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ライターへの敬意を感じる修正に涙があふれた

私は自分の書いた原稿を修正されるのが嫌いだ。本当に、嫌いだ。
それはライターを始めた頃から変わらない。
だから、誤字脱字や表記揺れはもちろん、絶対に修正されないように何十回も推敲を重ね、完璧な原稿を提出することを心がけている。

ところが、先週書き上げた原稿がものすごく修正された。おそらく人生で一番たくさん修正された原稿だと思う。
先々週から書き出していた酒蔵の原稿で、先々週、先週といえば、激しいお腹の痛みでほぼパソコンに向き合えなかった期間だ。
でも、今シーズン最後の取材記事。もし来シーズン、取材に復帰できなかったら、私の人生最後の取材記事になるのだ。そんな特別な原稿なうえ、取材先は私がこの世で最も尊敬している酒蔵だった。(4月25日発行なので、酒蔵名は伏せておきます)

この10年、いろんなメディアで最も多く取り上げられた蔵なのではないだろうか。お酒は手に入れたくても困難で、取り扱い店舗でもほとんどが抽選。ネットで探せば転売ヤーのせいでとんでもない金額がついていたりする。日本酒業界に多大なる影響を与えた素晴らしい酒蔵で、「お腹が痛い」くらいの理由で手を抜くことなどできるはずもなかった。
また、この酒蔵はちょうど10年前、「酒蔵萬流」で私が初めて取材した蔵でもある。10年で製法も設備もすべてが進化したので、2回目の掲載となったのだ。もちろん1回目の取材が私だったので、2回目も私にまわってきた。

また発行後にこの蔵のことは詳しく書きたいのだが、とにかく取材は感動の連続だった。
ネタの宝庫で、限られたスペースに何を書くか悩んだ。でも、自分の中でテーマが決まり、パワーワードも得られ、自分の思いもその蔵の行動や社長の言葉に乗せて書くことができた。
毎日はぁはぁ言いながら、本当に少しずつだったけど、何日もかけて書いて、何十回も推敲して仕上げた作品だ。手を抜くどころか、命を削って想いを乗せて書いた。

ドキドキしながら社長の校正を待った。戻ってくるまで3、4日かかった。
戻って来た原稿を見て頭から血の気が引いた。「デザインされたPDFでは修正が追い付かないから、もとのword原稿をください」と言われて、クライアントがwordの原稿を渡していたのもそこで初めて知った。
原稿には私が見たこともないほど修正が入っていた。朱書きではなかったので、真っ赤ではなく、真っ青になっていた。
手が震えて、悲しみと怒りにも似た気持ちで、しばらくは原稿を読むこともできなかった。一体私は何をしてしまったんだろうかと思った。
ふと、間に広報の担当者がいたことを思い出し、もしかしたら社長ではなく広報の人が勝手に修正したんじゃないか?とまで思った。今思えば完全に言いがかりだが、そうでも思わないと正気を保てないほどショックだったのだ。

とにかく心を落ち着けて、ようやく原稿に目を通してみた。
読んでいくと、涙があふれて止まらなくなった。
広報の人でも誰でもない。社長が修正したものだとはっきりわかった。
なぜって、その修正は「ライターへの敬意」が詰まっていたからだ。読めば読むほどそれがわかった。社長はそういう人なのだ。自分の造る酒を「日用品ではなく、アートだ」「芸術作品だ」と言う人だ。実家の酒蔵に戻るまで、フリーのジャーナリストをやっていた人でもある。だから、こんな三流ライターの書く原稿でもひとつの「作品」として扱い、書き手に敬意を払いながら丁寧に、本当に丁寧に時間をかけて修正してくれたのだ。

そのことが読むと伝わってきて、涙が止まらなかった。これは書き手にしかわからないかもしれないけれど、私が大事にしたかったテーマや構成、どうしても使いたかった言葉などはちゃんと残してくれていた。そのうえで、私の拙い酒造りの知識をカバーするように、より間違いなく伝わりやすいよう補足を入れ、補足を入れすぎたことで文字数がオーバーしないように、カットしても本文全体に影響のないところはざっくりとカットしていた。最高の校正だった。

読んでいるうちに、涙があふれて文字が見えなくなった。
「商業ライター」ってどうなんだろう。何なんだろう。どうしてこちらは「作品」を作っても簡単に修正してしまうんだろう。最近いろんな疑問を持って生きてきたから、ライターに敬意を払ってくれているこの修正がうれしくてたまらなかったのだ。
修正箇所をすべて反映したら、結果的にそれは元の私の原稿をレベルアップしたものになっていた。まるで腕の良い編集長がブラッシュアップしてくれたように。そのうえで、私の書きたかったこと、思いはすべて原稿に乗っかっていた。
やっぱり元ジャーナリスト。社長はすごい。普通の人にできる芸当じゃない。

だから私は、あんなに修正が嫌いな私は、少しも悲しくなかったし、悔しくもなかった。良い原稿になったこと、これを世に出せることがうれしくて仕方がなかった。
社長の払ってくれた「ライターへの敬意」に感謝した。

翌朝、夫にこの話を伝えようとしたのだが、「ライターへの敬意を感じて」という言葉を口にしただけで、どっと涙があふれてしまった。(夫は動揺していた)

命を削って書いてよかった。今シーズン最後の取材がこの蔵でよかった。
発行されたら、もう少しこの酒蔵の話を書こうと思う。なぜなら皆に知ってほしいのだ。人の強い「信念」や「ポリシー」が閉鎖的な業界にも大きな影響を与えることを。そして、日本酒がどれほど素晴らしい日本の文化であるかということを。

これで「酒蔵萬流」40号も校了。
また少しだけ私はライターとして成長できた。

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