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街で集めた「冷やし中華始めました」の貼り紙30発

「冷やし中華始めました」

店主の味わい深い手書き文字によって書かれた、夏の限定メニュー登場を知らせるこの貼り紙。われわれ日本人にとって、夏の風物詩といっても過言でないほどおなじみの光景である。

皆さんは、冷やし中華に解禁日があるのをご存知だろうか。7月7日だ。

二十四節気のひとつ「小暑」に当たることが多いこの日、清涼感のある冷やし中華を食べて夏に備えようと、冷やし中華の愛好家、料理人によって制定されたという。

しかし、町中のいたるところで解禁日破りが横行しているのも事実である。

先日はまだ5月なのに真夏日を記録した。暑さと同時に、街の飲食店で冷やし中華の存在を目にしたかたも多いはずだ。そう、もはや冷やし中華は夏だけのメニューではないのだ。我々が夏服を引っ張り出すタイミングを見計らったかのように、冷やし中華はこつぜんと飲食店の店頭に並んでいる。

「冷やし中華始めました」の宣言と共に。

冷やし中華は毎年律儀に告知が行われる。メニューに載せるだけでは心もとないのか礼儀を欠くという意識なのか、去年もやっていたはずなのに「始めました」とするあたりに年間を通した定番になれない外様の形見の狭さ、哀愁さが感じられる。


さてここからが本題である。

数年前、この貼り紙をテーマにシンガーソングライター芸人のAMEMIYA氏が「冷やし中華はじめました」というそのままずばりのタイトルの歌をリリースした。

もはや「冷やし中華始めました」は、あるあるネタとしても使えない、今さら感たっぷりの物件。そう思われたが、筆者の数年来の独自調査によって「そうとも言い切れない」ことがわかった。

たしかに今の時期から夏の終わりにかけて、「冷やし中華」の文字を掲げる飲食店は多い。しかし、「冷やし中華始めました」としっかり書かれた貼り紙は意外に少ないのである。店主の手書きということになると、さらに少ない。

とりあえず筆者が街で採取した冷やし中華の貼り紙をご覧いただきたい。


■「冷やし中華」の文字のみのポスター

一番目にしたのが、このポスター。冷やし中華で使われる麺又はタレの卸業者からの支給物なのかもしれない。


■「冷やし中華」の文字&価格入り(青)

■「冷やし中華」の文字&価格入り(黄)

続いて多かったのが、この価格入りバージョン。よく見ると青バージョンと黄バージョンで微妙に書体が異なっているのが分かる。


■「夏こそサッパリ」

このポスターも多かった。これは高円寺の駅前で見つけたもの。それにしても隣のカツ丼とラーメンが安い。


■異なるフレーズ入りの「冷やし中華」ポスター3連発

それぞれ「元気モリモリ!!」「夏の味覚」「夏季限定メニュー」とは謳っているものの、「始めました」の文字はない。


■「冷やし」のみ

どちらもそば屋さんの貼り紙である。「冷やし」で止めているところに江戸っ子の気の短さというか、あたぼうよ精神の現れが感じられる。


■「冷やしラーメン」他、冷やし中華以外の貼り紙

若者のそば離れとラーメンブームにより、手書きの「冷やし始めました」はラーメンが主流になってしまったようである。創意工夫溢れるつけ麺を始めたお店も多かった。


こちらはそば屋さんの貼り紙。「冷やし」「冷し」「冷」と送りがなの違いにも考察の余地があることが分かる。


■祭

とりあえず冷やせばいいようだ。


■ふざけるな

ハンバーガーショップの表にあった黒板である。こういう冷やかしは要らない。


■手書きじゃないけど「冷やし中華始めました」

ラーメンやそばではなく、本家冷やし中華の貼り紙のほとんどは印刷されたものだった。最後の一枚はおそらく手打ち入力の手作り感が出ていて惜しいが、店主の律儀さやあわてて用意した雰囲気が手書きに比べるとやはり弱い。


■手書きだが...

コンビニ弁当売場で発見した手書きの冷やし中華はじめました。賞味期限に注目してほしい。2月23日である。年々早まる冷やし中華の発売時期は地球温暖化の加速の実感させられる。


■やっと会えたね。

もはや手書きの「冷やし中華始めました」はノスタルジーの世界にしか存在しないのだろうか。そう思われた矢先、東京スカイツリーからほど近い本所吾妻橋の食堂で発見した、正真正銘、手書きの「冷やし中華始めました」。

以上の貼り紙を通して、現代ではいかに手書きの「冷やし中華始めました」を見つけることが難しいかご理解いただけたかと思う。

(了)

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