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佐野元春 & THE COYOTE BAND ライブ・フィルム『今、何処 TOUR 2023.9.3 東京国際フォーラム』一夜限りのプレミア上映 新宿バルト9 2024.3.5.

昨年におこなわれた『今、何処 TOUR』の東京国際フォーラム公演を収録した映像作品の一夜限りのプレミア上映が全国7都市の映画館で開催された。そのうちの新宿バルト9では、上映前に佐野元春と高桑圭、深沼元昭が登壇するトークショーがあるとのことで足を運んだ。

ライヴが映像作品になるとギャップを感じることが多い。自分が良いと思ったライヴほどその傾向は大きい。当たり前だが、作品にはアーティストの意向が入るし、かつ監督の視点で作られるわけだから、客席で観て感じた僕自身の中に残ったものとは一致しない。もちろん、ギャップがよい意味で表現される場合もあるからマイナス面だけではないけれど、自分が観たいものが作品化されて届くことは少ない。はたして…。

トークの模様はダイジェスト映像が公開されている

映画館のスクリーンで観た『今、何処 2023.9.3 東京国際フォーラム』は、もちろん今回もギャップはあったけれど、今の僕が佐野元春に感じていながらも何なのか理解できず言葉にできなかったものの答えを教えてくれたように思う。実際、正解を突きつけられ雲が晴れたかのような満足感で、上映前のトークで聴いた話がすべて吹き飛んでいた。

スクリーンに歌詞が字幕で映されていたことが大きい。字幕はそっちのけで映像に目が行くのが普通だと思うが、この日の僕は歌詞を追った。そのおかげで『今、何処』収録曲のメロディとアレンジの素晴らしさと共に伝わってきたメッセージは効いた。いや、効いたのではなく理解しなおしたと言うべきか。ライヴでのMCや曲調、そして"ぶち上げろ魂"のような力強いフレーズで薄められたり隠れてしまったりしているヘヴィな歌詞。たとえば、『今、何処』収録曲ではないがライヴではパーティ・ソング的な「愛が分母」も、"愛が分母でも残酷なことばかり"と歌われている。元々からのこうした歌詞を意識せずに聴いてしまっていたことに気付かされたのだ。席があってもスタンディングだし、笑顔で手拍子しながら盛りあがる元春のライヴだが、それを楽しみながらも自分の中に常にあった違和感の原因は、ヘヴィな認識が歌われていることを感じながらも排除していたことから…なのだろう。映画館でじっくりと客席に座って味わったことで、『今、何処』を柱とした今の元春本来の魅力を感じられたように思う。

同時に、このような『今、何処』を経たことでよりクッキリとしたアンコールでの「約束の橋」「SWEET 16」「SOMEDAY」「アンジェリーナ」という元春クラシックスの破壊力もあらためて知った。曲が持っているパワーもそうだが、演奏も同じバンドが出しているとは思えない音で、もうまったくの別物である。

僕のこうした思いは、映像作品と一緒に発表されたCDを聴いてさらに確信するに至っている。Disc Oneに『今、何処』収録曲をまとめて、いわゆるアルバム再現ライヴ的な構成とし、Disc Twoにはそれ以外とハッキリわけたことにより、映像作品とはまったく別の顔を見せてくれる作品となっていることで、結果的に『今、何処』とそれ以外の作品の違いが浮き彫りになっているのである。素晴らしい。


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