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VRChatアバター事情のぞき窓


MetaのVRヘッドセットのMeta Quest 3から半年、さらにXR/AI分野での関係強化などがニュースされる中、いかがお過ごしでしょうか。

昨今では「自己表現のための代理キャラクター」を意味する「アバター」という単語も浸透してきました。
おそらく今業界に関わり始めた方、興味を持った方というのも多くいると思います。

いちどは「アバター」というものに触って、文脈を理解し、その技術を体感したいところですね。
購入ひとつとっても、販売サイトライセンスデータ構造など、気になる点は多く、昨今はユーザーに求める技術の高度化と、それに対抗するツール/サービス開発・規格化が推し進められています。

この記事では、技術そのものよりは周辺情報になりますが、VRSNS「VRChat」のアバターを中心に、VR主観始点での着用に特化した3Dモデルや技術、文化、クリエイター事情を覗いてみましょう。

VRChatとは?

VR空間上で、各個人が主観視点でアバター(身体)・ワールド(居場所)でコミュケーションを取るゲームアプリです。
特徴として「ゲームエンジンUnityからアバター・ワールドをアップロードできる」ため、ゲームと互換性のあるアセットで空間を構築でき、ゲーム開発技術がスムーズに転用できるため、ゲーム業界などから多くの参入がある活発なメタバースのひとつです。

どのようなアバターの入手手段があるのか?

主なアバター入手手段として、
販売サイトから購入する「市販アバター」と
個数限定・特注などのブランド/プレミアムを重視する「ワンオフアバター」に分けられます。

気軽に始めるなら100円~10,000円とお手頃な「市販アバター」が良いでしょう。
「ワンオフアバター」は、専門家からの手厚いデザイン・技術サポートを受けられる代わりに、安くて200,000円以上(去年)の、値上がり傾向のあるもののです。

主要購入サイト(日本系)

日本では購入サイトはBOOTH
もしくはVketStoreで活発に取引されています。

バーチャルマーケットなどの代表的なイベントを機会に「健全なアバター売買経済圏を作る」という文化が浸透し、
いくつもの大手が自社キャラクター・グッズ販売やイベントで出展するまでに成長しています。

特に、後述する「違法アバター」との差別化を標準とする「ライセンス」形態がしっかりと日本文化になじむ実装がされている点が特徴です。
このため、初心者でも安心して商品に手を伸ばせます。

代表的なアバターライセンス形態

この他にも個人レベルの独自ライセンス等はありますが、
以下のライセンスは、次の利点から広く採用されています。

  • ジェネレーターあり
    最適な日本語/英語ライセンス文章を、オプションの組み合わせから生成

  • オプション選択式
    個人/法人/二次創作/政治/性的/暴力表現コンテンツへの利用を、作者側は選択肢の組み合わせだけで表現できる

UVLicense 

VRChatを含んだメタバース全般での個人運用を前提とする。
基本的な運用ケースを包括的に許可する。
ただしメタバース個人運用以外の観点では不明瞭(どちらともとれる)場合に注意。

  • 個人のアバター利用のみなら、読むべき文章量が抑えられ、最低限のアイコン化されたオプション(性的/暴力表現など)の理解だけで良いため、エンドユーザーは速やかに全体像を把握しやすい。

VN3ライセンス

多くの運用を「許可する/許可しない」の観点から明示しており、
アバターを多目的に転用してよいか明示される。作者の選択次第なので「読んでみるまで何が許されるか分からない」というトレードオフ。

  • VTuberやインフルエンサーをターゲットとした「VTuber化」「ゲームキャラ化」「フィギュア化」「法人利用」など多目的を前提として管理するための形態。

主要購入サイト(海外系)

海外販売サイトでは
GumloadJinxxyなどのサイトがありますが、

後述する「違法アバター」が紛れていたり、
単純に「日本と著作法が違う」「二次創作の文化が違う」ため
合法性の認識がズレていることもあります。

わかりやすい点では「組み立て済みフィギュア」に近い販売がなされます。
たとえば「作者AのアバターA1上半身」と「作者BのアバターB1下半身」を
「作者Cが切り貼りして組み合わせたものアバターC1」は、

海外では「作者Cのオリジナルである」と認識するのが一般的なようです。
日本では「作者A、BのオリジナルでありCにオリジナル性はない」と
みなすケースが多いです。

これらの文化的な齟齬により
「日本との文化およびライセンス形態の違いを認識しない海外作者が、
 日本作者のアバターのパーツを無断で切り貼りした」物が売られるような
トラブルがあり、上記のバーチャルマーケット等の国際化したイベントにより相互理解が進みつつありますが、ときどき問題が発生しています。

このため、海外アバター購入時はライセンスを慎重に理解する必要があります。

「パーツの切り貼り」が基本なので、
「パーツの切り貼り禁止」と明示されてない(日本作者が想定していない)ライセンスの場合、「暗黙的に許可」とみなすようなケースがあるようです。

違法なアバター

ゲームの内部データを無断で抽出した「リッピングアバター」、

いわゆる「違法アバター」が跋扈していた時期がありました。
日本文化圏においては大幅に減り、特にユーザーの自主的な
通報や周知の文化が根付いており、
昨今では、上記のような「文化的な合法の解釈の違い」
によるトラブルこそあれ、比較的安全になりました。

アバター構造分類

アバターにプレイヤーの手足の動きを追う(トラッキング)機能を、どのように活用するかで差が出ます。

人型の動作のサポートを一切無視した「ジェネリック型」

多脚戦車はロマン。組み込みアニメーションが魅力。

人型の動作サポートを最大限活用した「ヒューマノイド型」

かわいいだけでなく、ライセンスも含め多目的な運用ができ、多くの対応衣装がある、ある意味「最強の女」。

その他にも色々な応用があります。
- アイテム出し入れ「ギミック型」
- 手足の動きにリンクして第二の腕などが動く「拡張アーム・レッグ型」
- IKで関節の動きを書き換える「逆関節型」
- 人型動作サポートを任意に切り替える「スイッチ型」
…等々
これらは上記の「ジェネリック」「ヒューマノイド」からの発展・応用なので、詳細は割愛します。

ユーザー改造前提のアバター構造

VRChatのアバターは「Unityゲームエンジンからアップロードする」という特徴のため、拘りだすと「Unityゲームエンジンで表現できる限り」どこまでも技術的なブラッシュアップが可能です。

それゆえに「アバターの服を(購入時とは別のものに)着替えたい」などの作業を手動で行うと、様々な技術的障壁がユーザーに襲い掛かります。

この技術的障壁を、最初からアバター作者側で吸収するために、様々な工夫が組み込まれていることが多い点が特徴的で、この構造を眺めるだけでも学びがあります。

「MMD」対応表情フォーマット

通称「MMDダンス」と呼ばれる、特定のアニメーションフォーマットに最初から沿ったサポートが良く見られます。
これは「自分のアバターにプロのダンスアニメーションを再生させる」という鑑賞文化が強く根付いていており、かつ「存在する表情セットがテンプレ化されている」ため購入者側も理解しやすいメリットがあります。

「着やせ」対応アニメーション

3Dモデルキャラクターが「肌にぴっちりの服」を着せることは難しく、対策として「体の部位ごとに非表示/極端に細く」できるようなサポートが見られます。

「ねじれ対策」補助ボーン

通常の関節アニメーションだと「腕の捻り」で関節が極端に細くなったり破綻する場合があります。これを「Constraint」と呼ばれる、補完用のボーンで微調整しているアバターによって、腕/腰/胴などの破綻を軽減するものが見られます。

「テクスチャ入換」レイヤーテクスチャ

衣服や体表の模様など「色変え」を前提とし、販売時のテクスチャをレイヤー分けすることで、Photoshop等のアプリがあれば楽に部分的な色変更ができるサポートも見られます。

その他の「物理演算」「パーティクル」のサポート

Unityゲームエンジンがサポートする範囲内でアバターを表現できるため、
アバターに物理判定やパーティクルを仕込み、銃や魔法など、よりリッチな演出を仕込めるようにしたり、こういった「演出単位」で販売する場合も見られます。

これらの技術を「ユーザーに理解してもらう」ことを要求する現状の是非と対策

ここまで駆け足で紹介しましたが、はっきりいって「ゲーム制作プロの現場の知識」であり、これを「ゲーム制作と全く無縁のエンドユーザーに理解してもらう」ことを前提とした、極めて特殊な市場がアバター文化として存在します。

素朴なユーザーコミュニティは、アバター改変の技術を共有する過程でコミュニケーションをとり親睦を深めていますが、アバター作者はよりリッチな表現に進み続けるため、必要技術レベルが上がり続けています。

これらの懸念に対抗するために、多くの企業側のサービス、またはユーザーコミュニティ手動のツール開発が存在し、想定するユーザーの「ライフスタイル」に合うように「カスタマイズ性」と「ユーザビリティ」のせめぎ合いの中で開発が続けられています。

次回は、これらのツールや、ユーザーのライフスタイルのお話ができればと思います。
ぜひ次回記事もご覧ください。

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