拍動と夢

紋白蝶の散るトンネル
プラットホームからとびこむ黒猫の
瞳のなかに 降る雨
瞳孔に逆さまにひらく花が

君のまばたきを孕むよ

夜の公園 ピアノの音 サクラの木に射し込む街灯のいろ

君に瞼をあげる さがしてきてあげる 貝殻にしようか 花びらがいいかな

羽をさがして歩けば歩くほど空っぽになっている人形師の僕の代わりに
君に瞬きをあげる

夢の中で僕は自分の右手を逃がす夢を見た

誰かに伝えたいこと、話したいこと、何もないって分かるんだ
ただこちらを見てほしいだけ
いつもどこにも行けないのは そういうことだ

だけれど、君の鳴らない心臓が、僕の湖になりえること
この心拍が消えたときに君が初めて
またたきをすること
僕が本当に抜け殻になっても君が僕の心臓としてそこにあること、
ゆめみてるんだ

君をこわしてしまったとき、抜け落ちた君の腕の
その単純な切り口
例えば、君のぶんまで生きていくなんて言葉とか、もう2度と傷つけないなんて言葉は、
その単純な切り口には染み込まないまま
朝日に全部弾き返されてた

今日は電車から見える風景に霜が降りて
通りすぎるたびに キラキラしてたよ

朝の光のなかで
金色に染まる小さなトンボたちの群れのこと
君は知らないでしょう

君が完成するとき、僕は眠りにおちるけど
静かできれいな
水をたたえた
庭のなかに
僕は降りていくんだ

そこで、君が弾く
夜のピアノの音をきくんだ

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