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筍のはなし

地表面から、もう40センチくらい出てしまった筍でもシナチクになる、という話をしてるの

娘が眠りこけて、妻とそれぞれ好きな本の中間報告会をウイスキーを飲みながらしていると、祖母はそう言いながら私と妻に筍の煮物をよそってくれていた。

先日、裏山で蕗のとうと、筍を掘ってきたスペイン人の祖母と日本人の祖父。
ふたりはドイツのボンに祖父が留学した際、出逢った。
もう、5,60年近く前の昔のことだった。
彼女はその年に日本に留学した。

水でよく筍を洗い泥を落とす。
筍はふかふかの腐葉土に埋まっていれば、安心できる。苦味がない。
鎌だのなんだのを持って掘る気満々で出かけて行った先日のある晴れた日。

スペインには筍など煮る習慣はなく、曽祖母から結婚して筍料理を知ったらしい。

ゴム手袋、ぎざぎざありの鎌となしのものとで2本、カッターひとつに、山用のシューズ、ビニール袋。

収穫する筍は地上面から5センチくらいのものから4,50センチでたもの、太い肉厚のもの。

そうしたものを見つけたら、ぎざぎざぎざのない、刃渡り7センチほどの方の鎌で周りのふかふかの腐葉土を掘り、根にぶつかったら、刃渡り25センチほどのぎざぎざの鎌で根を断つ。

ゴム手袋をした両手で筍をパキンパキンと前後に揺らしていると、ぽきーん、となる。

69年の学生運動のころ、祖母は水道橋で歩道の小さなレンガのような小石を学生たちに手渡し、機動隊に学生たちは投げ飛ばす。

今の祖母からは想像つかない。

筍を抜きとると、腐葉土に虫たちが集まってくる。

抜き取ったらすぐに、皮をカッターで剥ぎ取る。

中身をビニール袋へ、皮は掘り抜いたあとの土へ。

虫たちの新たな城になり、やがて、腐葉土の一部となるだろう。

水洗いした筍
頭五センチくらいは煮物用に。
昆布と水を張った鍋に大胆に切ったそれをアクも抜かず入れる。
醤油を少し入れ煮る。

残りはシナチク用にする。
岩塩を入れて壺に硬い部分をざく切りにし、敷き詰める。

柔らかな山の匂いが台所からしてくる。

祖父が延々と筍掘りについて語ってくれた。
彼は裏山に着いて行っただけで、ほとんど何も手伝ってくれなかった、と祖母は憤慨気味に言いながら煮物をよそった器を私たちのテーブルに置いた。

雨はまだ降ったり止んだりしながらも、時々、雲の切間から月が顔を見せてくれた。

#筍レシピ  
#散文

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