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2023年のマイベストブック

■2023年中に読んだマイベスト本

『脳髄工場』(著:小林泰三)

2023年中は大体100冊くらいの読書量でしたので、その中から選んだ一冊ということになります。

タイトルからして禍々しさが漂うこの作品ですが、なぜこの作品を、と思われる方もいるかもしれません。

小林泰三さんといえば、『アリス殺し』のような、~殺しのシリーズの方が知名度が高いと思います。読みやすいですしね。

他の作品の中にはSF要素が強いものもあって、ストーリーは面白いんだけど、理屈や言ってることが私にはチンプンカンプン、という作品も少なからずあります。

ですが小林泰三さんがデビューした作品が『玩具修理者』というちょっとホラー要素のある作品であるからして、根っこの部分はそうした「怪奇」にあるのではないかと思うんです。

では、本題の『脳髄工場』に。
舞台は「人口脳髄」を頭に挿入するのが当たり前の世の中です。最初は犯罪者の欲求や精神を矯正し、逸脱しないようにするための装置として生まれますが、やがて逸脱した人間が減っていくと、脳髄の装着が善良な人間の証明になっていくようになる、という流れです。

ただ、「人工脳髄」が当たり前の世の中でも、中学生である主人公は「人工脳髄」を入れることには懐疑的で、女の子とのデートでも脳髄の装着の有無で言い争いになってしまいます。

この「人工脳髄」がまたグロテスクなのが、頭から突き出て見えるというところ。それに専用の技師ではなく、理髪店の理容師が施術を行うのが恐い。
しかもその施術たるや、外科手術のような精密なものを想定しがちですが、薪割でもするかのような力業。

この辺りの描写のグロテスクさが小林泰三さんたるゆえんでもあるのでしょうが。他の作品だともっと生々しくて、さすがに目を塞ぎたくなるような描写をされている作品もあります。

この作品で問題になるのが、「人工脳髄」を入れた自分の意識は果たしてオリジナルのものなのか、「人工脳髄」に左右されたものなのかということです。

われ思う故にわれあり。

その思う「われ」に疑念が生じたとき、人間のアイデンティティというものはどうなるのでしょうか。そして、どうやって「われ」を確かめればいいのでしょうか。

主人公は脳髄工場まで行って真実を確かめようとするわけですが……。

物語がどのような結末を迎えるのか、ぜひみなさんの目で確かめてみてください。

#今年のベスト本

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