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【短編小説】がれき

昼間とかけ離れた静けさが救いだった。休みの日には、団地中の小学生が空き地や駐車場の脇で遊んでいるのに、日が暮れると途端にいなくなる。そうやって彼らが団地に吸い込まれていった傍らで、自分はこうして街灯の明かりの下に取り残されている。

新しいクラスで馴染めないわけじゃない。いじめられているわけでもない。だけどふとした時にはっと我に返るような。すうっと冷めてしまうような。どこか遠い感覚。

平気で並走しながら、集団で騒ぎながらから帰る。あの時ふと、このまま最後尾から消えてしまっても誰も気がつかないかもしれないと思ってしまったのだ。
じゃあまた学校で、そう言って遠ざかっていく笑い声に、夜風に混じって取り残されている。

団地の角、リビングのカーテン越しにほんのり灯りが灯っているのを確認し、そのまま団地をつきぬけて坂を下った。少しくらい遅くなっても、何も言われないはずだった。

小学生の頃よく遊んだ公園は記憶の中より随分と寂れて見えた。街灯を遮る木立の内側はやけに静かで、誰もいないのを確認して砂場のそばに自転車をとめる。きっと数時間前までは小さい子たちで賑わっていたはずのブランコも滑り台も、今は街灯に頼って冷たくずっしりと光っている。

ブランコにそっと腰を下ろした。ひんやりとズボン越しに冷たさが伝う。
周囲を見回してから、少しずつ漕いでいった。夜風の涼しさが心地良い。ふわり、ふわりと重力がなくなる一瞬、何だか自由になれた気がした。
街灯がなければ何も見えないような薄暗い公園に、ぽつんと居る自分。

そんな自分がちょっと悲しくて、でもやっぱり自由だった。





***

あとで後書きを書きます。
(大した分量ではないと思いますが別記事にしますね)

最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。