みんなの九州きっぷで行くGoTo九州旅行記1日目/3泊4日

【1日目:2020年9月19日(土)】

私の勤める会社は元来、祝日は仕事日である。それを疎ましく思ったこともあるが、実際のところ世間が連休を謳歌しているときに合わせて旅行に行くのは得策ではない。予定を合わせるべき連れが居るなら別だが、一人旅なら尚更である。連休は電車は混むし、宿代も高くなる。だから土日に有給を繋げて3連休や4連休を作るときも、私はなるべく世間が連休でないときにやるようにしていた。平日に旅行していると通勤や通学ラッシュにあたることもあるが、それでも概して連休中よりは空いている。

しかし、敢えて世間の連休に合わせることもある。それは行きたいイベントや運行される列車の日程のせいのことが多いが、旅費を節約するため、というパターンもある。土日祝日しか使えない割引きっぷというものが存在するのだ。今回はそのうちのひとつ「みんなの九州きっぷ」を使いたくて、世間のシルバーウィークに合わせて4連休を作ることにした。「みんなの九州きっぷ」は北部九州もしくは全九州のJR九州の全列車(新幹線特急含む)が5000円もしくは10000円で2日間乗り放題になるというきっぷで、博多鹿児島間を新幹線で移動するだけで片道10000円以上かかることを考えれば、言うまでもなく破格のきっぷである。8月についに運行を再開した豊肥本線にも早く乗りに行きたいし、それだけなら土日の2日でも足りるが、せっかく特急に乗り放題なら普段の節約旅行ではなかなか乗れない「ゆふいんの森」や「あそぼーい」といった観光特急にも乗ってみたい。そうなると2日では足りないし、九州にそう何度も足を運ぶとなると往復の新幹線代も馬鹿にならないから、一気にこれらを消化するにはこの土日祝祝の4連休が最適なのだ。

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そんなわけで、私にしては珍しく1週間以上も前からこの4連休に照準を合わせて諸々の準備を進めていた。というのも「みんなの九州きっぷ」は使用開始3日前までに予約購入をしなければならないし、九州までの往復の新幹線代の割り引きを受けるにも旅行会社を通じて一泊目の宿と合わせて予約をとらなければならないからである。旅行会社の受付の締め切りも早く、最低でも旅行開始の3日前、厳しいところは1週間も前が期限であるから、そこまでにある程度の旅程計画は立てねばならない。特に一泊目の場所や、往復の新幹線の時間については難問であり、一度予約を取ってしまえば変えられないから期限の直前まで悩むことになる。そんなに悩むことがあるのか?と疑問に思われるかもしれないが、問題は天候なのである。

出発日の4日前、9月15日(火)時点での九州の天候は、初日にあたる19日(土)が全般的に雨予報で、20日(日)が曇り、後の2日は晴れ予報であった。それを踏まえて今回の旅行におけるチェックポイントを眺めてみる。現状予定している訪問地、及び乗車予定列車・路線は以下の通りである。

豊肥本線・耶馬溪・祐徳稲荷・大村・千綿・博多(水炊き・皮焼き)・島原・宗太郎・豊後竹田・ゆふいんの森・指宿のたまて箱

このうち今回の主役は先月運行を再開したばかりの豊肥本線の肥後大津阿蘇間で、それも阿蘇の外輪山が唯一口を開いている肥後大津の方から乗って行きたいと思っている。ついでに久し振りに阿蘇山にも行きたい。であるからこれをやる日は是が非でも晴れてくれなくては困る。

次いで気になっているのは耶馬溪で、こちらは大分交通耶馬溪線の廃線跡がサイクリングロードになっていてここを走る予定であるから、その日も晴れであってほしい。他に夕陽が綺麗な大村線千綿駅も晴れの方が望ましいが、ここは以前一度訪れたことがあり今回は駅ナカの喫茶店が主目的であるから最悪天候が悪くとも構わない。

あとはきっぷの都合で、北部九州が乗り放題のきっぷが2日間5000円、全九州版が2日間10000円であるから、それらを1枚ずつ使って以上のチェックポイントを4日で効率的に回る旅程が求められる。

こういう場合、もっとも制約が強い箇所から埋めていくのが定石で、今回であれば1日1往復しか列車の止まらない宗太郎駅がそれにあたる。ここを列車で訪問するには延岡に前泊する以外の手段は存在しない。そして延岡に行くためには全九州版のきっぷを使う必要があるから、4日間で北部九州版のきっぷを2日、全九州版のきっぷを2日使うとするならば、必然的に延岡泊は1日目か3日目に限られる。

次に延岡に大分側・宮崎側のどちらから向かうかであるが、普通に考えれば豊肥本線に熊本肥後大津から乗り、大分に抜けた後にそのまま南下して延岡に抜けるのが良さそうである。となると豊肥本線に乗るのが1日目か3日目になるが、天候を考えれば晴れるのが濃厚な3日目に持ってくるのが妥当だろう。

そうなると耶馬溪をどうするか。宗太郎駅を散策した後で大分方面に北上し、中津まで行ってそこから耶馬溪に入れば晴れの4日目に耶馬溪を配置できるが、それでは宗太郎のためだけに延岡くんだりまで往復することになって旅程として美しくないし、指宿にも行けないのも困る。となるとまだ晴れる可能性のありそうな2日目に耶馬溪を持ってきて、初日は雨を覚悟で祐徳稲荷や大村・千綿を回る。これがもっとも良さそうだ。

普段の旅行では、私は以上の内容を旅の最中に考えて決めてゆくことが多いのだが、こと今回のような手配旅行ではこれを事前に考える必要があるのがしんどいところである。ともあれ丸2日ほど悩んでこれを編み出した私は、意気揚々と旅行会社に名古屋⇔博多の新幹線往復と1泊目の博多の宿がセットとなったダイナミックパッケージを申し込んだ。これがGoToキャンペーンの35%割引込みで22,000円ほどで、名古屋から博多までの新幹線がEX早割でも片道15,000円であることを考えると非常に安い。最近は九州まで片道飛行機を使うようになった私でも、これなら心置きなく新幹線を使える。勿論LCCを使ったパッケージの方が更に安いが、飛行機は便数が少ない上にセントレア空港のターミナルも遠いから、ここまで新幹線が安ければ選択肢には入らない。

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9月19日土曜日、朝一番の下りのぞみに乗車して博多に向かう。4連休の初日だからか流石に混んでいるが、それでも乗車率はいいとこ70%程度であろう。新山口で右下に先月のった「SLやまぐち号」の焦げ茶色の客車が見える。あのときは名古屋まで12時間かけて鈍行で帰ったのだが、のぞみなら3時間もかからない。これだけ速度に差があると距離感覚がおかしくなる。小倉から沢山乗って来て今日一番の混雑になり、9時39分博多着。

博多の空は晴れている。あれだけ私を悩ませていた連休前半の悪天候予報はどこへ行ったのか、この4連休の九州はすべて晴れか曇り予報で、傘マークは1つも見当たらない。大変喜ばしいことではあるが、多少腹立たしくもある。

博多からは特急かもめに乗り継ぐことになるが、その前に「みんなの九州きっぷ」を受け取りにみどりの窓口へと向かう。博多はJR西日本とJR九州の境界であるから、西日本と九州の機械がごっちゃになっている。このうち今回のきっぷはJR九州の機械でしか発券できないからややわかりづらい。私の他にも迷っている人が何人かいる。

乗車するかもめの写真を撮りに車両の先頭に向かうと、向かいのホームにダークブラウンの高級そうな車両が停まっている。これはJR九州の誇るクルーズトレイン「ななつ星」で、2日ないし4日をかけて九州各地を周遊している列車である。

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向かいのホームに行ってみると、白い制服のアテンダントが何名も車外で待機していて、ダークブラウンの車体に映える。この「ななつ星」や「瑞風」「四季島」といったようなクルーズ列車は外から眺める分には楽しいが、これを使った旅というのはお仕着せの旅行をさせられているようであまり面白くないし、なにより肩肘張りそうで気が進まない。いつか乗ることがあったとしても一人で乗ることはないだろうと思う。

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発車ギリギリまでななつ星を撮影していたが、なんとかかもめの窓側自由席を確保し、定刻通りに博多発。早速車掌が検札にやってくるから「みんなの九州きっぷ」を見せると、どこまで行くのかと尋ねてくる。周りはどうかを聞き耳を立てていると、どうやら佐賀までの客が多いようだ。博多から佐賀までは特急で40分あまりである。

長崎新幹線の工事にあたり、フル規格の路線建設ありきの議論に対して佐賀県が反対しているというが、この距離では確かに新幹線を走らせてもメリットが薄い。フル規格で新線が建設されてしまえば、信越本線や鹿児島本線のように平行在来線は第三セクター化してしまうだろうし、佐賀の場合はそのデメリットがメリットに対して大きすぎるように思う。肥前鹿島や肥前山口なども、今は1時間に1本以上特急が走るのにそれがゼロになってしまうのだから、反対するのも無理もない。

これまで第三セクター化された鹿児島本線の八代川内間や信越本線の軽井沢篠ノ井間などは、新幹線建設の利益を享受するのが同じ県の鹿児島市や長野市であったから、切り離された区間の沿線市町村も渋々受けれたという経緯もあると聞く。それに比べると今回の長崎新幹線の場合は、利益を享受するのが主に長崎県で、負担を強いられるのが佐賀県というこれまでにない構図であるからここまで紛糾しているのだろう。リニア中央新幹線の工事に静岡県が難色を示しているのもこれと似たような構図だからで、私としては早く開通させてもらって乗りたいところではあるが、これを「全体の利益のために協力しろ」と押し潰してしまうのは昨今の地方分権の潮流に反するし、中央集権的な強権主義になってしまって望ましくないような気もするから難しい。

福岡市のベッドタウンであろう住宅地を抜けて鳥栖を過ぎると市街地が減り田園だらけののどかな車窓になる。吉野ヶ里遺跡公園を右手に眺めながら15分ほど走ると再び市街地の車窓になって佐賀に着き、ここで乗客の大半が降りる。車内の電光掲示板に乗り換え列車の情報が流れる。ありふれていそうなアイデアだが、少なくとも私の記憶の限りでは他に類を見ない。新幹線の乗り換えも基本的にアナウンスがあるだけで、車内の電光掲示板は使っていなかったような気がする。

肥前山口で佐世保線と別れ、博多から1時間あまりで肥前鹿島着。祐徳稲荷からはここからバスが出ているが、あまり本数は多くないから駅前の観光案内所で自転車を借りる。

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20分ほど走ると大きな鳥居が現れ、次いで両側に土産物屋の並ぶ門前町がはじまるのだが、どうにも寂れている。店自体は営業しているものの活気がなく、建物も全体的に老朽化しており見映えが悪い。売っているものも木刀などありふれた雑貨が多い。どうにも商売を諦めているようにも見える。

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生気の薄い門前町を抜けると立派な楼門が現れ、祐徳稲荷の境内に入る。本殿はそこからやや登ったところにあり、清水の舞台に似た張り出しが見える。参道には沢山の朝顔と風鈴が備えられていて、爽やかな景観が晩夏に相応しい。さすが日本三大稲荷に数えられるだけのことはある、と感心するが、これができるのにどうして門前町はああなのかと思う。

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参詣を終えて境内の外に出ると、佐賀県の観光客調査をしているというおばさんに声をかけられる。どこから来たのか、佐賀県内での予算はどれほどか、佐賀県の観光地で他に行きたいところはあるか等の当たり障りのない質問に回答したが、おばさんは始終自信なさげで腰が低く、佐賀には泊まりませんよね…佐賀のことなんて知りませんよね…とこちらが励ましたくなるほどであった。

その後、すぐに肥前鹿島には戻らずに、長崎街道の宿場町であった肥前浜に立ち寄った。肥前浜駅は駅舎が観光案内所を兼ねていて自転車の貸し出しをしているほか、肥前鹿島からの乗り捨てもできる。但し特急は停車しないし、肥前浜より先の長崎方面は鈍行列車の本数も一気に数が減るから、あまり旅行者に使いやすい駅ではない。肥前浜止まりの鈍行から旅行者カップルが降りてきて、次の電車が4時間後だと聞いて仰天している。

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肥前浜宿は酒造が盛んで白壁作りの街並みが美しい宿場町であったが、ここも立ち寄りたくなるような商店が乏しく、もう少し営業に力を入れれば結構な観光地になるように思えてもったいないような気がする。

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肥前鹿島の駅に戻ると、2018年に放映された佐賀県のご当地アニメである「ソンビランドサガ」のキャラクターパネルが売店の脇に飾られていた。このアニメの放映以来「聖地巡礼」で多くのファンが佐賀を訪れたと聞くから、佐賀の知名度向上にも一役買ったのであろう。持っている素材自体は、巷で言われているほどには乏しくないと思われるから、売り出し方を考えて頑張ってほしいものだと思う。頑張れ、佐賀!

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肥前鹿島からは再び特急かもめで長崎方面へと向かう。肥前鹿島から諫早までは街らしい街がない。平地が少なく、張り出してきた山に追い込まれるようにして線路は海岸沿いに敷かれており、トンネルで海辺の漁村を結んで行くような車窓が続く。有明海越しに雲仙の山々が見える。13時35分諫早着。

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諫早から島原鉄道で島原方面に向かうか大村線に乗るか直前まで悩んでいたが、先ほど特急から眺めた雲仙の空はやや曇りぎみであったから、今回は大村線に乗ることにする。島原に行くからには有明海に面した大三東駅に行ってみたいし、どうせ行くなら晴れた日の方がよい。

大村線への接続はよく、13時41分発のシーサイドライナー佐世保行き、それに下りの長崎行きが隣のホームに待機している。長崎行きの方は旧式のキハ66系、佐世保行きの方ももう登場して30年になるキハ200系で、どちらもベテラン車両である。

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2両編成の佐世保行きは学生などで大変混雑していた。大村線は佐世保・大村・諫早・長崎という長崎県の主要4都市を結ぶ路線であるからいつも混んでいる。本数もだいたい1時間に1-2本あり、特急列車の設定のないローカル線としては本数が多い。しかも海沿いの景色がよいところを行くから、沿線住民が羨ましくなる。10分ほど走ると大村で、今回はここで下車してみる。

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大村は人口約10万、長崎・佐世保・諫早に次ぐ長崎県第4の都市で、キリシタン大名であった大村氏が治めていた城下町である。それゆえキリシタン絡みの史跡が多くあるものと期待していたのだが、鎖国後の弾圧が厳しかったためか、そういう類いの史跡の案内は見当たらなかった。町を歩いてみればあるのは地方都市にありがちな寂れたアーケード商店街に、国道沿いのロードサイド店舗群ぐらいであったから、大村公園まで歩いて大村城址と日本最南端の競艇場である大村競艇場をのんびり見物して歩いても2時間もかからなかった。

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気を取り直して15時52分発の佐世保行きに乗り込む。竹松を過ぎると大村湾が左手に広がる。16時8分千綿着。千綿は大村湾に直に面した駅で、青春18きっぷのポスターに採用されたこともある。

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ここを訪れるのは2度目で、今回の目的は駅舎を使って営業しているカフェで名物のカレーをいただくことである。前回訪れたときは既に日が落ちかけていた時間帯で、カフェが閉まった後だったのだ。

ところが、店もとい駅舎に入ってみると、カレーはもう終わってしまったという。休日などは14時頃には売り切れてしまうほどの人気だそうで、仕方ないからカフェラテを注文して海側の席に座る。大村湾の眺めを期待していたのだが、ホームへと上る階段が邪魔で海が見えない。どうもちぐはぐである。

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しかしホームへと上がってみれば眺めはかくのごとく素晴らしく、駅のところでちょうど線路がカーブしているから素人でも良い写真がとりやすい。最近つとに有名になった下灘駅ほどには観光客は多くはなく、夕暮れ時の今の時分でも精々10-20名程度で、各々のんびりと駅舎や海の写真を撮っている。警笛が鳴ったかと思うと、下りの快速列車が通過してゆくが、なにやら見慣れぬ車両である。これは今年3月に投入されたばかりのYC1系気動車で、車両前面がやたらキラキラしている。大村線と言えば重厚なキハ66系が印象的な路線だったのだが、これももう運用開始から45年も経っているからそろそろお役御免ということらしい。私はこの型の旧式車両が好みなので寂しいが、時の流れには逆らえない。

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車両について長々と述べたが、この通過駅であるという点も撮影には好条件で、海沿いをカーブしながら高速で通過してゆく列車というのはやはり絵になる。

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長年近所に住んでいるという鉄道ファンの爺さんが、観光客に向けて千綿駅の来歴や列車について解説している。どうやら今朝出くわした「ななつ星」が週に一度この駅を通過するそうで、それが土曜日の17時半頃、即ちもうまもなくであるという。何も知らずに下車をしたのだが運が良いことである。

通過時刻が近づくにつれ、駅前に車を乗り付けて観光客が続々とやってくる。千綿は佐世保から近く、停車する列車が毎時1本はあり、下灘などよりは便利な駅なのだが、それでも観光客の大半は車でやってくる。

やがて佐世保方面から例のダークブラウンの車両がやって来た。先ほどハイスピードで通過していった快速列車とは異なり、ゆっくり徐行しながら通過してゆく。駅に来ていた観光客がいつの間にか「ななつ星」と書いたカードを掲げている。博多の駅で見た「ななつ星」も良かったが、やはり列車は走っているところを眺めるのが一番だと思う。昨今ではマナーの悪い撮り鉄の悪行が取り沙汰されがちである。私としては彼らを擁護する気は全くないし、むしろ一緒にされては心外ではあるが、列車を格好良く撮りたいというその心だけは理解できる。

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まもなく日の入りであるが、私は「ななつ星」と入れ違いにやってきた17時33分発の佐世保行きに乗り、早岐から佐世保線に乗り継いで博多に戻り、ダイナミックパッケージの一環で押さえてある駅近のビジネスホテルに泊まった。駅ビルで食べた水炊きは美味しくはあったが、3000円近くしたことを考えると、自宅で作れるようなグラム数十円の鳥モモ肉と白菜を突っ込んだだけの鍋でもこれからは満足できるような気がした。

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