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ジムノペティ、もしくは亡き王女のためのパヴァーヌが流れる夕方

見た目がまじめでしっかりしていそうなので、いつも何か任されがちだ。
まじめは取り柄だが、しっかりはしていない。夏休みの宿題は終わらせるけど最終日にまとめてやる。時間通りに行動することが苦手だし、しめきりの類はいつもギリギリである。貯金もほとんどない。社会人3年目、同期の中で一番早く昇進したが、5年目には降格した。

中学に入学してすぐの学級委員も、なんとなく私に決まってしまった。しかし実際はしっかり者でもなんでもないので、次の委員会決めからはどの委員にも選ばれなかった。自分の人望のなさに落胆こそしたが、グレるには不十分な理由なのでグレることもなかった。

次の年からは圧倒的に人気のない放送委員をすることになった。
今の学校事情は分からないが、当時の学校では委員会は男女のペア。下校放送当番の日は部活を早めに切り上げてペアの子と放送室に集まる。
下校放送はカセットテープに入っている「ジムノペティ」をかける。日によって「亡き王女のためのパヴァーヌ」。

ペアになったその子は気さくで明るく、ギャルとも不良ともオタクとも普通に話せるニュートラルな人だった。そんなこともあって、仕事が終わった放送室で他愛のない話をすることも多かった。うわさ話から私がクラスの隣の席の子を好きになった話までなんでも聞いてもらった。また、その子はその恋路を長い期間にわたって何度もアドバイスをくれ、応援してくれた。
その子の的確なアドバイスの甲斐もあって好きな人への告白は成功したが、まじめに「付き合いたい」気持ちが強くても、付き合ったあとに「何をすべきか」「何をしたいか」がまったくわからないしっかりしていない私のせいで結局関係は長くは続かなかった。
グレるのには十分な理由だが、グレることはなかった。しっかりはしていないが、まじめなのが私の取り柄だ。
相談にのってくれて応援してくれた放送委員のその子には私の面倒に付き合わせてしまって、ただただ申し訳ないと思っている。

少ししか付き合えなかった彼女のことを思い出すとき、相談にのってくれたその人のことも必ず一緒に思い出す。ふたりとも、いま幸せに暮らしていますように。
心の中でカセットテープの「ジムノペティ」をかける。もしくは「亡き王女のためのパヴァーヌ」。景色は西日の差す放送室。下校時刻です。

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