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オオカミ村其の三十三

「幻の王国で二度目の戦い-瑠璃と白オオカミ現る」

 「ラン、バラ、どうずればいいの」と、瑠璃が言いました。白オオカミのランとバラは、「瑠璃、お母さんに教えてもらった歌を歌うんだ」と、言いました。「お前の名前は、青龍さまの世界とつながっているんだ」瑠璃は「いにしえの道」の歌を歌いました。 瑠璃の声は、空にのぼってゆき、聞こえなくなりました。「だめだわ、青龍さまに聞こえていない」と、瑠璃は、座り込みました。「ぼくも、なにか歌わなければ」と、ボジは思いましたが「おひさまはぽっかぽか」しかうかびません。ボジは顔を真っ赤にして「おっつきさまは~ぴっかぴか~海の底までぴっかぴか」と、歌いました。二つのうたがバラバラになっていたのが、一つになりました。空のまだ上の方から、歌が帰ってきました。そして、青龍さまのからだにふりそそいだのです。

 青龍さまのからだを覆っていた瑠璃しじみは、羽を震わせ始めました。 まるで鱗のようにぴったりとあわさって、青龍さまのからだは、ふわりと、浮きました。「あ!」と、ボジたちはびっくりしました。青龍さまから貰った髭で、瑠璃はまぶたをなで続けました。そして「お母さまのところへ私を連れて行って下さい。青龍さま」と、泣きはらしました。「瑠璃、それはだめだ。人は龍族の世界に行けない」と、白オオカミのランとバラはいいました。
 その時です、青龍さまのまぶたが少しづつ開いてきました。そして、一つ息をすると小さな玉を吐き出しました。瑠璃はそれを手で暖め続けました。ボジは「おっつきさまは、ぴっかぴか~。空の上までぴっかぴか~」と、間違って歌い続けました。どうでしょう、玉は溶けて、見たことも無い青い色の首飾りが出てきました。

 「これは、お母様が首にかけてらしたもの」と、瑠璃は震えて青龍さまの首にかけました。「おっ星さまは、ぴっかぴか~空の上までぴっかぴか~」と、またボジは間違って歌いました。すると、浮かんでいた青龍さまの身体はどんどん高く上がって来たのです。瑠璃しじみたちは、青龍さまを外へ連れて行きました。ボジたちも急いで飛び出しました。
 がらがらと、裂け目の氷と岩はは粉々に崩れて行きました。

 辺りの空気が渦を巻いて、青龍さまを包み込みました。空の上から「架け橋」の歌が帰ってきました。あたりの空気を青龍さまが吸込みました。しんとした中で、瑠璃シジミの羽音だけが、聞こえています。「ボジ、そして瑠璃と白オオカミたちよ、お前達に助けてもらうとは、ふぉっふぉっ」と、青龍さまが口を開きました。
 「わしは紫玉と争うことはできぬ。龍の掟じゃ。瑠璃よ、お前の母はいづれこの世に現れる銀龍のお世話をしている身となっている、諦めよ」と、青龍さまは言いました。「瑠璃、この首飾りはお前の母が龍族として認められたしるしじゃ。わしを助けてくれたそなたにかえすとしよう」と、瑠璃に首飾りをかけました。「その首飾りは、龍族とお前しかもつことができぬ」。   

 瑠璃は、泣きながら大きな首飾りをつけました。ボジは青龍さまの髭を首に巻き付けました。「ボジや、わしの玉は奪われてしまった。どうか取り戻してくれまいか。龍の国へ帰ることができるように」と、青龍さまは言いました。「青龍さま、これから紫玉から取り戻してきます。ここで待っていた下さい」と、ボジは駆け出しました。「相変わらず歌はへたじゃが、めっぽう足の短いボジよ、龍のたのみじゃぞ」と、青龍さまはボジの後ろ姿を見送りました。瑠璃と白オオカミのランとバラも走っていきました。

 「もう一度、『永遠』に閉じ込めてやろうじゃないの」と、紫玉は青龍さまのいる場所に向かおうとしました。「紫玉さま、それは二回できぬ技でございます」と、付き人が言いました。「そのとおり。そなたは、お忘れになったのかな」と、白い髭の人が言いました。「お前も、一緒に打ち砕いてやる。邪魔者めが」と、紫玉は火炎の瓶を投げつけました。「白い髭がこげるので、やめてくだされ」というと、火炎はすっと消えました。「お前は、誰じゃ」と、紫玉は大声で言いました。「ちぢれ山に住んでいる者じゃ。名前は、もう忘れておる」と白い髭の老人は、答えました。

©️松井智惠    2023年6月11日改訂 2015年1月16日、2月19日FB初出

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