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クラシックマッチ参戦。

コロナ禍でサッカー観戦は控えていたが、幼少以来の鞠サポには無視しがたい決戦が浮上していた。

ヴェルディvsマリノス


昨年暮れの組み合わせ抽選の頃から
「せっかくヴェルディが上がったんだし、ライバルで有名なマリノスと組ませてはどうか?」
という声は聞いていた。個人的にプライベートでは読売ファンといわれる三木谷さんがヴェルディを指名することも考えたが、結局その通りになった。いてもたってもいられなくなった自分は、何とかチケットを確保し19年の優勝決定以来となるマリノスの応援へと冬の寒空に飛び出す。奇しくもこの日はマリノスの功労者でヴェルディをキャリアスタートとする、ボンバー中澤佑二の誕生日でもある。

もともと数字とにらめっこすることが好きな自分は、過去のデータはやたらチェックする。マリノスの得意なスタジアムと苦手なスタジアム、季節による優劣、自宅から国立競技場に至るまでの道中Jリーグのデータファンタジーサッカ―研究室そして自分の観戦記録といったデータ庫を漁る。途中赤ん坊を抱いた婦人に席を譲り席を立っている間も数字とにらめっこは続いた。
(ちょっとでも徳を積んでマリノスに勝利を…!)
という本音いや、打算があったのは否定しない。

「ヴェルディvsマリノス リーグ戦」:18勝11敗5分。マリノスが優勢
「ヴェルディvsマリノス@国立」:6勝8敗。8敗のうち3敗は延長負け
「ヴェルディvsマリノス 雨」:6勝3敗1分。これもマリノス優勢
「ヴェルディvsマリノス 開幕戦」:1戦1勝。31年ぶり
「佐藤 @国立」:マリノスは2勝1敗
※何れも23年終了時点。

アントラーズvsジュビロにも言えるが「ライバル対決」にしては星は良い。その点で国立は若干分が悪いが、雨は追い風だ。
しかしこの寒さ…客泣かせにもほどがある。ホットココアで何とか寒さを凌ぐ。ブランクといえばそれまでだが防寒対策が手薄過ぎた。「運鈍根」の内運以外がサッパリなので準備の類は不得手だ。一日違いとは言え野津田(町田の本拠)ではもっと悲惨だったと聞いている。言ってしまうと田嶋さんの肝煎りたる秋春開催、今更だけど納得してません。

佐藤はいつも対角線上に陣取る。

いざ開戦。だが…

いよいよ試合開始、31年前開会宣言をした川淵さんが時を越えて国立に立つ。アタマは真っ白で既に80過ぎと聞いている。時代の旗頭たるヴェルディであったが、読売一強を目指した渡辺恒雄と一強状態を非とする川渕がやり合った古い事実もある。雑誌の対談で和解しているが、渡辺はホントに巨大な存在だった。権力に立ち向かうのはさぞ心細かったろう。川淵にとってヴェルディはどんなチームなのか詳らかにはわからないが、感極まって声を詰まらせたときの温かい拍手は知識のあるなしで重みは違ってくる。座った席の関係かもしれないが、マリノス側の拍手の方が大きかった気はした。看板に比してマナーが良いのもマリノスの長所と思う。
午後2時、試合開始。しかし試合は思わぬ様相を見せる。バックパスを食いつかれてファール。キーパー退場こそ免れたが、山田楓喜にフリーキックを直接入れられ先制を許す。
先制点が効いてゆとりを失ったのか、中三日で不動起用を強いた無理が出たのか、腰の引けた戦いに終始する。セカンドボールを拾うとしたら決まって緑のシャツを着た選手だった。ボールこそ握るが切断されては手薄な陣に足早に殴り込みをかけられること数度に及び辛くも難を逃れる。マリノスでは火力アップを目指してインサイドハーフを2枚置く挑戦をしている。今回は決して初めての試みではなくポステコグルーも就任当初は「IH2枚にアンカー。すなわち4-1-2-3」で発進したと記憶している。今度の監督たるキューウェルの目玉でもあったし、天野純を呼び戻したのもきっとそのためだろう。練習試合でも守備力に不安の声は多かったという。だがそれ以上に先制点と幾度もの被決定機から非常に怖がっていると少なくとも自分には映った。前半終了の笛が鳴った時点のスコアは0-1、上島拓巳がゴールラインスレスレで球を掻き出す場面すらあった。「よく1失点で済んだな」というのが正直なところだった。

諦めなければ明日は来る

プロモーションの賜物か、時代の旗頭だったかつての遺勲からかとにかくこの日は大入りだった。
(なんだかんだヴェルディは主役だったんだな)
と地下一階のトイレに行って戻る間そればかりを痛感した。少なくとも「16年もセカンドリーグで蟠踞していたチーム」という事実がアタマに浮かばなかった。しかしここからどうするのかという思案が自分には進まない。気が小さいだけなのかもしれないが「楽観」から程遠いところに居た。
だが後半は前半と打って変わって鑑賞に堪える試合を展開する。まず元来のダブルボランチにすることでフィルターを再機能しシステムの修正が吉に出たこともあるが、果敢に相手にぶつかって競り合いに勝ち始め前半相手を過度に怖がることは既に無くなっていた。相手の攻撃頻度もだんだん減っていき、宮市亮が入ってからはゴール取り消しこそあったが、敵陣の懐近くまで足を踏み入れることができた。試合後半になってようやくアドレナリンを感じる。
「相手に勝つにはぶつかっていこうよ!」
ヴェルディOBを代表する一人ラモス瑠偉がCMで力強く唱えていたのを思い出す。その通りだ。自分の思った通りだ。ある意味ラモスが一番のカンフルだった。植中朝日、ヤンマテウス、ナムテヒと途中参加した戦士が何度も敵陣に足を踏み入れる。確かに押し込めている。それでもスコアが動かず自分の貧乏揺すりは続く。応援歌に乗るが咽が潰れて声が出ない。これもブランクか、のど飴を忘れたと悔やんでも後の祭りだ。声を出しても音にならず一人怒りメーターは高止まりしていた。

だが山は動いた。左からの折り返しが手に当たり(後から見ると顔面ヒットに見えなくもなかったが、手の位置から誤審とは言い切れないだろう)、PKを獲得。ロペスが決めて試合を振り出すに戻すと破竹の勢いのままに左から駆け上がる。たまらず稲見哲行が痛がって時間稼ぎを試みた。ゴール裏は怒号の嵐だったがここだけ自分は冷静だった。
(これ、勝てるかもな)
初めて「勝利」が頭を翳めた。さぞ判断が遅すぎると笑われるだろう。ただ自信はあった。悪銭は身に付かない。間を置かずこの予感は的中することになる。

相手のパスを拾って右の懐近くで展開する。松原健の巻いたシュートがタモに突き刺さる!
「逆転!横浜逆転!」
03年、ドラゴン久保竜彦のゴール時の山本アナの実況と同じ言葉が浮かんだ。空模様はこの日ソックリだ。昔からドリブルとミドルシュートの少ないマリノスでは珍しいゴールだ。反撃を急ぐヴェルディだがボールはポープウィリアムが収め試合終了の笛が霧雨の寒空に響き渡る。

31年前と同じスコア。ビジター側のタモ網にしか仕事がこなかったのも一緒。
映りが悪くて恐縮です。

面白かったし危なっかしかった。想像するに試合中のほどんどは怖い顔で見守っていたことだろうと思う。なにより勝てて良かった。節目の試合で勝てる勝負強さも自分がマリノスを尊敬している点だ。自宅に戻り家族が
「良かったな」
と労ってくれる。結果は把握済みだ。勝ち以外の結果にならず改めて一息つく。自分の家族は応援チームも好きな戦国武将も好きな三國武将も全員バラバラなのは述べたがサッカーも例外ではない。寒さに耐えたカラダに重たい葡萄酒が沁みる。
前半を見るに課題は多い。監督も変わったし危ない場面は少なくないだろう。なにより高い支配率は夏場には毒だ。想像するに町田なんて嚙み合わせ的にはメチャメチャ苦手な相手だと思う。それでもマリノスはパスサッカー化を成功させた数少ないチームの一つだ。前と後ろ、中盤の重心をどちらに置くのかは確実に選択を要するだろう。今回もきっとトライアンドエラーから素晴らしい魔改造を成し、必勝法を編み出せるか。戦前は悲観論の少なくなかったキューウェルなる御仁だが、今日は修正力で勝利をもたらしたといえる。

次の戦勝の報を期待しつつここで筆をおく。読了感謝。

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