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宮内義彦 私の中小企業論

オリックスCEOだった宮内義彦氏が語るベンチャービジネス論であり、起業家向けの本。

オリックスは宮内氏がオーナーとなって立ち上げた企業、というわけではなく日綿実業と三和銀行が中心となって3商社・5銀行が関与してできたジョイントベンチャーである。

宮内氏は25歳で日綿に入社し、すぐにリース業の立ち上げ準備のために海外でリース業を学ぶために派遣される。64年にオリエント・リース(現オリックス)の創設メンバーとして出向し、以後はそこで中核メンバーとしてオリックスを急成長に導く。

80年代表取締役社長に就任し、以後はグループCEOを2014年まで継続。資本上のオーナーではないが、組織的には創業者といえる。

本書では、節ごとに宮内氏が考える原則・鉄則がまとめられている。箇条書きするが、本書を読んでいないと内容が理解できないだろうから、ぜひ買って読むことを推奨したい。

真実

1. 会社はトップを見ればわかる → 自分より優秀あるいは異質な人材と交流する
2. 琴線に触れる、浪花節を持つ→数字だけで組織と社員を見ない
3. 子供には継がせるな→子供に継がせると企業は成長しない
4. ヒーローは状況で異なる→社員の能力を引き出す努力を
5. 無理のない資金繰りを→資金繰りで日常生活まで壊さない
6. 他人の目を入れる→複眼で見る努力をする

特にオーナー経営者であればすべて自分次第です。誰かが啓発してくれたり、勉強を教えにきてくれたりということは絶対にありません。本人が必要性を感じて、能動的に動くことができるかどうか。中小企業はトップの能力以上には成長しません。トップが伸びなければ、その会社の成長も止まってしまうのです。
経営者は社員の琴線に触れる言葉を発しているか、心が熱くなる行動をとっているか。一言で表すとそのようになります。人間味溢れる社風を作ることができるか。まさに経営者の腕にかかっています。それを根付かせるためには、いろいろな方法があるでしょう。

着眼

1. 全体像は数字で掴む→数字と対話で会社を把握する
2. トップの出番を見極める→つらい時が出番です
3. ベンチマークは「前年より良いか」→自社が良くなっていることを見て成長を測る
4. 企業文化をひたすら伝える→社内にヒューマンタッチを

鉄則

1. 仕事と人のつながりを心から学ぶ→経営の本質は人と人とのつながり
2. のめり込んで立ち上げる→成功するまでのめり込む
3. 困ったときに知恵は出る→原則を貫く知恵を出す
4. 経営は組織より人→組織変えより働きやすさを考える

日常の仕事から大きなプロジェクトまで、人のつながりをうまく作ることができると、全員の力がプラスに働いて成功の確率は高まります。そのような考えを深く刻むようになったのは、若い頃に出会った2人の経営者の影響が大きいように思います。知らず知らずに影響を受けて、自身がリーダーになってからも、受けた教えを実践しようと努力をしました。

わたしが「ここが総務で、ここが営業部。審査部は」などと社内を案内していたら、彼(USリーシングのショーンフェルド氏)が怒り出しました。「冗談じゃない」と。「まだまだ会社として独り立ちしていないのに、組織づくりなどいらない。全員営業だ」と言うのです。確かに商売ができないと会社は潰れる。総務も審査もあったものではありません。「全員外へ営業にでろ。事務机なんかいらない」などと怒られました。

信条

1. 継がせたくても、継がせない→後継者は会社をさらに伸ばす人にする
2. 経理と財務こそ命→お金は攻めと守りで使い分ける
3. 開かれた心を持つ→経営と株主、事業を分け成長を考える

売り上げや経費を見る経理だけではなく、投資収益性や資本増強といった財務の視点もなければこれからは激しい競争を勝ち抜くことが厳しくなります。低金利が続いている現在では、資金調達の重要性をそれほど感じないかもしれません。しかし、2008年のリーマンショックのような"資金難""信用不安"が突然降ってくることもあります。景気が落ち込んだときにどのように対応するか、まさにCFOの双肩にかかってきます。そのような見識やノウハウは実務経験を重ねて鍛えていくしかありません。
狭い視界は、中高年の経営者に限った話ではありません。IT業界で起業する若い経営者を見ても、それを感じます。ネット革命などと掛け声は勇ましいですが、製品やサービスを見ると、機能も限られる小ぶりなスマートフォン用アプリだったりします。家業の域を出ていないのではと感じてしまいます。
このように、狭い視界というものは至る所に存在します。常にオープンマインドを持ち、周囲に気を配ったり、将来を見据えたりして欲しいと思います。

原則

1. 展開力を心がけよう→ベンチャーは二段ロケットで展開を
2. 上場をゴールにしない→上場ではなく、持続的な成長を目標に
3. 心配でも部下に任せる→任せると社員は動く
4. 起業やリーダーシップは学習できる→起業論を学び、組織の強化を
5. 大学時代は学力と思考力を高めよう→積極的に学んで動くと好機が来る
6. 就職はブランド選びではない→実力をつける仕事が将来につながる

起業する方は、それぞれに専門性やテーマを持っていると思います。そのアイデアを実行して形にするのは素晴らしいことですが、それだけでは持続的発展に繋がりません。「うまく事業が立ち上がったら、つぎはどのような手を打つのか」。このような展開力こそが、ベンチャー企業にはとても大切なのです。そうでないと、同業のライバルが出てきたり、唯一の事業に陰りが出てきたりしたときに手が打てないばかりでなく、上手くいったとしても家業にとどまってしまうのです。
最近の日本の若い起業家を見ていると、事業テーマがITに偏っている気がしてなりません。しかも、ITのほんの片隅みたいな事業が多いように感じています。話を聞いているとセグメントが小さいという感がぬぐえないのです。仮にうまくいったとしても、小さな成功にしかなりません。スマートフォンのアプリを作るとか、一つのアイデアだけで事業を始めるのですが、それだけでは長続きしないでしょう。とはいえ、まずはたとえ小さなセグメントでも、ここで事業として成功させることが必達です。

宮内氏はネットベンチャーには否定的なようだ。20代の起業家がベンチャービジネスを立ち上げるならネットベンチャーのように若者に競争優位性があるものが良いと私も思っていたが、宮内氏は20代で渡米しリース業を日本に持ち込んでいるので、そういう先入観は良くないかもしれない。

心持ち

1. 謙虚さを忘れない→社員の潜在能力を引き出す
2. 粘り強さで勝ち取る→やりやすい課題から手を付けない
3. 慎重さで見極める→先の見えない時代を自覚する
4. 学び続けて自らの哲学を→自らを見つめて、課題を見つける
5. 子孫に美田を残す気持ちで→挑戦は中小企業の特権

企業の成長には瞬発力より粘る力が重要です。これまで触れたように、事業は顧客の要望によって変化していきます。顧客要望への対応を前向きに捉え、その要望に対応できると商機は増えて、企業としての体力も高まって行きます。そのような努力を地道に続けることが、実は成功の秘訣なのです。

本書の教訓

本書で語られる内容は極めてベーシックなもので、突飛なものは存在しない。「琴線に触れる浪花節を語る」にしても、今風にいえば「起業家はビジョンで人々を巻き込む」という一般論に近い。数字で経営管理するにしてもあたりまえだし、自己研鑽の必要性も訴えている。
比較的独自性がある意見は、

・自己研鑽は本も良いが勉強会やセミナーの参加がおすすめ
・ネットの狭い世界だけで商売するな
といったところだろうか。しかし本書の内容が凡庸だというのではなく、優れた経営にウルトラCは存在せず、徹底的に基本に忠実というだけである。とくに最後の「顧客要望に対応し商機を増やす地道な努力を続ける」というのが本質だろう。

私の会社でもお金の出どころとなっているエンドユーザー・エンド企業の要望を100%満たし、期待を超えたアウトプットを出せるように日々の動作を確認したいと思う。

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