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【なんでもやりたい屋】#006

2021/02/11 快晴
依頼者:庭崎正純 様
場所:東京都青梅市・Dining&Gallery 繭蔵
内容:ウッドデッキの修復

もう年が明けて一ヶ月が経つのか。と毎年思う1月30日、毎月恒例のメニュー替え作業をする為、繭蔵へ行った。メニュー替え作業が難なく終わると「テラスがボコボコになっちゃったんだよー。」と庭崎さん(以後、オーナー)が嘆いていた。繭蔵の庭スペースに4年ほど前に作られたウッドデッキのテラス席は、様々な山野草や樹々が生えている居心地のとても良いスペースで僅かに2席しかない特等席としてお客さんに人気を博していた。しかし、昨年の長い梅雨が影響してか、お客さんの座る部分を中心に朽ち果ててしまっている箇所が幾つもあった。「そのうち、なんでもやりたい屋さんにお願いしようかな。」とその日、オーナーと別れた。
2月6日の朝、例によって「なんでもやりたい屋さま」という枕詞のシャレたメールが「名もない小さなレストラン店主」から届いていた。急ではあったが、来週の木曜日が祝日で空いていたので、2月11日に早速作業をさせて頂くことになった。有難い。

祝日の朝、いつもより交通量の少ない道を青梅に向けて走る。集合の10分前に自分のアトリエに着くと、今日一緒に作業を手伝って頂ける榎本さん(写真家)がちょうど繭蔵の中へ入る所だった。工具をアトリエから道向かいの繭蔵に運びながら、久しぶりに会った榎本さんに挨拶をする。
榎本さんは写真家で僕の少し年上。時々繭蔵でバイトしていて、何よりもアタリが柔らかく腰のとても低い方だ。この日はオーナーの計らいで榎本さんを呼んでくれていたのだ。というのも、4年前このウッドデッキを制作したマッキーさん(スーパー大工)のアシスタントとして榎本さんが工事に関わっていたので、今回も融通が効くだろうとの計らいだった。

談笑しているとオーナーも到着した。先ずは、ウッドデッキを剥がしながら状況を見てみる。ビスはステンレス製で何ともないが、やはり木部は腐っている箇所が多くお客さんの座る部分は総取っ替えする必要がありそうだ。2×6材で組まれたデッキは、12フィートが何本必要だろうか、メジャーを使いながら考えていると「ざっと10本位買ってくれば?」とオーナーが2杯のコーヒーを手に持って相槌を入れてくれた。買い物リストをメモ帳に見積もり、コーヒーを飲み干してカインズホームへ。

10:10に到着すると変に混雑しているカインズ、そうだ今日は祝日だ。買うものが決まっている時のホームセンターは、その広大さが憎い。(青梅インター店は東京で一番広いカインズ)カゴを手に取ると、空かさず榎本さんもカゴを取る。二人して空のカゴを持って歩いていると余計な物まで買いたくなってしまう「いやあ、僕が一 つ持つので大丈夫ですよー」と榎本さんに話しかけると、「なんかカゴ持っちゃうんですよ、やっぱりいらないですよね(笑)」と、塗料コーナー近くのカゴ置き場にカゴを戻しに行った。買い物リストを見ながら、先ず防腐剤の一斗缶を選び、塗料を探す。が、なかなかシックリくる塗料が無い。塗料は保留にして候補を写真に撮っておく。スポンジの刷毛やステンレスビスを選び、材木コーナーへ。一番奥に12フィートコーナーがあり、状態の良い10本を選びそのままお会計へ。そう言えば榎本さんは、小さな声で「すみませんー」と発しながら終始他のお客さんの通り道を必ず譲りながら店を歩いていた。ああ、僕はこの気持ちを最近忘れていた。本当につまらない大人になり始めていたと自分を戒めた。と共に榎本さんに心の中で感謝した。
お会計を済ませサービスカーを借りる為サービスカウンターへ行くと1.5トン車が最後の一台!ギリギリセーフで借りることができた。今日は祝日。2時間無料のカインズのサービスカーは本当に有難い。

11:00に部材を乗せて繭蔵に戻って来た。織物組合にある砂利地をお借りして榎本さんに12フィートの木材へ防腐処理をしてもらい、その間にサービスカーを戻しに行く。こういう時、二人の有り難みが効いてくる。
カインズに戻り、無事サービスカーを戻す。(サービスカー2時間待になっていた。アブナイ!)保留にしていた塗料を買う。選択肢がある物を買う時は少し時間を置く事でどれを買うべきか見えてくるものだ。繭蔵に向かいがてら、ウッドデッキの端の処理に高性能なジグソーがあった方が良いなー。と思い僕が平日働いている友愛学園に寄ってジグソーを借りる。学園に着くと「日曜大工でもするの?」と眠そうな顔で主任がお昼休憩をしていた。

11:50、繭蔵に着くと榎本さんは12フィートの防腐処理どころか、据置のウッドデッキ部分まで防腐処理を終えていた。繭蔵は営業日で、チラッと覗くと満員御礼でウエイトが出るほどの繁盛をしていた。「こんなに天気が 良いのにテラス使えないのは勿体無いですよねー」と榎本さんが呟いていた。12:40、ちょうど作業のキリがよく、お昼にしようと思っていたが繭蔵は満員なので近くの昭和軒に行くことにした。歩いて1分程の所にある昭和軒はその名の通りというか、昭和の雰囲気強い中華料理屋でアトリエで作業する時によく夕ご飯を食べに行っているお店だ。暖簾を潜ると先客は無し。テレビが見やすい特等席には女将さんの膝掛けが置いてあるが、僕もその場所が好きなのでそこへ座る。ここに来たのは2回目と言う榎本さんは、あんかけのもやしラーメンで僕は普通のラーメン大盛り。太くて甘いメンマがここの味だ。

13:30、午後の作業に取り掛かる。僕は買ってきた部材をひたすら丸鋸で切り出し、ウッドデッキを組み上げる作業。榎本さんはテラス脇にある雑草や剪定枝を入れるゴミ捨て場の柵を作る作業。お互いに分かれてサクサクと作業を進めていく。15:00を回った頃「拭いちゃいますよー」とキッチンスタッフの野口さんがモップを持って現場を手伝いに来てくれた。「塗装するには、今のうちに拭いておかないと乾かないからー」と、組み上がったデッキ部分を丁寧に水拭きして颯爽と何処かへ消えていった。何て気が利く人だ。

やっとのことで腐った木部を全て張り終えた時には17:00を回っていた。今日の予定では「塗装まで終えて17:00に帰ろう!」と言っていたのに、そうは問屋が卸さない。上手く行った事といえば、木材を正しく10本ピッタリ使い切った事だ。オーナーの何という千里眼だろうか、あと一本あったら丸々余ったし、少なかったらまた後日作業が続くことになっていただろう。
暫し談笑して、あの頃に比べてだいぶ延びた陽を味方にもう一仕事。榎本さんの作ったゴミ捨て場の柵の脇に同じ雰囲気でもう一つ小さな柵を設置することになった。最後の力を出し合いながら剥がしたデッキの腐っていない部分を再利用したその柵は、まるで舞台装置のように繭蔵の庭を賑やかにさせた。

18:10、片付けを終えて繭蔵に入るとマカナイが用意されていた。3人で近情を話しながら温かいお味噌汁が身 に染みる。そう言えば、繭蔵で夜のパーティーの皿洗いのバイトに入った時には、閉店後こうやって遅くまでマカナイを食べながら余った瓶ビールを飲んで談笑してたなあ。と、あの頃の特に年末の怒涛のパーティーの喧騒を夢の様に思いながら込み上げるものがあった。
榎本さんは、これからママチャリで中神まで帰ると言う。「何で自転車で来ちゃったの?」と驚くオーナーを他所に、「写真を撮りながらなので丁度良いんですよー」と、普段から自転車移動を愛する榎本さん。この間は山のゾクゾクした雰囲気を求めて奥多摩を越え山梨の境までママチャリで撮影に行っていたらしい。

この日の作業は結局、木部の組み上げまでとなってしまい完成出来ずに終える事となった。(野口さん、折角水拭きしてくれたのにスミマセン!)塗装は僕の都合が付かず、後日忙しい中を縫って榎本さんが作業してくれるとのことでお願いした。
今回は、初めてのウッドデッキの補修作業という事で不安ではあったが、デッキの制作者であるマッキーさんの仕事の手跡を感じながら作業出来たことが大きな収穫となった。欲しい所に打たれている最小限のビス位置、木材の切り方・置き方・交し方。ああ、こうやれば無駄なく手数少なくいけるんだ、という発見が幾つもあった。 この日の作業はデッキ全体の4分の1程であったが二人で丸一日掛かった。整地から行ったマッキーさんは3日でデッキを完成させたというから、まだまだ足元にも及ばない。(因みに僕は、ある一件以来マッキーさんに決して足を向ける事ができない)

後日、アトリエに荷物を取りに行くと、榎本さんが丁度ペンキを塗り終えオーナーと仕上がりを確認している所で、緑色に塗られたデッキと柵を前に榎本さんの笑顔が眩しかった。最後の処理まで丁寧にありがとうございました。

記念すべき六人目の依頼者となっていただいた庭崎正純さんに改めてお礼申し上げます。

2021.2.17 古屋崇久

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