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せめて私は、それを大切にしたいんだ。

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自分が書いた詩や小説等を集めています。
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記事一覧

【詩】いつかの花の記憶

いつかの花の記憶 花はいつか散ってしまうと聞いたから 透明なガラスに閉じ込めてしまいましょう 光を透かして、目を細めた一瞬に 煌めく花の記憶 香りはいつか薄れてしまうと聞いたから 透明なガラスに閉じ込めてしまいましょう 風が吹いて、目を細めた一瞬に 遠く薫る、いつかの花の記憶 奪われはしない、いつかの花の記憶 *** おすすめに表示されていた楽曲を聴いていたら、詩を書きたくなったので。

【詩】

私にアイを返してよって。 見つけてくれた これがアイだよねって 手を握ってくれる これがアイだよねって 笑ってくれる これがアイだよねって 涙を拭ってくれる これがアイだよねって 一緒に悲しんでくれる これがアイだよねって あなたがとっても輝いて見える 顔を見ると頬が緩んじゃう これがアイだよねって 繋いだ手を離したくない これがアイだよねって 過ごす時間はあっという間で、 待ってる時間がとても長くて、 いつもあなたのことを考えてる これがきっとアイだよねって あなた

【詩】余白

小さな声が聴こえるから 確かな声が聴こえるから 目を閉じても平気よね? 砂時計のかたちした 星座を見上げてみるけれど 手持ちのレンズを通したら 簡単に消えてしまうと知っている 言葉で伝えましょう 眠らない夜にも届くように 声で届けましょう 息をする夜が伝わるように *** 声、と書いておきながら声の方の準備がありません、ふと思いついたものを詩にしたので…… これでほんとに、おやすみなさい、です。

【詩】そむけ顔

最後にあとがきあります * そむけ顔 まるい瞳ですり寄って その膝のあいだでまるくなって 眠気をさそう声に眼を閉じる 気まぐれに現れる特等席 いっそ光栄に思いなさいよね いつも見上げているんだからたまにはいいよねと 少し高いところから見下ろして 降りておいでと伸ばされた手を知らんふりして つんとすまして見ていてあげる 誰にもなびかないんだから いい子にしていてあげる 上手く生きるのには大事なことよ たまには甘えてたまにはすまして ときどき困らせてあげる だけどほんと

【短編小説】金木犀

適当に座っていいよと言われて腰をおろしてから、周りに知った顔がひとつもないことに気がついた。何人かできた友人は、どこか違う列に座ったらしく見当たらない。 先輩に促されるまま適当に頼んだアルコールが運ばれてくる。暑いがジャケットを脱ぐ勇気もない。 知らない先輩を挟んで、一つ飛ばした左隣で、よく通る声が笑いを生む。自分とは程遠い社交性と、この顔に必死に浮かべた(不格好だろう)笑みの苦しさを対比する。 グラスの中のアルコールを煽った。 顔赤いんじゃない? 向かいの名前も知らな

【短編小説】彼岸花

路肩に彼岸花が咲いていた。 バスに揺られながら、刈り取られた田と、ガードレールの脇に点々と群生する赤を眺める。窓ガラス越しの陽は暖かった。眩しくて目を閉じた、その瞼にも陽の光を感じる。 荷物を抱え直す。眠って回復したい。温かな日差しに、溶けて紛れたい。 全てを駄目にしてしまいたかった。全てを手遅れにして、諦めて、暗いところでひとり息をしたかった。 温かな日差しが、頬をじんわりと侵食する。それでも僕は、まだなくならない。輪郭はまだ、溶け切らない。 それが何故だか、少し残念

【短編小説】stardust

夜空が明るくて、まるい地球から見上げる宇宙の奥行きを思った。なぜ手元が照らされていないのか疑問なくらいだった。この手の輪郭さえ捉えられないのに、どうしてすぐそこにいるあなたがわかるのだろう。どうしてその影に安心するのだろう。 、その隣で見たその藍を覚えている。 * 2023/7/22 19:29 タイトルはこちらの映画から。ファンタジーのわくわく感とと恋愛要素のある作品です。小学生の頃とても好きで年に一度は見てました。

【短編小説】薄紅。

『薄紅。』 触れた手が冷たかったから、彼も雨のなか歩いてきたのだと思った。 * チケットを受け取って、美術館のゲートをくぐる。必修科目のレポート課題さえなければ一生来なかったかもしれない、しんとした空間。 さらさらと見て回って、レポートに活かせそうなところだけメモを取った。ペアの彼はどこだろうかと、ショーケースを覗く人の背後を順路の逆向きに辿る。 結局、彼はまだ2番目の部屋にいた。特別展の度に訪れているというだけあって、こういうのが好きなんだろうと思う。声を掛けて急かすの

【短編小説】ゆめをみない。

ガラス瓶の中で揺れる、飲みかけのアルコールを支えにしている。怠惰な生活の鱗片を象徴するような水面の揺らぎ。それをひとり煽るのが慰めだった。 こうなるはずじゃなかった、と思う。こうなるはずじゃなかったから、こうなった自分なんてもう、どうでもいい。こうなった自分の行先に何があってもそれは仕方ないことだという気がする。 日々の小さな慰めを頼りにして、このつまらない自分に湧き起こる感情は(恋でも欲求でも)何でもいいから大切にした。身を滅ぼすならそれも全部、こうなるはずじゃなかった世界

【詩】陽だまり

大きな木の風裏で 芽吹いた花がありました 木漏れ日に葉を重ね 風に歌って 花びらを数えるような 風に吹かれる夜が訪れても それもすべて 日々の証になるでしょう つたう雫を数えるような 雨音に眠る夜が訪れても それもすべて 一輪の糧となるでしょう いつかあせる淡い薫りも いつか散りゆく煌めきも いつか紛れる雑踏の向こうに いつか暮れゆく夕陽の向こうに それもすべて 新たな葉に還るでしょう 歌っていよう 傍(かたわら)に咲く 名もない花を 歌っていよう 語り紡ぐ物語を

【短編小説】不幸自慢をする私たちは、健やかな安寧に満たされている。

2023年6月7日小説 ** "不幸自慢をする私たちは、健やかな安寧に満たされている。" 学生らしい文章が読みたいと言った直後にこんな一節から始まる小説を提出するあたりが、ことさら彼女らしかった。 「どう、センセイ。」 そう問われて、A4用紙2P分の短編小説の全体像をぱらっと確認する。まるで誰かの独白文のような、会話文もなく改行の少ない、字面を眺めただけで読み手をえぐってきそうな得体の知れなさ。それが返って読み手の目を惹きつけるのすら、彼女の思惑通りなのだろうか。

【短編小説】白昼夢。

『白昼夢。』 (最後に簡単な後書きがあります) ** 風に揺れる木々を見上げていると、どこか遠くへ連れ去ってほしい、と思う。私が歩いてきて、これから前進しなきゃいけないこの道ではなく、どこか遠くの、誰も知らない、草原か無人島の浜辺か、異世界でも何でもいいけれど、どこか遠くへ、と願ってしまう。 本当は、妄想にもならないような淡い現実逃避だとわかっている。だから、木漏れ日の落ちた幹を見上げて、少し肌寒い、その木陰の恩恵に与って少しのあいだ目を閉じる。 昔から妥協と諦めば

【詩】眠り。

昔は、電話もメールもなかった。だからきっと、月を見上げては、文を読んでは、歌を詠っては、顔も知らない遠くの誰かを想ったのだろう。 御簾を上げて、夜風に願ったかもしれない。 月を介して、歌に乗せて、琴をつまびいては、愛を唄ったかもしれない。 * 今日は雨ですが、雲に隠れる前は空の低いところに、まるい月が出ていました。月夜の、あのモノトーンに似た静かな世界で、琴の音が響く景色は。まるで世界に色がついたように、穏やかに、緩やかに、温かな願いが薫るのかもしれない。 ***

【散文詩】一握の星屑の

テーブルの上には何も飾らない一輪挿しを置いていたい。あなたがいる、私がいる。灯りのもとでしか美しいものを見つけられないなら、真っ暗な夜空の下でその輪郭だけを見つめていたい。馬鹿みたいにはっきりあなたを誤解してみたくて、言葉を包んだカラフルな不織布だけを手元に残している。 "絶対に花束なんて、贈らないでください。" 愛は輪郭だけでお腹いっぱい。一輪挿しに夜空の下で見た輪郭を飾ればそれでちょうど良い、目をひらけば何もない方が。 *** 引用符:最果タヒ「不死身のつもりの流