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名作探訪 その15 難しいも面白い! 文明の栄枯盛衰 『チグリス・ユーフラテス』

こんにちは、ボードゲームデザイナーの山田空太といいます。

先週、同時並行でつくっていた新作ボードゲーム 2つが、ようやくテストプレイの段階にきました。コンセプトとアイデアだしの段階でこねくりまわしてもうまくいかず・・・。長らく停滞していた2つなので、何とか完成までいきつけそうで嬉しいです。

1つは45分前後のミドルクラス、もう1つは90-120分の要素もりもりのゲームの予定です。

さて今回は、ボードゲーム 名作探訪シリーズ その15をおとどけします。

ボードゲーム 名作探訪 とは: 皆さまに是非とも遊んでほしいボードゲーム紹介のシリーズです。ドイツゲーム隆盛期である1990〜2015年くらいのファミリーストラテジーのゲームを中心として、100作を目指して少しずつ書いております。


前回の記事もおすすめです。こちらから読むことができます⇩


本日のゲームは、ライナー・クニツィア作のチグリス・ユーフラテスです。略してチグユー

最近では、Fantasy Flight Games版の日本語版が、ホビージャパンから出ているので、昔のゲームにしては比較的手に入りやすいです。出版社をさかのぼりますと、1997年にHans im Glückから初版が発表されて、Mayfair GamesやPegasus Spieleからも再版されています。

1998年のドイツゲーム賞 (Deutcher Spiel Preis)の1位です。その年は、『原始スープ』が2位で、『エルフェンランド』が3位。どれも見所のある名作だと思います。

『チグユー 』、相当に面白い、でもかなり難しいゲーム・・・。ルールがとっつきにくいし、実力差が如実に出て、バチバチの戦争もあったりして、気軽に人を誘いにくいゲームでもあったりします。

チグリス・ユーフラテス Tigris & Euphrates

Designer: Reiner Knizia
Artist: Doris Matthäus
Publisher: Hans im Glück, Mayfair Games, Pegasus Spiele, Fantasy Flight Games
(1997)
for 2-4 players
好み:AA
時間:2時間程度
2人でも:おすすめしない


どんなゲーム?

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チグリス・ユーフラテス』は、古代メソポタミア文明の時代、チグリス川とユーフラテス川に挟まれた肥沃な三日月地帯を舞台として、商業/農業/政治/宗教の4つの分野で王国を発展させて、戦争・内戦によって覇権を争うタイル配置ゲームです。


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ボードには2つの川とその流域が描かれていて、全体がマス目で区切られていますね。

プレイヤーは、王国を発展させるべく、商業 / 農業 / 政治 / 宗教の4つの分野の指導者コマを、ボード上のいろいろな地域に送り込みます。そして、農地や神殿を意味するタイルを同じくマス目に配置して、国を大きくすることで、勝利点となるカラーキューブ (緑 / 青 / 黒 / 赤がそれぞれ 商業 / 農業 / 政治 / 宗教に対応)を獲得します。

ゲームの目的は、分野ごとのカラーキューブをまんべんなくあつめること。ところが、このゲームでは、最も少ない数のカラーキューブが勝利点になります。そのため、つまりは4分野を平均してあつめなければなりません。

最も少ない数の色が大切というのは、特徴的なルールですね。 Highest-Lowest Scoringと呼ばれたりもして、同じくクニツィアによる頭脳絶好調でもみられる形式です。

ゲームのコンポーネントは、商業 / 農業 / 政治 / 宗教の4つの分野に対応した4色のタイルたくさんと指導者コマ、モニュメントとカラーキューブ。そして、オールマイティの色として数えられる財宝キューブ。そしてついたて。手札となる6枚のタイルと、勝利点となるカラーキューブは、ついたてに隠します。

ゲームが進み、王国の拡大がすすむと、王国同士でタイルがつながることが起こります。そうなると、戦争です。勝敗は、各王国のタイル数で決まりますが、手札からおぎなって加勢することもできます。そのため、戦争が起こりそうな色のタイルを、密かにあつめておくことも大切。

戦争に負けた王国のタイルは、全て取りのぞかれます▶️▶️▶️盤面変化がダイナミック!

カラーキューブは、自分の指導者コマがいる王国に同色のタイルを配置するともらえます。モニュメントに接続していると、毎ターンもらえます。戦争に勝つと一気にもらえます。

*ルール説明の詳細について書くと長くなってしまいますので、今回は省きます。ご興味のある方は下のリンクをご参照ください。


プレイ感

といっても、なんていうか・・・プレイ感を表現しにくいゲームなんです。

まず、ルールが覚えにくくて、取っつきづらいのは確かです。目標が見えづらく、慣れるまで序盤で迷子になりやすかったりもします

中盤になると、盤面がどんどん変化していく中、あれこれ目配せしないといけないし、プレイの自由度も高い。考えなきゃいけないことがいっぱい。最終盤になって、ようやく落ち着くこともあるのですが・・・。

自分だけの王国を持って、他プレイヤーと戦争っていうのが普通なんですが、本ゲームでは違います。プレイヤーが王国自体を担当するのではなくて、4分野の指導者コマという役割をあたえられていることで、1つの王国が他プレイヤーと運命共同体になっているのです。ここは直感的に理解しにくいところ。

他プレイヤーと王国を共有しながら、ときに領土を大きくし、ときに戦争や内戦でやりあい、ときにモニュメントを共有しながらゲームが進んでいく・・・。ゲームの中盤では、相手の王国との間に戦争が起こります。負けるとタイルが全部消滅したりして、まさに焼け野原となります。

終盤は結構地味になることもしばしばで、足りない色のタイルをポツポツと置いて1点, 2点ゲットして終わることもあります。

『チグリス・ユーフラテス』、プレイ中、考えることがとにかく多いんです。

手札のマネジメントも大切だし、モニュメントの確保も大事だし、相手の獲得したキューブもだいたい覚えておかないといけないし、財宝駒はなんとかGETしたいし、常に戦争がしかけられることを警戒しないといけないし、順調に大国をつくっても、災害タイルを置かれることを頭に入れておかなくちゃといけない。

1手しゃがんで、手札の入れかえが最善手になることがあったりして、一筋縄ではいきません。


ゲームデザインの観点

ゲームデザインの観点といっても、どうやって作られたのか予想がつきません。

ゲームのメカニクスを説明することも容易ではありません。陣取りともいいきれず、エリアマジョリティだけでもない。戦争・内戦もあるけれど、直接攻撃バンバンというようなゲームでもない。

ボードとタイルとモニュメントと指導者駒のような感じで、盤面をいろどるコンポーネントの要素は少ないですが、クニツィアのゲームにしてはルールは煩雑といえるでしょう。

例えば、クニツィアのサムライは、ルールが先行したシスティマティックな計算されたゲームです。枠組みがきちんとしています。

しかし、『チグユー』は系統だって作られた感じではありません。クニツィアっぽくない感じがします。「あ、これは面白そうだな」という1つの局面(おそらく戦争や内戦のあたりかなと思う)から逆算して、ルールを足し引きしていき、最終的な形になったんじゃないかなと推察します。

他に似ているゲームがないようにも思います。

2019年に発売された、同作者クニツィアのバビロニアも、チグリス・ユーフラテス流域を舞台にした全体ボードへのタイル配置ゲームなのですが、こちらの方が陣取り要素が強く、両者のプレイ感は全く異なります。

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*『バビロニア』の盤面です。

以前、ご紹介したオレゴンも、ボードのみた目とか、全体で共有するボードのマス目に自分のコマ(もしくはタイル)を置いていくという意味で似ているのですが、チグユーはもっと直接的で、アナログ的である、という印象です。

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『チグユー』では、タイル配置や指導者駒の配置などプレイヤーの自由度はかなり高く、大きな戦争という直接攻撃的なものを許容しています。

多彩な選択肢で、展開も派手。そういうのは、コントロールが難しいはず・・・。

なので、これがゲームとして成立させたのは、クニツィアのゲームデザインの力技で成立させているのかも。

モニュメントや財宝駒が効いていて、戦争の意味を大きくし過ぎていないのもありますが、何よりHighest-Lowest Scoringのルール(そして衝立)がバッチリはまっています。暴れ馬を制御したといえるのではないでしょうか。

1色、2色のキューブを集めるのであれば、戦争に勝つための大きな王国と、モニュメントの確保が作戦になります。ただ、4色まんべんなく集めようと思うと、最も集めにくいであろう色の確保に悩まされます。つまり、戦争だけに注力することもできないのです。

面白いのはいうまでもなく、盤面のダイナミックな動きは、まさに文明の栄枯盛衰。他にはない独特のプレイ感、濃密な2時間を味わえます。名作100からは外すことができないゲームだと思います。

では、今日のnoteは以上です。

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名作探訪 その7 硬派なタイル配置ゲーム『サムライ』

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