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『セクシー田中さん』は映像化が難しい漫画なのか?~脚本術から見る検証②

前回の記事では『セクシー田中さん』のプロット、キャラクターを分析して、非常に映像化しやすい構成の作品であることを説明しました。今回は脚本のセオリーと合わせて、作品の内容について踏み込んでいきたいと思います(※一部内容のネタバレを含みますので、ここから先を読み進めるかどうかは各自でご判断下さい)。

ストーリーのコンセプト

It's not just a revue where one song is done, then another. There are concepts and ideas at work.-Hal David(単に一曲やってまた次の曲、というショーではない。コンセプトやアイデアがある)

歌や芝居、漫画、映画、どんな創作物も、作品の裏側には必ずアイデアやコンセプトがあります。コンセプトは作品の核を成すものです。核があるからこそ、作品の世界観やトーンがブレずに一貫性が出ます。コンセプトは創作者のオリジナリティーがあればあるほど、ユニークで評価が高くなります。一方、商業的な作品は幅広くマスに訴求するものでなくてはならず、オリジナリティーと市場に受け入れやすそうな、あるある要素を組み合わせたコンセプトを作ります。ハリウッド映画はその手法を取っています。

ストーリーのコンセプトは様々なものがありますが、マスに向けての商業ドラマ・映画のコンセプトとは「このドラマの中で主人公(登場人物)に何を達成させたいか?」です。主人公はどこに向かっているか?何が主人公のゴールなのか設定します。物語に説得力を持たせるためには、ゴールは必ずその人にとって、価値があるものでなくてはなりません。ゴールには貧しい人が大金を得る、独身者が婚活して結婚相手が見つかるなど物理的なものがあれば、トラウマに苦しむ人が回復する、不仲だった家族が仲良くなる、人格が未熟だった人が人間の幅を広げるなど精神的なものがあります。

商業作品のゴール

商業作品のゴールは大きく分けて、以下の5つのタイプがあります
①TO WIN
戦いに勝利するために頑張ります。アクション映画にあるあるですね。恋愛ものなら好きな人の愛を勝ち取るラブコメが該当します。例、ゴーストを退治する『ゴーストバスターズ』など他多数。
②TO STOP
時間的制約を受け、危機が迫っているものに向かって、被害を未然に防ぐために戦います。例、小惑星が地球に衝突するのを止めようとする映画『地球が静止する日』、車に仕掛けられた時限爆弾を解除しようとする映画『タイムボム』他多数。
③TO ESCAPE
トラブルから抜け出す、脱出するために悪戦苦闘します。例、強盗に占拠された部屋から脱出を試みる『パニック・ルーム』など。
④TO DELIVER
人から頼まれたり、情報や思いなど何かを運んでくる役割を果たします。例、友人の事件の真相を解明しようとするドラマ『リバース』、施設の認知症の老女にノートに書いた物語を読んで聞かせる『君に読む物語』、元首相の自叙伝のリライトを依頼される『ゴーストライター』
⑤TO RETRIEVE
自分や他人が傷つけられたり奪われた何かを取り戻すために奮闘します。例、テレビ局のセクハラスキャンダルに迫る『スキャンダル』冤罪をかけられて名誉を回復する『リチャード・ジュエル』。

『セクシー田中さん』登場人物のゴールとは?

ここで『セクシー田中さん』でストーリーを動かしているメインの登場人物3人を見てみましょう。

田中さん
ベリーダンサーとして極めようと中東に行くためのお金を貯めている。
朱里
男性に価値を決められる可愛いだけの派遣OLから抜け出したい。
笙野
昭和脳で家庭的な女性と、将来温かい家庭を持ちたい。

三者三様ですが、3人ともゴールは「恋愛成就ではない」のです!この漫画のドラマ化でラブコメ設定にするのは、始めから無理があったのですよ…。

ゴールを設定した後は、ゴールに辿り着くまでの道筋を作ります。「ご都合主義」という言葉がありますが、あまりにも主人公やストーリーの進行に都合の良い展開になって、リアリティーが欠如したものがそう呼ばれます。いくら面白いそうなゴールを設定しても、主人公無双で難しい問題があっさり解決してしまったり、周囲の人が誰一人反対せず協力してくれるなど、ゴール達成を阻害するエピソードが一つも無ければ「ありえない」と白けてしまいます。見ている人に共感されるドラマにするには、ゴールに立ちはだかる壁、運で人生が左右される瞬間、夢を諦めそうになる心の弱さなど、現実と同じような要素をストーリー内に織り込む必要があります。

主要キャラに感情移入してもらうためには、以下の4つの点を劇中で表します。

①エンパシー
ドラマ内のエンパシーとは、見ている人に登場人物と同じような気持ちになってもらうことです。非の打ちどころのない人には誰も共感しません。また人畜無害な人は興味を持たれません。普通の人に共感されそうな要素を、登場人物に盛り込みます。仕事では優秀な人がプライベートでは恥ずかしい失敗をしたり、明朗快活な人に辛い過去があるなど欠点やギャップを作ると、見ている人はキャラに自己投影して、一緒に嬉しくなったり悲しくなったりエンパシーを感じるようになります。

②願望
願望とは心に思い描いている、自分がそうでありたいと望む状態です。人間は自分の理想の姿、憧れの仕事など理想に向かって行動します。また行動出来ない人にも、なりたい自分の姿、願望があります。現在の自分の姿と理想の自分に隔たりを感じているからこそ、モチベーションが低くなって行動出来ないのです。モチベーションは行動力の源泉です。願望には「昇進したい」「憎い人に復讐したい」など外側のものと、「自信をつけたい」「過去の自分を許したい」という内側のものがあります。登場人物がどんな願望を心に抱いているか、何をモチベーションにして行動しているか、明らかにすることで、見ている人は「この人はこれからどうなるんだろう?」「願いは叶うだろうか?」と考えるようになります。

③コンフリクト
コンフリクトとは意見の不一致、周囲と調和出来ない、など自分にとっての望み、行きたい方向と周囲の状況、他者の望みが異なる時に発生する衝突です。コンフリクトには物理的なものから、信念、考え方の違いから生まれる内面のものがあります。大事に取っておいたお菓子を誰かが勝手に食べた、私立中学受験派と公立中学派で意見が対立するなど、日常生活ではしょっちゅうコンフリクトが発生しています。ストーリーを面白くかき回すためには、なるべくゴール達成に関連したコンフリクトを作ります。特にドラマの山場となるクライマックスの前段階に盛り込むと、ハラハラして臨場感が高まります。

④リスク
その人にとってリスクになる行動を取らせます。リスクになる行動には、プラスとマイナスの両方のものがあります。
プラスの行動とは現状維持から抜け出す挑戦です。挑戦するリスクを取らないと徐々にジリ貧になりますが、リスクが高過ぎた時はゲームオーバーになります。例えば貯金1000万の人が500万円投資につぎ込むのはハイリスクですが、100億円資産がある投資家なら500万円はリスクになりません。本人に負荷が強すぎず、現実的に少し達成が難しいレベルのリスクを取らせましょう。
一方マイナスの行動とは、物事の判断が甘く自らピンチに陥ってしまう類のものです。夏休みの宿題を最後の日までやらないのは、その典型でしょう。
またマイナスの行動には表に見えているリスクと、見えないリスクの2種類があります。見えているリスクは家の鍵をかけ忘れる、重要な会議に遅れるなど物理的なもの、SNSの書き込みで訴えられるなどは見えないリスクです。
どちらのリスクも劇中でリカバー出来る範囲に設定します。例えば仕事の最終確認を怠った結果、プロジェクトが頓挫する程度ならストーリー進行が止まるほど大きな影響はありませんが、失業まで行くとその後の話の続きが難しくなるでしょう。主人公が失敗しても、ストーリーが崩壊しないレベルで収まる適切なリスクの範囲と量を考えます。自分のコンフォートゾーンから出る、難関試験に挑戦してみるというプラスの行動、スマホを電車に置き忘れるなどマイナスの行動を書くことで、見ている人も「上手くいくのか?」「これは大丈夫なのか?」と同じように苦しくなったり不安を感じて、ドラマが盛り上がります。

『セクシー田中さん』はこの4つのバランスが上手く取れていて、本当にエンタメとして面白いのでぜひ多くの人に読んで頂きたいです!

テーマ

The original theme of "Beauty and The Beast" is don't judge a book by its cover.Love what's inside.-Jay Ryan(『美女と野獣』の本来のテーマとは”外見で判断してはいけない、中身を愛せよ”だ )

次にストーリーのテーマについて検証します。テーマとは主人公の成長に大きく関連があるのと同時に、普遍性を感じさせて視聴者に「自分の人生もこれはありえるかもしれない」と響くものです。ストーリー内で自然に生みだされるのが望ましく、 取ってつけたようなメッセージになったり、押しつけがましくなってはいけません。テーマは言葉だけでなく、オブジェだったり風景として見せている場合があります。いずれにしても、ストーリー全体を象徴するものとして作品内に込められています。

ベリーダンスが意味するものとは?

『セクシー田中さん』で基盤になっているベリーダンス。作中でベリーダンスは情熱的でエネルギッシュで、何歳になっても女性が踊れるダンスとして描かれています。自由で決まった型はありません。まず心のままに楽しんで踊ることが大事だと先生は言います。
しかし体が固くてはベリーダンスを踊れるようになれません。レッスンで田中さんや朱里は、インナーマッスルを鍛えて体幹をしっかり使う指導を受けて悪戦苦闘しています。そして少しずつ可動域が拡がり、自分が自由に体を動かせる範囲が広がっていきます。

体の歪み
ここで肉体の説明をします。人間の体内には骨格を構成する骨があり、間接によって結びついています。骨は筋肉にとっての付着点やテコの働きをしています。人間の体は子供のうちは柔らかいですが、大人になると固くなります。重いスーツケースを運んで負荷がかかったり、利き腕ばかり使って荷物を持ったり、足を組むなどよくやっているクセ、デスクワークで同じ姿勢を続けるという日常生活の習慣によって、骨格がずれて体はどんどん歪んでいきます。そのうち屈伸したり手足を伸ばすだけでも、痛みを感じるようになります。腰や背中まで曲がってしまうと歩行も困難になります。再び自分の体を自由に動かせるようになるためには、体の柔軟性を取り戻さなくてはなりません。

考え方、心の歪み
人間の内面も同じく子供のうちはピュアですが、親や周囲の人の考えを吹き込まれて純粋ではなくなります。成長するにつれて社会の常識を植え付けられ、だんだん頭が固くなります。特にトラウマなど嫌な経験が記憶に残ってしまうと、思い込みが強くなって独りよがりの偏った考え方になります。世間の価値観やそれまでの人生経験によって歪められ、「自分の人生はこんなものだ」と縮こまり、「○○だからこうなんだ」と狭い考えで物事を判断し、自分にとっての本当の喜び、幸せが感じられなくなります。

そしてこの3人もそれぞれ考え方に歪みがあったのです…。


田中さん
ベリーダンスに出会って、クセだった猫背を治して背筋を伸ばすようになった田中さん。ベリーダンスは心の安全基地になりましたが、田中さん自身は学生時代のトラウマからまだ社会への繋がりは欠いたままでした。(Salabanのマスター三好さんにキレイだと褒められてすぐ好きになってしまうのも、田中さんが人生で他人と関わってこなかったからです。ウブだから女たらしにマジ惚れしちゃうんですね。)ところが田中さんは笙野と知り合い、初めて「ムカつきます」と感情を抱きます。これは今まで嫌なことがあっても辛さを感じなくて済むようにずっと感情を押し殺してきた田中さんが、外の世界の風に当たったからです。笙野と交流を持つことで、田中さんは普通の人間関係がどんなものなのかを経験します。それは子供の頃経験した陰湿なものではありませんでした。一緒に料理を食べたりして、彼の前で素の自分を出せるようになりました。その後ダンサーとして身バレしたのがキッカケで、会社の人にも受け入れられるようになり、田中さんの交流関係が拡がっていきます。田中さんは経理部のAIから脱却して人間らしさ、社会性を持つようになります。
朱里
朱里は人の気持ちを先読みして、いい子ぶりっ子するのが生存戦略でした。
小さい頃から可愛い可愛いと言われモテていましたが、ある時からそれは男性の性欲ブーストによるものだと気づきます。そしてどうやったら男子に好ましく思われるのか振る舞いを身に着けていきます。家の経済的事情から進学は短大に行くことにします。自分の本心を常に隠して相手の望むことをやってしまう、妥協を重ねる人生を送ってきました。ところが田中さんの背筋が伸びた姿を美しいと思い、自分もベリーダンスを習い始めます。そして周囲に合わせていい子ぶるのは止めて本音を言うようになり、作り笑顔ではなく自然に笑えるようになりました。
笙野
笙野は好きだった彼女が、上手く男転がしして別の男性と結婚してしまった経験から若くて可愛い女性は皆男を捕まえるために媚びてると、偏った考えを持ってしまいます。おばさんとしか認識していなかった田中さんと親しくなって、田中さんの魅力に気づき人間の良さは多面的であると認識を改めます。そして悪女だと思っていた元カノは、実は母親だけが立ちっぱなしでアレコレ世話を焼いていた笙野の家庭を見て、嫌気がさしたのではないかという思いに至るようになります。

田中さんがベリーダンスを習って姿勢が美しくなったのと同じように、登場人物の考え方も自分の思い込みが修正されてニュートラルな思考に変わっていきます。

この作品はベリーダンスでカチコチの体がほぐれる×人との出会いで頑固な頭と心がほぐれるの2つを掛けているのです!

しかしそこで話は終わりません。

考え方は変わった!だがしかし…

田中さんは感情の無い経理部のAI,朱里はぶりっ子婚活女子、笙野は昭和の発想のミソジニー銀行マンと登場人物はそれぞれガワを被っていました。この3人はお互いに影響されて、それまでの人生経験でついていた考え方のクセや歪みが修正されていきます。しかし自分が演じていたキャラを捨てて、世間のしがらみから自由になっても、「めでたしめでたし」とはならないんですね。むしろそこからが人生の本番が始まるのです。ガワが外れた後、自分のアイデンティティーとは何か、人生で本当にやりたいことは何なのかを見つけて、一人で自分の道を歩まなくてはいけません。

田中さんはマスター三好さんが好きでした。しかしリアルな人間関係を広げることによって、三好さんへの思いは甘い少女漫画や恋愛映画に憧れていたのと同じで、実際の生々しい男女関係とは似ても似つかぬものだと気づきます。恋に恋する乙女を卒業するのです。
朱里は田中さんのおかげで今までいい子ぶりっ子は止めて、人前で本音を話せるようになります。それだけでは進吾が朱里に言った通り、進吾から田中さんに依存相手を変えただけなのです。収入が少ない可愛いだけの派遣OLという自分から目を背けるために、他人の人生に影響を受けているだけではいつまでたっても朱里の人生は空っぽのままでしょう。朱里は自分をさらけ出せるチャラ男小西と付き合い始めます。
笙野は家庭環境によって昭和脳でしたが、田中さんとの関わり合いを通して自分の価値観が固定観念に縛られていのだと、考え方を変えることになります。しかし笙野にとって田中さんは心のロックを外してくれる存在であっても、恋愛対象ではなかったのです。母親の犠牲によって成立していた家庭で育ったため、かなり拗らせていました。その枷が取れた今、次は自分が思いやりのある家庭人になろうと、結婚相手になりそうな女性と付き合うことにします。誰かのせいではなく主体性を持って自分の人生を生きることを決める。笙野の意思で一緒に家庭を築けそうな女性を選ぶのです。この過程は本当にすごいです!
そしてチャラ男の小西、鉄面皮の進吾、笙野のお母さんなど、他のキャラも自分のやりたかったことをやろうと行動を始めます。

世間に合わせたキャラを被っている→その枠組みから解放されて自由になる→これから自分はどんな人生を歩みたいのか?真のゴールが何か?という巧みな二重構造になっています。ここが『セクシー田中さん』のストーリー構成の秀逸なところです!この作品自体、軽くて笑えるおちゃらけたラブコメというガワを被っていて…その実、中身はものすごく深いメッセージが隠されている、という作りなのです!本当によく出来ています!

エンディング

If you want a happy ending, that depends, of course on where you stop your story-Orson Wells.(ハッピーエンドを望むなら、当然ながらどこで話を止めるかにかかっている)。

それまでのストーリーがいくら優れていても、エンディングがダメなら台無しになってしまいます。冒頭から中盤までのストーリーが登場人物の歩みを描いているなら、最後はどんな決断を下したか、どんな運命だったかが明らかになる〆です。

エンディングには主に以下の9つのタイプがあります。

①RESOLUTION
伏線は回収されて問題は解決しています。登場人物皆仲良く、大団円で終わります。多くの王道ストーリーがこのパターンです。例、弁護士がソ連のスパイを助ける『ブリッジ・オブ・スパイ』他多数。
②CIRCULAR
主人公がゴールに到着した後、またスタート地点に戻ります。アクション・ヒーローものによく見られます。例、『スパイダーマン』など他多数。
③REVERSAL
主人公が冒頭とは別の場所に移っています。始めは視野狭窄だった人が人生の真実に辿り着くなど、登場人物の世界観に変化が起こります。古典ではシェイクスピア『オセロ』が有名です。例、親子が監禁された場所から抜け出して再生する映画『ルーム』。
④ BETTERSWEET
ゴールには達成したものの、ハッピーエンドとはならず、得たものと同時に失ったものがあります。問題は解決されましたが、愛する人との別れなど大切なものの喪失を伴っているケースなどが当てはまります。例、殺し屋レオンとマチルダの映画『レオン』、凶暴な怪物が人間を襲う映画『グレムリン』。
⑤OPEN-ENDING
劇中の問題が解決しましたが、そこからまた次の問題に進むところで終わります。例、バービーから人間の世界に行く映画『バービー』。
⑥CLIFFHANGER
主人公がピンチに陥っている、危機に面している時に物語は幕を閉じます。
例、隊員ラマが警察内部の汚職に立ち向かう映画『ザ・レイド GOKUDO』
⑦ TWIST
ストーリーのラストで思わぬどんでん返しがあります
例、映画『シックスセンス』『ユージュアル・サスぺクツ』など他多数。
⑧REVELATION
劇中で語られる問題の一部しか答えが明かされず、後は未解決のまま、謎が残ったままです。見終わった後に色々想像を巡らせるように作られています。例、些細な日常の出来事が事件を生む映画『怪物』
⑨MONOLOGUE
 
語り手の叙述で物語が閉じられます。例、主人公の少年時代の回想の映画『スタンド・バイ・ミー』、半魚人と掃除婦として働く女性の恋物語『シェイプ・オブ・ウォーター』。

逆にダメなエンディングのパターンは以下の3つです。

①結論に達していない
話の展開が遅すぎるもの、まだ話の中盤でゴールに辿り着いてない時点で無理やり話をまとめる、話を終わらせるのは不完全燃焼になります。エピソードの配分を考えましょう。
②問題が解決していない
劇中の問題が解決しないままで終わると、「じゃあ今まで色々あったのは、一体何だったんだ!」と内容の全てに意味が無くなります。過去に脚本家の中〇ミホさんは、ミステリーなのに犯人がいない脚本を書くという大失敗をしたそうです。
③長すぎる
ラストに余計なエピソードを付け足したり、それまでの話をまとめとして語らせるのは冗長になります。短く綺麗に終わる方が余韻が残ります。

『セクシー田中さん』のエンディング
『セクシー田中さん』の場合、漫画は未完ですが原作者が書かれたドラマの最終回は、田中さんが踊りの練習をしているところで終わったそうです。
ラブコメとしてのオープニングと、登場人物がそれぞれの道に進むエンディングで、ストーリーの流れに違和感を感じた人がいたかもしれません。推測ですが他人に流されずに自分の意志を持ってやりたいことをやる、それが原作者が最も伝えたいメッセージだったのでしょう。

脚色する時に気を付けたい点

まずプロットを見て商業的に弱いと思われる部分に、補足エピソードを付け加えます。そして脚本の型に当てはまらないエピソード、キャラの要素は全てカットします。オリジナル作品のテーマを変更せずに、内容を取捨選択して肉付けして映像化する脚本を書きます。ここは脚本家の腕が試されるところです。改変が必要な部分は出来るだけクオリティーを高くして、どれだけ原作をリスペクトしているか示さなくてはいけないでしょう。

『セクシー田中さん』原作通りに映像化する時の難点

プロット、キャラ設定、テーマ、どれもよく練られていて本当に素晴らしい作品です。とはいえ私もこの作品の深いテーマを変えずにドラマにするには、原作に一部、改変を入れる必要があると思います。

倉本圭造さんが↑の記事、全体的な内容には賛同出来ないんですが、一つだけ同意出来るのが「父性の不在」という点です。実写にするには「男性側の視点」が足りないんですね。女性向け作品なので当たり前ですが、笙野、小西、進吾、三好さん、男性の登場人物が全員が、女性の悩みを聞いてくれたり助けに来てくれたりと、陰になり日向になり女性を応援しています。これはかなり女性側に都合が良い「理解のある彼くん」ムーヴです。男性のマッチョイズムが見事に脱色されています。作中に出てくる男性の生き辛さ、大黒柱になるプレッシャーもあくまで女性視点による「男性の大変さ」です。仕事が嫌になって進吾があっさり退職するエピソードも、今のご時世ですから、転職先が決まってないうちに辞める?と現実的に見て微妙だと思います。男性は仕事を辞める時にはもっと悲壮感が出るはずです。「何者になるか」もしくは「モブか」の男性同士の厳しい争いの話は出てきません。

ドラマ化するにあたって、実際にどんなやり取りが成されたのかは分かりませんが、ドラマではカットされた女性の性被害、アフターピルなど原作通りのイシューをドラマに含めるなら、男性側も進吾がパワハラに遭ってたエピソードもサラッと流すのでなくもっと深堀りしないとバランスを欠いたものになると思います。この足りない点について男性脚本家を選択して肉付けしてもらえば、もっと原作者の望む形のドラマになったのかもしれません。

終わりに

私見ですが自分のことが可愛い人には、優れたエンタメ作品は作れないと思っています。創作とは見ず知らずの誰かに、自分の心を差し出す作業です。自分自身よりも人を楽しませたい、喜ばせたいという気持ちを持ち続けられる人だけが、人の心を打つ作品を生み出せるのでしょう。芦原妃名子先生のご冥福をお祈りします。


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