希望の詩

希望の詩

あたしは悲しくなって
ごはんが食べられなくなって
手足が細く細く痩せて
骨もすかすかになった

食べても吐いてしまうから
歯が酸ですっかり溶けてなくなり
誰とも話をしなくなった

もう誰の声も聞きたくないから
あたしは耳を引き千切って
ただの穴になった耳の跡は
髪に覆われて誰にも見えない

誰とも話さず何も食べないから
鼻と口は鞘のようにかたくなった

真っ直ぐに誰かの顔を
見つめることが怖くなって
あたしの両目はいつも両横を見てる

歩くときはいつも爪先立ち
足音がうるさいと言われるから

静かに血が流れる傷だらけの裸足
癒合して4本指になった痛み

誰もあたしと手をつなごうとはしない
あたしも誰かのために
指を動かすことはもうしない

5本の指は癒合して1本の腕となり
誰もあたしに触れることがないよう
肘から下にやわらかな棘をつけた

あたしの口は鞘のようだから
いつも息苦しくコホコホと咳き込む
咳をするたび胸の骨がかたくなって
ドラゴンのような突起ができた

いつの間にか鎖骨がつながっている
V字の骨は腕の打ち下ろしのたびに
しなやかで悲しい弾力をもつ

この頃のあたしはもう寝たきりで
褥瘡で大きく失われた肉片の間から
尾骨が長く伸びて露わになっていた

ながらく髪を切っていない
全身の産毛も長く伸び放題だ
あたしの流した血と腐りかけの肉片で
あたしの全身は赤褐色に染まっている

最後のちからをふり絞って
ちいさな部屋の窓を開けた
上昇気流の強い風が吹きわたる

どこへ行こう
1000Km離れた小笠原諸島がいい
双眼鏡を手にしたあの人が
きっとあたしを見つけてくれる

飛び疲れて死んでもいい
双眼鏡を手にしたあの人が
泥にまみれた絆創膏だらけの手で
醜く朽ち果てたあたしの身体を
きっとやさしく撫でてくれる

2023年
希望の詩
小笠原猿子

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