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【なんでもやりたい屋】#004

日付:2021/01/02(土)快晴
依頼者:庭崎正純 様
場所:東京都青梅市・Dining&Gallery 繭蔵
内容:エントランスの修復

年末の雰囲気が盛り上がる12/23の夕方、「なんでもやりたい屋さま」という枕詞から始まる仕事の依頼メールが届いた。青梅市内でギャラリーを併設した飲食店を営む「名もないレストラン店主」から匿名の依頼であったが、何を隠そう僕の良く知ったレストランの庭崎さん(以後オーナー)からの洒落たメールだった。
オーナーの経営する「Dining &Gallery繭蔵」は、僕が大学3年の時にギャラリー部分でグループ展示をした事をきっかけに、レストランのメニュー制作や繭蔵内外で開催される展示やイベントのDM等DTP作業(デザインソフトを使った打込み)を手伝う様になり、大学を卒業して制作場所を探している時に現在のスタジオとなるプレハブ小屋(繭蔵の斜め向かい)を借りる工面や、生活に困窮していた時には定期的に仕事を頂き、現在に至っても様子を気にして頂いている感謝感激青梅の恩人である。

繭蔵は、大谷石造りのとても大きな蔵を改装した1階がレストラン2階がギャラリースペースとなっている建物で国の重要文化財にも指定されている立派なお店で昨年20周年を迎えた。今回、そんな繭蔵の入り口外扉と踏込み部分の補修を依頼された。僕にとって思い入れ深い繭蔵の補修という事で二つ返事で依頼を受けたのは良かったのだが、現場を見て改めて入り口部分というプレッシャーに胃が痛みつつも丁度、年末年始休業中に作業をさせて頂く段取りとなった。

1/2(土)、2021年を迎えお正月ムードの中、9:00に家を出る。そう言えば昨日の夜、車がハンドルを左に切るとクラクションが「ププッ」と鳴るようになってしまって恥ずかしいので取り敢えずホーンのヒューズを抜いてから出発。先ずカインズホームでペンキやモルタルなどを買う。カインズホームは今日から営業らしく朝から初売りに沢山の人出がある。買う物が決まっているのでサクッとお会計を済ませ、コーヒーを飲みながら朝日が眩しい道を青梅のスタジオに向かう。10:30スタジオに到着。荷物を下ろして繭蔵の扉を観察・採寸。オーナーとの待ち合わせは11時なのでそれまで斜め向かいにある僕のスタジオでベニヤを製材する。暫くするとオーナーと店長が到着した。最初のメールからの設定である「名もないレストラン店主」と「なんでもやりたい屋」という初対面としての新年の挨拶を済ませ、早速作業に入ることに。

先ずは、入り口踏込みの鉄部分に穴が空いてしまった所をモルタルで埋める作業に取り掛かる。本来踏込み部分を全て取り払って鉄部分を新たに取り替える方法が望ましいのかもしれないが、何より20年分のお客さんが踏んだ鉄の美しさを取り払う度胸と技量が無かった。今回は穴の空いて変形した鉄の部分を出来る限り平らに叩いて砂化した土台のコンクリート部分に新たにモルタルを流し込む事で対応する事とした。穴の中のゴミを取り除き隅々までモルタルを巡らせ1時間ほどで乾燥養生まで終えた。コーヒーとバームクーヘンを手にオーナーは作業を見守っていてくれたが、コーヒーをすっかり冷ましてしまった。コーヒーを温め直してくださり、正月に似合わない太陽を浴びながら一服。
12:15、外扉の補修に掛かる。先ずは20年以上の風雨で下の部分がビロビロに劣化したベニヤを剥がす。下の方から剥がし始め楽勝かと思っていたが中盤から意外としっかり接着されていて手こずる。白っぽく陽に焼けた様に見えた扉は漆喰を混ぜた塗料で覆われている様で中のベニヤは全く腐っていない。骨の木材も綺麗で虫食いやカビも生えていないし、ヒンジにガタつきもない。20年保つ仕事を目の当たりに一歩退きたくなるが、途中で投げ出すわけにはいかない。もう半分も剥がしてしまった。
苦戦を嗅ぎつけてか、オーナーが顔を出し以前の扉の仕事っぷりに二人で感心しながら一息ついた。オーナーは「僕が居てもしょうがないから、帰るね〜」と帰宅。僕も「まあ、すぐ終わりますから完了したら連絡しますね〜」と軽く返事。この軽い見積もりが僕の悪い癖だ。
店長が車でオーナーを家まで送り、「今日はまかない作れないからごめんね〜。」と麻婆豆腐弁当を手に下げて戻ってきてくれた。繭蔵で仕事をしている時はもちろん、スタジオで作業している時でもパーティーの余りだからと、時々まかないを持ってきてくれたりと、今まで何食助けられた事だろうか。
なんとか苦戦しながらも両扉のベニヤを剥がし終え、14:10に少し遅いお昼ご飯をテラスで食べた。
昼食を終えウキウキと朝、製材した5mm厚のベニヤを早速扉に合わせてみるが、厚すぎて合わない。いつもフライングは成功しない。反省しつつ、たまたまスタジオにあった3mm厚のベニヤを再度製材する。今回はピタリといき、ボンドと釘でベニヤを打ち込む。パテをして休憩した頃には太陽が山に沈み始めていた。なんとか強い西陽でパテが乾燥し、ヤスリ掛け。16:30、一度目のペンキを塗り始める。オーナーは、折角だから何色でも良いよと冗談っぽく言っていたが、黒のマットにした。
16:45、「オーナーからです。」と店長から受話器を受け取る。進捗確認の電話だったが、陽は山に吸い込まれ、ペンキが乾くのか!?という暗雲を心に、この扉が完成しないと繭蔵の鍵を掛けることができない。帰れない。という不安を余所に「なんとか今日中には終わります!」とまたも軽い見積もり。電話を切る。
ドライヤーと、昼間に僕の防寒への心配をして「意味は無さそうだけど。」と置いていってくれたハロゲンヒーターの力を使い何とか一度目のペンキが乾いた。店長は僕に鍵を預け、先に帰宅。正月早々遅くまですみませんでした。
17:30、二度塗り。ハロゲンヒーターの大活躍により、始めに鍵部分を乾かし無事鍵の取り付けを完了。18:45、三度塗り。お正月の人通りも少ない夜、暗がりでゴソゴソとレストランの扉を弄っている男は怪しい。作業に夢中になっていると「何してるの〜?」と小さな男の子に声を掛けられた。ビックリして「ペンキを塗っているんだよ。」とツマラナイ返事を返す。遠くでお母さんらしき方が「おもちゃも色が剥がれてくるでしょ。」と子供に説明しながら去っていった。
19:00、一通り扉をハロゲンヒーターで乾かしながら養生を取り、片付けを始めながらオーナーに電話を入れる。パーカーを脱ごうかと迷っていたのに、いつの間にか吐く息の白色が濃くなっていた。

今回は、「なんでもやりたい屋」を開始して初めて一人での作業となった。自分の作品を制作する時や設置する時は一人で行うことが多いが、今回は仕事への段取りと見積の雑さが際立ってしまった。作業したモノへ責任を持つという感覚は、自身の作品制作の中でもある筈だが少しづつ余韻という名の妥協点を置きながら制作してきてしまった所があるのかもしれない。
時々、オーナーは課題をくれる。例えば繭蔵の傍に在る僕が学生時代に作った洗濯機置き場は、僕にとって喉に引っかかる魚の骨だ。今回の作業は、洗濯機置き場から成長できているのだろうか?キッチリ・カッチリ作業して難なく完成をさせるという仕事が出来るまでまだまだ道のりは長い。

記念すべき四人目の依頼者となっていただいた庭崎正純さんに改めてお礼申し上げます。

2021.1.4 古屋崇久

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