)を抑制する効果があることが示唆されるようになっており、(鼻腔内に定着している)表皮ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌の溶血活性を抑制することがわかっています。(Nurxat et al. (2023) ACS Omega)黄色ブドウ球菌は、皮膚感染症や肺炎、心内膜炎などを引き起こすことで知られてますが(Bush and Vazquez-Pertejo (2021) MSD)、ほとんどの抗生物質に抗菌薬耐性を示すため(Mlynarczyk-Bonikowska et al. (2022) Int J Mol Sci)、抗生物質以外に黄色ブドウ球菌を抑制する方法が模索されているのですが、その中で表皮ブドウ球菌によるコロニー形成は期待されている一つの方法になっています。

Abstract Figure from Nurxat et al. (2023) ACS Omega

上記の通り、表皮ブドウ球菌は、化粧品や医薬品の新たな有効成分として応用が見込まれています。今後、この菌を利用して、どのようにして皮膚の健康を保つ、向上することができるか、さらなる機能解明に向けた研究に期待が高まります!


Taxa Technologiesでは、合成生物学・マイクロバイオーム研究を通した、消費者目線に立った新たなパーソナルケア商品を研究開発しています。先日、プレシードラウンドの資金調達を発表し、アメリカの合成生物学学会、SynBioBetaに取材いただきました📣

今後、X/Twitterを中心にサイエンス・バイオテクノロジー・スタートアップ関連の情報を共有していきますので、ぜひX/Twitterのアカウントのフォローお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?