エフェメラル





    それは淡い光の中で
 今にも溶けて消えてしまいそうな
 透き通った笑顔だった
 
 不確かなようで確かな温もり
 残してくれた 飾らない言葉
 心はいつも 優しい温度で
 透明な唄を歌っていた
 
    光を受け止め仄かに煌めく 雫は静かに木の葉を伝い
 言の葉になりきることのできなかった想いを落とす
 
    知らなければ傷付かずに済んだ本当
 知りたいと望んでしまった
 目を逸らしたまま 幸せな夢を見ることよりも
 すべてを受け入れることを選んだ
 失くしたくない痛みを
 またひとつ 心に刻んでいく
 
 柔らかな輪郭 光の旋律
 伸ばした手 掴んで教えてくれた温もり
 それだけは嘘偽りではないと信じているから
 儚くとも確かなものが
 ここにあるから息をしている
 
 
    無力だと知りながら 哀しく気高く生きる姿
 ただ傍で認めてくれているだけで
 消えないでいられるから あの日の君の面影と
 もらった言葉 その残響で世界を揺蕩う
 忘れたくない痛みと
 癒えないでほしい大切な傷
 
 朧げな輪郭 遠い日の旋律
 記憶の中の横顔 残してくれた温もり
 それは今 不安な自分の微かで信頼に足る道標
 例えそれがいつか
 思い出せないものとなっても
 
 
 
 
    それは優しい波にさらわれ
 気付かれないまま消されてしまいそうな
 涙のない泣き顔だった
 
 言いたいのに言えない思い
 抱える痛みは 優しさの証
 心はいつも 望みすぎないように
 飾らない唄を歌っていた
 
    隠した傷に寄り添うかのような 優しい雨粒 頬を伝い
 涙のように 心を映す
 
    弱い心と見せない本音 必死で守ってきた自分
 気付いてほしいと願っていた
 それでも誰かの幸せを思い
 気付かないでほしいと笑ってみせた
 また少し 疼いた心
 仕舞った想いは 人知れず美しく
 
 溶けゆく輪郭 消えゆく旋律
 言えない言葉に気付いてくれた温もり
 どうしても手放すことはできなかった
 儚く哀しい優しさを
 近付きすぎて嫌われることが怖いのに
 
 
 
 
 空の青より海の青より澄み渡っていた
 嘘偽りない心で唄った
 君は静かに息をした

    諦めることには慣れていたのに
    冷え切った手を差し伸べてくれた
    何より温かかった瞬間

    何も返せない無力な自分に
    優しかったその残像がまだ
    何より心を疼かせる

 
 
 
    痛みを知るたび優しくなりたかった心
 なれないと知る哀しみの中
 出逢えた君がくれた赦しの唄を信じて
 紡げなかった言の葉を沈めた世界に
 立ち尽くしたままの痛みを
 自分のため 決して手放さないように
 
 透明な輪郭 聴こえない旋律
 もう触れられないのに確かに残っている温もり
 それだけが今も自分に続ける理由をくれるから
 儚く美しい君の心に
 触れられたから信じ続けられる
 
 
 

    刹那の優しさがくれた永遠の痛み
 儚き残滓と共に 鼓動を続けることを選んだ
 
 哀しみの海に 一瞬の輝きを
 
 
 



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