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トリフィドの日

さて、昨日感想をアップした本を読んでいて、思い出した本があります。
トウモロコシは宇宙人にもらった植物だという都市伝説があるぐらい謎な植物だ、というところで、そういえば昔、謎の植物に侵略されるSFを読んだなぁと思い、遠い記憶を一生懸命引っ張り出して、タイトルを思い出しました。
それがこちら。

私が読んだのは、ハヤカワ・SF・シリーズだったと思います。文庫のサイズ感とか装丁じゃなかったと思うんですよね〜。ペーパーバックっぽい感じだっか気がするので、たぶんハヤカワ。そちらだと『トリフィドの日』というタイトルです。
あらすじはこんな感じ。

地球が緑色の大流星群の中を通過し、翌朝、流星を見た者は一人残らず視力を失ってしまう。狂乱と混沌が全世界を覆った。今や流星を見なかったわずかな人々だけが文明の担い手だった。しかも折も折、植物油採取のために栽培されていたトリフィドという三本足の動く植物が野放しになり、人類を襲いはじめたのだ! 英国SFの不滅の金字塔。
Amazon商品ページより

こうして今も新訳版が出ているんですから、なかなかの有名作なんでしょうねえ。忘れてしまっていたけど。
何か読む物ないかな、と母の本棚を探っていて見つけた本なんですが、小学生が読むにはなかなか気持ち悪いお話だったことを覚えています。
お話の始まりになる緑色の流星群のことも、うろうろ動けて人を襲うトリフィドのことも、こうだ!という説明はなくて、なぜこんなことが起きるのか、といういことはわからないままです。一応こうなんじゃないか、ということは匂わされてはいますが。
そもそもこのトリフィドというのは動物のような植物で、肉食性だし、鎖で繋がれた状態で工場で栽培(というよりは飼育?)されているのです。
ところが緑の流星群の後、人々が盲目になり始め、疫病に苦しみ始めるどさくさの中で、その鎖から逃れ、復讐するかのように人を襲い始め、次第にトリフィドに世界が支配されていくというパニックSFのような展開。
植物ですから、知能や意思はないものとされていたましたが、どうやらトリフィド同士で意思疎通をしているのではないかというところもあり、宇宙人に襲撃され、乗っ取られ、迫害されるという感じによく似ています。
もうねえ、とにかくこのトリフィドが気持ち悪いんですよ。毒のある刺があって、それで動物を襲っては腐乱していく死体から栄養を得て成長するという、なんとも禍々しい植物。良質の油が取れるとはいえ、鎖で繋いでいるところから考えて、扱いやすい植物ではなさそうなのに、なんでこんなものを栽培しようと思ったんだか……と思ってしまいます。繁殖力も強そうで、侵略的外来種、という言葉が頭に浮かびます。どこから現れたんだかわからない謎のトリフィド。これがどんどん広がって、人間が住む環境ではなくなっていくという。
それまで資源扱いしていた植物に、立場逆転して食糧とみなされて襲われる人間たち。しかも目が見えなくて状況がよくわからないとなると、それは混乱しますよねえ。
初めは助け合おうとする人々ですけど、次第にエゴが噴出してうまくいかなくなっていくあたりなんかはリアルな感じがします。目が見えないものがマジョリティで、目が見えるものがマイノリティ、マジョリティがマイノリティ側を使役して奴隷のように扱いはじめる、なんていうあたりも人の嫌らしさが現れていてなかなかのムナクソ展開。
目が見える側の主人公たちは、トリフィドに支配されたロンドンを脱出して、反転攻勢に出るための拠点を手に入れようとするのですが、これまた目の見える者同士でも諍いがあったりと、そんなことしてる場合じゃないにも関わらず互いの思惑や利害が衝突するなんていう展開も生々しい。
最終的にはイギリス本土を脱出して、離島からトリフィドを駆逐して拠点を手に入れることに成功するんですが、物語はそこで終わってしまってこのあとどうなるかは読者に委ねられてしまうという、子供が読むにはなかなかの不親切仕様な物語。
かなり記憶が曖昧になってしまっているんですが、それでもうへぇと思いながら読んだことは覚えています。下手なホラーより怖い展開で、ビビりながら読んだと思うのですが、やめときゃいいのに怖いもの見たさで読んでしまうのが子供ですよね(笑)。絶対後で怖くなって変な夢みたりするのに、やめられないという。
それにしてもこんなことになったら、トチ狂ってもう核使っちゃえ、みたいな人が出てきてもおかしくなさそうですが、そういう展開はなかったように思います。
クシャナみたいに「焼き払え!」ってなっちゃいそうなものですけどね。でも正体不明の植物だから、ひょっとしたらゴジラみたいに核によってまた手に負えないモノに変わっちゃう可能性もあるのか。
『宇宙戦争』みたいに宇宙人に襲撃されるのともまた違った、それまで人が利用していたものが人を襲い始め支配していくというのはやっぱり時代性もあるんでしょうか。1950年代に書かれた作品ですので、どんな暗喩が隠されているのか、今更ながら読み返してみたいような気もします。
核による終末とはまた違う、植物の逆襲(植物といえるかどうか微妙なイキモノではありますが)による終末というなかなか面白い設定のSFです。私の好きな漫画家、樹なつみさんの『獣王星』も人を襲う植物が生息する厳しい環境の星を舞台としていますが、ひょっとしたらこの作品を読まれたことがあったりするのかな?なんて思ってみたり。
本当に気持ち悪い描写も多いので、そうそうオススメできるようなものではありませんが、面白いことは面白かった印象があります。展開も早くてハラハラドキドキしますので、怖いのが平気な方はぜひ!
たまにはこんなのもいいんじゃないでしょうか。ちなみに映画にもなっていて、それは見ていないんですが、トップ画に使ったのはその映画版の方のイラストです。トリフィドがほんとにキモい……。泣くわ、こんなん。

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