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マスターピース

 明日から、AMBIENT KYOTO 2023が始まる。
期間は10月6日金曜より12月24日日曜まで。
2年目の今年は、展覧会、ライブ、朗読など様々な催しが行われる。
詳細は、以下のホームページをご覧ください。

 朝、10時台の特急は学生たちも多く満員に近かった。ダブルデッカーの2階、偶然空いていたところに腰を落ち着けた。三条で地下鉄に乗り換え、地下鉄烏丸丸太町の東南7番出口で降りる。

 出口は京都新聞社に直結していた。故坂本龍一さんと高谷史郎さんによる作品 "asyncーimmersion" が京都新聞社の地下一階に展示されていた。
 新聞の印刷工場跡の地下一階は広く天井も高い。印刷機械を取り払っていても、床や壁や天井は素直な矩形に収まらず、素材も様々で、空間自体がとても強い。そこに自然にあったかのように作品がインストールされていた。

 巨大な絵巻物を広げたような水平軸の映像と立体感のある音楽の響きにスッと吸い込まれた。かつて観た技法の延長にある作品だけれども、全く異なっていた。少なくとも、私にはそのように見えたし聞こえた。

 継ぎ目のないLEDパネルは、複数台数のプロジェクターを繋いだ映像ではない。ふすまの継ぎ目は一切ないと思えば良い。徹底した平面性が繊細な映像の、変化する光に没入することができる。
 坂本龍一さんの音楽”async"は、約1時間2分、高谷さんの映像もそれとほぼ同じ時間だと思うが、映像と音楽は各々少しづつづれていくようにプログラムされている。映像の中で起こるズレと音楽の中で起こるズレによって、映像と音が同じ組み合わせになることは起こらない。しかし、いつもシンクロしているように感じられるのは、深い信頼関係の上で成り立っている芸術家同士のなせる技としか言いようがない。

 三時間近く滞在したが、ズレは確かにおこっていた。常に終わることのない夢のように生々流転が続く。どこか哀しみと喜びがないまぜになったような感情を抱く時差の旅を続けているうちに、ひたすら名付けようのない美しさの中に佇んでいることに気づく。重力を感じさせない軽さの中に様々なテーマが浸み渡っている。その場に滞在した私の体の輪郭は次第に溶け出していったようだ。そうでなければ、私はせっかちなので、音楽だけでも、映像だけでも三時間ほとんど気をそらすことがなくじっと集中することは難しい。

 名付けようのない、作品=マスターピースと出会った。
現代のマスターピースを鑑賞できたことは、孤独でありながら至福の時間を過ごすことができたということ。

 私の拙い言葉では、お二人の心の通った暖かな作品を解説することは、できない。今日作品と見えることができた喜びを忘れないうちに、備忘録として書き留めておく。

 恥ずかしくなれば、削除します。

©️松井智惠              2023年10月6日

 高谷さんは、現場で2週間にわたり、映像と音の出力調整をされたという。無駄をきちんと最後まで素材の中で使い切っていく技術と判断、逡巡とそれにかかる圧力は作品の背後にあるものだ。


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