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情けは自分のため

〔解説〕

 物事というものは時代の移り変わりとともに変化するのが世の常である。本来使われていたことわざの「情けは人のためならず」もその一つだ。
 ただし、これは変化というより意味の取り違いが激しくなり、間違った状態で定着したといえる。

 文化庁による「国語に関する世論調査」でも、正しい意味を知っている人と、誤って捉えている人がほぼ半々という結果になっている(調査対象は全国の20歳以上の男女)。
 ちなみに、2010年度では正答が45.8%、誤答が45.7%だった。幸いなことに、2023年度では正答48.9%、誤答44.2%と、わずかではあるが改善されている。
 さて、肝心の意味だが、まずは正しい意味。
 「他人に施した親切は、めぐりめぐっていつかは自分に返ってくる」ということ。
 これに対し、誤って捉えられている意味合いとしては、
 「他人に情けをかけると相手を甘やかすことになる。だから、結果的に人のためにならない」という解釈。
 今回はいつになく大まじめだが、それはさておき、ここまではパロディーではない。


〔さらに解説〕

 正誤が拮抗している状況を問題視した民間団体「珍語慢語の会」からの申し入れを受けた日本格言制定委員会が重い腰を上げ、新語制定に動いた。
 まわりくどい現行の言い回しとは逆に、単純明快なものを作ったほうがいいという意見が多かったことから、たいした審議もなくすぐ制定された。それが「情けは自分のため」だ。
 これにより、今後は間違うことなく直感的に伝わるだろうと期待が高まっている。

〈日本格言制定委員会 尾琴場雄介会長の話〉

「このところ当委員会は動きが遅いと、各方面から批判されておりまして、身の縮む思いでおりましたが、これで汚名挽回、いや、汚名返上できると、ほっと一息というところであります。
 昨夜晩酌をしながら考えたのですが、本来の言葉の『ためならず』がいけないんだと思います。『ためにあらず』だったら問題なかったんだと思いますよ。『情けは人のためにあらず』だったらね。いいでしょ? そう思いません? ね、思うでしょ? いまごろ言っても遅いけど」



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