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午郎's BAR 2杯目 書店の収益源のお話。


報道ではどんな事業をしていても「書店」で一括り

日本にはだいたい11,000軒くらい書店があります。以前はアルメディアと言う会社が定期的に本にそれをまとめていましたが、2013年版以降それは発売されていません。
毎年幾つもの書店が閉店していることは皆さんもご存知ですが、書店というビジネスは小売りの中でも最低レベルの粗利の中で、場所代と人件費という2大コストと闘っています。

たまに新聞やネットの記事でチェーン書店の収支に関するものを目にしますが、これらの記事はたいてい結構乱暴に「書店」とひとくくりにして報道されています。

書店の事業領域のメインは「書籍雑誌販売セグメント」になるのですが、このセグメントの中にも「店売セグメント」(店頭での書籍雑誌販売)もあれば「外売セグメント」(いわゆる外商ですね)もあり、書店数が減っている、という記事に直結するのは「店売セグメント」なのですが、前述の記事で扱われるのは、こうしたセグメントを無視した書店チェーン全体の売上、粗利、営業利益をベースに語られることが殆どです。できればそのあたりを正確に調べて記事にしてほしいものです。

私の個人noteでも記述したことがありますが、現在「店売セグメント」のうちの「書籍雑誌セグメント」だけで黒字化できている書店はほぼ無いでしょう。では書店はどこでそれを補っているのか?と言えば、それ以外にそれぞれの書店が別の収益源を有しているケースが多いのです。

書店の隠れた収益源

ここからはそれぞれの書店の財務諸表を確認しているわけでは無いのですが、私の知りうる主だった書店の利益に貢献しているであろう収益源を紹介してみます。

まずは私がかつて在籍していた丸善CHIホールディングス。正直この会社を「書店」として扱うには抵抗はあります。それは他の書店チェーンと大きく事業構造が異なるからです。

同社には丸善ジュンク堂書店・丸善雄松堂・図書館流通センター・丸善出版という事業会社があり、丸善ジュンク堂はご存知の通り屋号「MARUZEN」「ジュンク堂書店」「MARUZEN&ジュンク堂書店」を運営している書店です。
丸善雄松堂は主に大学や自治体、企業等の図書館や資料室などを顧客にする「外商会社」。図書館流通センターは全国の公共図書館の指定管理業務や運営サポートなどを行う会社、丸善出版はその名の通り、出版社です。
純粋に店売セグメントだけを見ると丸善ジュンク堂書店をベースに比較するべきなのですが、新聞やネットの記事は意外と丸善CHI全体で報道されるケースが多いのが現状です。

その中で丸善ジュンク堂書店の強みは「文具」でしょう。日本にこれほど全国的に文具店を展開しているチェーンは他に存在しません。他の全国チェーンの書店でも文具は扱っていますが、殆どが外部委託の中、丸善ジュンク堂だけはほぼ自社運営で文具を扱っています。

紀伊國屋書店の場合もいくつかのセグメントに分かれます。記事にある同社の売上は殆ど全体の数字ですね。売上の殆どは「店売事業部」と「外売事業部」でしょう。店売事業部の強みは何と言っても海外店舗運営にあると言えます。丸善ジュンク堂も海外に店舗を持っていますが、規模が違います。

海外での本の販売には日本の「再販制度」は適用されませんので、日本よりも大きな粗利が期待できます。今ではアマゾン等ネット書店で購入可能ですが、送料が馬鹿にならないので競争力はあります。ただ今後の電子書籍の伸び如何では同社の海外店舗事業も安泰とは言えません。(電子書籍には送料掛かりませんので)
それを見越して紀伊國屋書店は独自で電子書籍販売をしている、とも言えます。

正直紀伊國屋書店と丸善CHIホールディングスは書店と言うよりも本の商社。そう捉えるべきでしょう。

あとは
有隣堂→アスクル事業
東山堂(岩手県)→ヤマハ音楽教室
ふたば書房(京都)→上級小物(文具や土産など)
ブックスミスミ(鹿児島)→KFCフランチャイズ事業等
CCC(カルチャコンビニエンスクラブ)→Tカードやテナント収益
などが代表的な事例としてあげられます。

そして最も多いのが「外売セグメント」で店売をカバーする例です。外売は経費が掛かる代わりに大きな売上が期待でき、売上次第では十分カバーできます。しかし、昨今は地元の公共図書館の売上は指定管理の増加で期待できず、且つ教科書の電子化など、外売セグメントでも苦戦を強いられているのが実情ではあります。

儲からない書籍雑誌セグメントをどうカバーする?

2010年台、書店は書籍雑誌セグメントでの苦戦を補うために「Books&〇〇」という本を補う〇〇の開発に力を入れてきました。その代表がCafeであったわけです。ただそのカフェも現在自社で運営している書店チェーンは殆どなく、外部委託が主流となりつつあります。こうした流れは1980年台から「複合化」として始まり、レンタルビデオなどがもてはやされましたが、その走りのTSUTAYAではレンタル事業の縮小が進んでおり、今ではコワーキングスペース事業に乗り出すフランチャイズもあります。

結局そうした試行錯誤が必要な要因は本と雑誌の販売では黒字化が難しいからに他なりません。その上コロナの時期に好調だった「電子書籍」はほぼ書店の売上(利益)にはならないので余計にそうした〇〇の必要性が重要になってきているわけです。

私も10年近くその〇〇を日夜考え、試し、失敗しの繰り返しでした。ただ、結局「本業」(何とも皮肉な言葉ではありますが)である書籍雑誌販売の黒字化が見いだせないと、「書店を続けるメリット」も見いだせないので、業界全体での構造的変革と、書店個別の〇〇探しは今後も続くと思われます。

但し、これはあくまで書店という小売りの延命処置の一つでしかなく、結局のところ「店売セグメント」の中の「書籍雑誌販売」が一定の利益を計上できる状態にならないことには、「書店」を続けていくのは「使命感」でしかないわけです。(多分他の小売産業では理解しづらいことでしょう)
しかし、現状としては書店の経営者や従業員たちの「使命感」に支えられている産業であることが、まだ海外に比べて書店の数が多く存在している特異な部分を支えているわけです。

なぜ儲からないのか?

書籍雑誌セグメントはなぜ儲からない、或いは儲け辛いのでしょうか?
一般的に儲からない、つまり営業利益をプラスにできないケースは
粗利<販管費、である、と言うことです。
書籍雑誌の粗利は売上のおおよそ20%~30%の間です。
これは小売りとしては最低レベルのものです。

これに対し、販管費は、というと
*家賃(光熱費等含む)
*人件費
おおよそ書店事業は規模と人海戦術に行きつきます。

多くの本を在庫すると当然代わりに家賃が高くなる。そしてその広さをカバーする人員も必要になる。
拡げた分だけ販管費が掛かり、上がった売上から出てくる粗利がそれをカバーできるか?が規模をどうするかのポイントになります。
アマゾンが出てきたときに「ロングテール」という言葉が注目されるようになりました。ロングテールとは売上にはあまり貢献しないが、少ないながらもニーズのある商品群のことを指します。
つまり書店には在庫がないがアマゾンの倉庫には在庫がある商品群が注目されたわけです。

ところがこれを捉えて書店がロングテール部分まで在庫するとどうなるかというと、増えるであろう販管費をロングテール部分の売上から出る粗利がカバーしきれない(つまり赤字になる、或いはロングテール部分を在庫した意味が薄れる)ことになります。ロングテールの在庫が売れ筋の売上増に貢献するならばまだ可能性はあるのですが、リアル店舗の場合はアマゾンと異なり、顧客はその店の近くに住んでいる人であったり働いている人であったり、と限定されますから、全世界を相手にしているアマゾンのロングテールとは比べ物にならないくらい「ニッチな需要」にならざるを得ないのです。
かつては1000坪オーバーが当たり前だったジュンク堂書店も、今は「適正坪数」を300~500坪と捉えており、その適正坪数自体も、売上と販管費のバランスから導き出したものです。

少ない粗利と規模を大きくすると増加していく販管費。このバランスの中で、そもそも少ない粗利を「プラス」で残すのは並大抵のことではありません。よって「書店は儲からない」という構図に帰結します。
書店側も既に販管費を圧縮する努力は限りなくしてきている状況で、多分乾いたタオルから更に水を絞り出す状況までたどり着いていると言えます。
そうなると結局は「粗利」をいかに増やすか、しかない現状です。

嘆く前に変える 

嘆く前に使う

書店の閉店の際に必ず「あぁ残念だ。これからどうすれば良い?」などの意見が出ます。

こういった意見を目にするたび、私は寝台列車が廃止される際の鉄道ファンを思い出します。
廃止となると急に寂しくなり、写真を撮ったり乗ったり。最終日にはあふれるほどの人が始発駅に集まる・・・
そしてその翌日からは何事もなかった日常に戻る。

しかしその寝台列車が廃止されるのは利用者数の減少という経済原理であるわけで、嘆くなら使えばよいわけです。
書店も同じなのですが、寝台列車と違うのはまだ書店の場合変えられる可能性は残っている(ハズ)です。

ユーザーは書店が大事ならアマゾンを使わなければ良いし、もっと多く本を買えばよいわけです。
とは言えユーザーに頼る前に、来たくなる店づくり、読みたくなる本づくりと「ほしいタイミングで本が手に入る仕組みづくり」を出版業界は行うべきでしょう。

まぁ難しい話はこれくらいにして、今後書店に関する報道を目にした際に、記者がどれだけちゃんと調べているのか?という視点をお持ちください。実情を知るとどれほど「取材」していないかが明らかになってしまうのですが。

書店を使う際にも「これは粗利が高そうだ」と思える違う商材も買ってみてください。
因みに私は電子書籍でためたポイントはリアルで使うようにしてます。
(電子書籍買ってるんかい!!)

2杯目
サントリー角瓶
私が生まれて初めて呑んだウィスキー(小学生時代・・・)