うたを歌わぬカナリアは

　　空を見上げては

　　なにをみる

　　草むら駆けぬ鹿は

　　空をみあげては

　　なにをみる

　　森を歩かぬ人は

　　空をみあげては

　　なにをみる

　　日だまりで眠れぬ猫は

　　空をみあげては

　　なにをみる

　　池でおよげぬ鯉は

　　空をみあげては

　　なにをみる

　　花をさかせぬ木は

　　そらをみあげては

　　なにをみる

　　歌って　囁いて　叫んで　呟いて　

　　歓喜にみちて　怒りに満ちて　哀しみに満ちて

　　ちいさく　ちいさく　ちいさく

　　もっと　

　　おおきく　おおきく　おおきく

　　もっと

　　ちいさく　ちいさく　ちいさく

　　もっと

　　おおきく　おおきく　おおきく

　　彼女の目に届くところまで

　　雨ふる　空から

　　雲かれぬ空へ

　　風ぬける空から

　　雷かがやく空まで

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　緑の葉色

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　水の青色

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　黄のキンポウゲ色

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　白の菊色

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　赤の桃色

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　銅のなべ色

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　銀の鋏色

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　金の針色

　　わたしは彼女に

　　口紅をぬってあげよう

　　彼女がうたうまで

　　彼女に届くものは　突き抜ける響き

　　うたを歌わぬカナリアの嘴は

　　すべての移りゆく色

　　みるものは　そら

　　2002年1月30日　筆　2021年10月13日改訂　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　＊ビデオ作品「彼女は届く」のテキスト