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この秋、「ひやおろし」を楽しんでみませんか?

最近、「秋の訪れ」をテーマにいくつかnoteを書いたが、「秋」の風物詩といえば、これを忘れてはいけない。

「ひやおろし」だ。

秋に出荷される日本酒のことだが、実は、ひやおろしについて語るのは結構難しい。
というのは、ひやおろしが生まれたとされる江戸時代と今では、お酒を搾ってからの管理方法が異なっているからだ。

もともと日本酒は、「搾った後」と「瓶詰めする前」の2回火入れ(熱殺菌)をするのが一般的だった。
ひやおろしとは、冬に造って搾ったお酒を1回火入れした状態で貯蔵しておき、半年以上熟成させ、2回目の火入れをせずに瓶詰めして出荷するもののことを指していた。
貯蔵庫と外気温が同じくらいの温度になった頃、火入れせず、「冷や(常温)」のままで「卸す」ので、漢字では「冷や卸し」と書く。

昔の人は、9月下旬~10月にかけて出回るこのお酒を、秋の風物詩として待ちわび、楽しんでいたのではないかと推測する。
「おぉ、もうひやおろしの季節か」なんて。

それが、今は多くの酒蔵が貯蔵用の冷蔵庫を持っていて、必ずしも2回火入れをしないものだから、ひやおろし事情も変わってしまった。
ひやおろし以外にも、2回目の火入れをしないで出荷するお酒が増えてきたし、そもそも冷蔵しているので、「冷や(常温)」で卸すという意味にも合わない。

それでも季節商品は大事なので、「ひやおろし」は多くの酒蔵で商品化しているし、私もなくしてほしくはない。
江戸時代とは状況がいろいろと変わっているのだから、もう細かい意味など置いておき、ざっくりと「ひやおろしは、秋のお酒」くらいの感覚でいいのではないかと思う。とにかくシンプルでわかりやすいのが一番だ。

ただ、年々店頭に並ぶのが早くなってきているのはどうかと思う。時々、8月末なのにもう出ていることもあり、びっくりする。
季節を感じさせてくれるお酒だからこそ、出荷時期も大事にしてほしいなと思う。個人的にはお彼岸を過ぎたあたりがいいと思うのだが……。

と思っていたが、やっぱり「ひやおろし」というラベルを見ると手が伸びてしまうんだよなぁ……
2日前、お彼岸もまだだというのに欲望にあらがえず、今年初めてのひやおろしを買ってしまった。(さっきの偉そうな主張は何だったのか……)

だって、「みむろ杉」だったんだもん!

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今家にある3本だが、ひやおろしは、真ん中の「みむろ杉」だけ。
それも、写真撮る前にかなり飲んでるし(笑)

お米は「雄町」で精米歩合は60%。
雄町は溶けやすくて、お酒を造るのは難しいといわれるけど、上手に造る酒蔵さんのものは、とんでもなく美味しくなる。
この「みむろ杉」は素晴らしかった。
なんと上品な甘み!余韻のきれいな酸!そのバランスの良さ!
ずっとちびちびと飲んでいたくなる。

ちなみに左の「篠峯」も雄町を使っている。
こちらも雄町のとろっとしたコクを出しつつ、シャープな酸があって、この相反するような味わいが絶妙。
無濾過生原酒でアルコール度数が17度あるためか、ややアルコール感を強く感じる。キンキンに冷やして飲むのがおすすめ。

そして、「文佳人 リズール」も大好きなお酒だ。
久しぶりに飲んだけど、やっぱり美味しい。余韻のブドウのような酸味がたまらない。
なんとなく、秋の夜長に読書をしながら飲みたいような、そんな味わい。

美味しいお酒に出会うと、私はやっぱりすごく幸せな気持ちになる。

江戸時代とは変わってしまったかもしれないが、現代は現代の美味しい「ひやおろし」が飲めることは間違いない。

今年の秋はどこかで「ひやおろし」を見つけたら、秋刀魚や銀杏をアテに飲みつつ、秋の風情を感じてみるのもいいのでは?

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