マガジンのカバー画像

気儘な箱入りエッセイ

31
まだまだ紙媒体が盛んだった頃に短いエッセイを書いたものを読むと、あれまあ恥ずかしいことです。少し直したり変えたりして掲載しています。これからのものは、また別マガジンを発行予定です… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

画廊のお店番の日々

個展が始まって、明日で二週間。 4月もどんどん日にちが過ぎて、すっかり桜が満開に近くなった…

Chie_Matsui
1か月前
13

「おもいだせない、おもいだせない」

 おもいだせない、おもいだせない。あれらは記憶のどこにあるのだ?混濁した精神を引っ掻き回…

Chie_Matsui
7か月前
7

蓮の匙

このところ急に冷え冷えとして、西日の照りも光の塊のような夏場と違って厚みをなくし、柔ら…

Chie_Matsui
1年前
4

コジャレター「味覚について」

 このところ、味気ない食事をしています。右側の奥歯を中心に歯茎が腫れてとても痛く、噛むと…

Chie_Matsui
1年前
1

コジャレター「聴覚について」

 私は大きな音がわりと苦手です。にもかかわらず制作中は、電動工具をブンブンうならせてもわ…

Chie_Matsui
1年前
2

コジャレター「視覚について」

 私は近づかないと見れない美術家です。視力検査では、ばかでかい欠けた輪っかの絵を持ったお…

Chie_Matsui
1年前
2

菊の花

 玄関の菊の花を見た。買ってからもう二週間はたっているだろうか。 白と薄紫の菊の花弁は全部ひらいて、こぼれる前の花の重みをささえる茎も、花器に満たされた水を吸い上げるのに充分な堅さをいまだ保っている。  菊の花をぼんやり見ていたら、ふと、三年前にメキシコヘ行ったときのことを思い出した。季節はちょうど今頃である。メキシコでは、いくつかの教会を見学する機会に恵まれた。そして予期せぬことに、私はいずれの教会の中へ入っても、祭壇に供えられた菊の花の数々を見ることができたのである。そ

美術用語の散乱

 日本の美術状況は大変むつかしい。美術史自体が明治以降、細かく切れ切れになっているので距…

Chie_Matsui
1年前
7

コジャレター「触覚について」

 私はさわって確かめるのが好きです。とりわけ壁をさわるのが好きなので、どんな場所へ行って…

Chie_Matsui
1年前
4

名のある宝

 国の有名なお宝の、伴大納言絵巻を初めて見た。会場に入ると、壁面のガラスケースの中のわず…

Chie_Matsui
1年前
1

蟻と甲虫

 イソップ寓話に、「蟻と甲虫」という話がある。多くの人が思い出すことのできる「蟻とキリギ…

Chie_Matsui
1年前
3

植え替えの季節

 わたしは、ひところ三無主義と呼ばれた世代に属している。大学に入ったのが七九年で、そろそ…

Chie_Matsui
1年前
1

風景

 生野区にあるアトリエの近所は、大阪でも数少なくなってきた風景を残している。  小さな町…

Chie_Matsui
2年前
10

クモがつないだもの

 庭の木に、夏の終わりから一匹のクモが住み着いている。  庭といってもマンションの一階についている小さな地面で、雑多に植わった樹木のうちのツバキとアオキとの間にクモはある日一本の糸を渡し、みるみるうちに、80センチメートル程の間に、独特の透き間を織り上げていった。  この小さな面積の庭では、それなりにいろいろな生き物をみることができる。もちろんクモは、それらのうちで、食料にできるものがいるから住み着いている。  木の根っこにはアリが巣をつくっている。どこからともなく季節はずれ