見出し画像

マインド・コントロール

霊感商法・新興宗教、テロリストなどに共通する洗脳手法についてそのテクニックを紹介し、体系立てて洗脳を論じている良書。

洗脳といえば聞こえは悪いが、営業や採用活動で聞き手の気持ちを巧みに操ることは(嘘や法律違反がなければ)立派な企業努力である。

なぜ理性的な若者はテロリストになったか

外部の世界からの遮断と、視野を小さな一点に集中させるということだ。トンネル(テロリストになるまでのプロセスの比喩)の中を通り抜けている間、そこを進んでいく者は、外部の刺激から遮断されると同時に、出口という一点に向って進んでいるうちに、いつの間にか視野狭窄に陥る。
一旦テロを決意しても、人間なので怖気づいたり、死ぬのが怖くなることもあるだろう。そうした後戻りが起きないための仕掛けが施されているという。
その一つは、テロを実行する前から、その人を「英雄」として扱うことである。崇拝されている指導者が一緒に食事をするとか、死後公開するための遺言をビデオに撮るとか、彼のための記念碑を建てるといったことが行われる。(略)すでに彼の死は「既成事実」となり、一人歩きを始めている。いまさら止めるとは言えるはずもない。
(略)
社会的生き物である人間にとって、所属する集団から認められることは、命よりも重要なことだからだ。所属する集団から見捨てられることは、死よりもつらい。

霊感商法のテクニック

日本で行われたある霊感商法の手口を裁判記録をもとに説明する。

①「印相協会」を名乗って戸別訪問をし、手相を見せてもらう
②手相を褒めた上で問題を指摘し、名前が悪いのかもしれないと話して姓名判断を行う
③相手方だけでなく家族の姓名判断も行い、相手方の家庭における最大の問題を探し出す
④問題点を指摘し、開運方法として印章の話題を持ち出し、相手方が使っている印章を見せてもらう
⑤印相鑑定を行い、印相が悪いと指摘する
⑥例会の話題を出し、先祖供養の必要性を説いて印章を新しく作るよう勧める
⑦3,4,7,12,21,40といった数字に意味があるといった話をしながら、高額な値段から提示し、印章の購入に持ち込む

この手法のポイントはいきなり手相診断をさせる点にあるという。突然訪問してきた見ず知らずの相手に手相を見せる時点で、相手がメンタル的に不安定であったり迷信を信じやすいタイプであることがわかる。街中で聖書を片手にただ立っている勧誘(エホバの証人)に効果があるのか疑問だったが、わざわざ立ち止まって話を聞いてくれる人=深刻な問題を抱えたカモをあぶり出すためには効率的だったのである。

マインドコントロールのテクニック

いわゆるイエス・セットと呼ばれる心理操作が知られている。相手がイエスと答えるように、こちらが質問をすることで、相手はいつの間にか、自分がとても理解されていると感じ、こちらの言いなりになりやすく、こちらの言うことに、何でもイエスと答えてしまうようになる。

グルの特性

①グルは不安定な精神構造を抱え、妄想症や神経衰弱、自己断片化などに陥る瀬戸際にいる。
②グルは啓示を受け、「真理」を悟ったという確信を抱いている。その啓示は、三十代か四十代の苦悩や病気の時期に続いてやってくることが多い。
③グルは弟子や礼賛者を必要とする。脆弱な精神構造を抱えているために、自分を支えるために彼らは賞賛や尊敬を必要とするのだ。
④グルは、弟子に「不滅の感覚」を与える。それは、「死をものともしない感覚」であり、「自分の限られた時間を超えて、無限に続く存在の偉大な連続の一部であるという感覚」でもある。
⑤グルは弟子にとって、親よりも重要な存在であり、弟子は仕事も財産もすべてを擲って、グルとその偉大な目的のために尽くすことが求められる。

暗示手法

相手を動かそうとするとき、理詰めの正論で相手の抵抗を打ち破るというのも一つの方法だが、しばしばその方法は難航する。むしろ効果的なのは、善意の第三者としての見解を、小声で囁くことだ。「あなたは騙されている」と匂わせられたり、「なろうと思えば、王にもなれるのに」と予言めいたことを耳にするのは、正攻法で説得される以上に心を動かされるのだ。
(略)
直接的な説得は、他人を自分の考えに従わそうとする意図のもとになされる。ところが、自分の意志を強く持っている人ほど、他人の意図に左右されることに本能的に抵抗する。それゆえ、正攻法での説得には落ちにくい。
一方、第三者的なほのめかしは、説得する意図をあたかも持っていないように振る舞うことでそうした抵抗を避けることができる。

ダブルバインド

何かをやってほしいとき、それをやるかやらないかではなく、やることを前提とした選択肢を用意して、質問するというやり方だ。選択肢が提示されるのだが、どちらを選んでも結局同じ結果に誘導されることになる。
この技法は、営業や販売などでも応用されている。まだ車を買うかどうか迷っている客に、「このオプションはおつけしましょうか?」とか、「ボディの色は、白がお好みですか。それとも黒がお好みですか」と話を進めていくやり方だ。
とにかく、「〜する」と答えさせることが重要なのだ。自分から「する」と意思表明をすると、行動への抵抗は突破されたも同然なのである。

洗脳における緊張と緩和

洗脳では、一旦”安定剤”に依存させておいて、それを急にわざと与えないことで、不安に叩き落とすのだ。
(略)
支配する側の人物の、機嫌のいい反応が”安定剤”となっている。そして、支配されている人物は、いつの間にか、この”安定剤”に依存するようになっている。それを維持するためには、愚かしいまでの努力をして、相手に尽くすということも起きる。

思想改造の8つの要素

環境コントロール・・・外部からの情報、接触の遮断。
神秘的操作・・・党や指導者が特別な存在であること、厳粛なオーラをまとって改造される者の前に現れる
純粋さの要求・・・敵か味方かが厳然と分かれる。洗脳を受けるものが自らの不純正を自己批判するようになる
告白熱・・・自らの罪を告白・自己暴露・自己批判させる、それを競わせる
聖なる科学・・・理念そのものを疑うことは許されず、畏敬の念を払うべき「神聖」絶対なものとされるが、同時にそれ以外のことは厳密な科学性が要求される
決り文句の使用・・・自由な言語の使用は排除され、完全な善を表す「解放」「人民」と、完全な悪を表す「資本家」「ブルジョア」「帝国主義」といった二分法的な決り文句に限定。
理念を個人より高く位置づける・・・個人の経験や人生は軽視される
生存の免除・・・生存を許されたものとそうでないものが明確に分かれる。生存を続けるには、完全に理念に合致しなければならない

マインドコントロールの5原理

第一原理・・・情報入力の制限、過剰
第二原理・・・脳を慢性疲労状態に置き、考える余力を奪う
第三原理・・・確信をもって救済や不朽の意味を約束する
第四原理・・・人は愛されることを望み、裏切られることを恐れる
第五原理・・・自己判断を許さず、依存状態に置き続ける

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?