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小さな季節を見つけたら

8月31日。スマホの待ち受け画面を見て驚いた。もう8月が終わるのか。

1年のうちに、何度か「もう今年が終わっちゃうなあ。」と思うタイミングがある。

まずは年度末の3月。怒涛の年度末業務をこなし、ああやっと解放される、と思ったタイミングで、今年がもう3ヶ月も終わったという事実に頭を抱える。

次に6月。もう半分が過ぎてしまったことにびっくりする。

そして8月末だ。夏休みの終わりは、今年の長期休暇の消滅を意味する。(と思っている)

大きいこと、何も出来なかったなあと考えてしまうのは、大抵この時期。

去年も今年も、思う存分夏を堪能することは叶わなかった。

前住んでいた福岡の家の近所では、割と大きめのお祭りがある予定だった。中学のとき、部活の仲間たちと電車を乗り継ぎ行ったのは良い思い出だ。お祭りの期間はうんざりするほど人で溢れるのに、普段は利用者が少ないせいで、改札は全部で4つほどしかない。あまりに人がごった返すので、駅の中ではぐれてしまうほどだった。

電車の時間も帰りの人混みも気にせず、歩いて行けることにワクワクしていたものの、その家に住む間にお祭りは開催されなかった。

お祭りで浴衣を着て、お酒を飲み、とうもろこしを頬張る予定だったのに。

せめてとうもろこしだけでも頬張ろう、と思って屋台風に整えたとうもろこしは美味しかった。だけど、同時にこれじゃないんだよな、とも強く感じた。


山に近い私の家は、テレビの音を消すと様々に虫や鳥などの鳴き声がよく聞こえる。8月の下旬に差し掛かったくらいから、夕方のツクツクボウシの大合唱に混じって、リリリリ、と鈴虫の鳴き声が聞こえるようになった。もう少し暗くなると、ぴりぴり、ぴっぴり、とマツムシの鳴き声もする。

まだまだ寝苦しい夜中に喉が渇いて目覚めると、秋の虫たちの鳴き声が、途切れ途切れ、小さく聞こえた。コップ1杯の水を飲み、這いつくばるように布団に戻り、目を瞑る。小さな生き物たちが、翅や脚を擦り合わせて鳴らす小さな音に、思考が穏やかに消えていき、いつの間にかすっかり眠ってしまっていた。

生き物たちは季節の変化に敏感だ。わたしがぼーっとしている間に、小さな秋の気配を運んでくる。最初の職場の同期の男の子と、「季節に敏感でいたい。今年は小さい秋を見つける前に冬になっていた」と話した1年目の忘年会が懐かしい。

彼は元気だろうか。小さな秋を見つけたら、連絡をしてみよう。


2021.9.4 小鹿かの子


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