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カレーノスタルジー(佐賀駅/カレーショップ南陽)

特別でも何でもなかったお店が、ふと気づいたら食べられなくなっている。ここ数年、こんなことが多いなと思います。

例えば大学時代の思い出のカレー店。薄暗く、お昼時が過ぎてお客さんのまばらな店内、いつ行っても何かしらのカレーが売り切れてしまっていて、選択肢がなかったりします(これは私の来店時間が悪いのだけど)。謎のラインナップの雑誌がラックに並んでいます。

福神漬けとラッキョウと、それらをつかむためのミニトングが、ひとつの道具に乗ってやってきます。あの道具は、カレー店にしか需要がないだろうなという感じの、単一目的の多機能道具。

お店はJRの高架下に潜んでおり、列車が行き過ぎるたび、音と振動が店内に広がりました。だけどうるさいなとは思いません。そういう空間です。

初来店時はポーク。2回目にチキン。次はビーフ。またポーク、チキン、インド・・・最後は確か大学卒業直前のスペアリブでした。カレールーはさらっとしていて、特にインドはじんわり汗をかくくらいのスパイシーさです。ふちの青い白いお皿にルーと、別のお皿にライスが乗って、ライス結構多いなと思うけど、気付いたら食べ終わってしまう。どのお肉もホロホロに柔らかい。とても好きな味でした。

白髪の店主とシャキシャキした女性(奥様でしょうか。)がサラダとカレーとごはんを代わりばんこに持ってきてくれます。特別愛想がいいとか、丁寧だとかそんな感じではないのだけど、よく見てくれてるなと思うような、そんな不器用な配慮をしてくれるので、とても好きなお店でした。度々一人で来店する私の事を覚えてくれているのか、それとも覚えてないのか、はたまた誰かと間違えているのか。常連さんの多いお店なので、たぶん覚えてくれていないのだけど、初来店でないなという雰囲気を察して、何とか記憶を辿り、この間このカレーが売り切れで食べられなかったんじゃないかなと想像して、「今日はチキンカレーまだありますよ。」と声をかけてくれる優しさがある、そんな素敵なお店でした。

悔やまれるのは、日常の何気ないお店だったため、一枚も料理の写真を撮っていなかったことです。大学卒業前に、何だか寂しいような気持ちになって外観をパシャリと撮影して、それきりでした。社会人になり、佐賀に行く暇もないまま、気付くと閉店してしまっていた南陽。あの薄暗く愛おしくカレーの香り漂う空間がもう存在しないと思うと、実家を出て自分の部屋が物置になっていたり、近所の公園で一番お気に入りだった遊具が危険だからという理由で撤去されていたり・・・そんな心許ない気分になります。


気付いたらなくなっていたからこそ、何気ない店だったからこそ、もう二度と行けなくなったときに、強く忘れられないのだろうなあ。ポークカレー、また食べたいものです。

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