letter from books selva 02

   (…)動物は、人間に変わりたくなどなかった。動物にとって人間は、モンスター、怪物のように恐ろしいものだった。それで、動物たちは申しあわせて、神を捕らえて溺れさせてしまった。こういうわけだ。(『プラヴィエクとそのほかの時代』オルガ・トカルチュク pp194-195)

 なぜ、このようなことが許されるのか──。種子島とほぼ同じ面積のパレスチナ自治区ガザ地区。約223万人もの人が密集する中にイスラエル軍がミサイルを落とし続け、子どもを含む人間が殺され続けている。北朝鮮、中国、ロシアが同じことをすれば、国際社会、日本政府はどう反応するだろうか? 激しく糾弾し、何らかの制裁を科すのではないだろうか。しかし、今回、そのような動きにはならない。
 ヨルダン川西岸地区に行ったのは、たしか2007年ごろだった。ISM(International Solidarity Movement)に参加した。ISMは、パレスチナの人々がイスラエル兵や入植者から攻撃されないよう、外国人がパレスチナ人の近くで行動を共にする活動を行う。私も、デモに参加。日本でもあるようなデモにもかかわらず、イスラエル兵が催涙弾を撃ってくる。南部・ヘブロンに滞在していた時には、イスラエルの子どもから罵声を浴びせられる。もちろん、ヘブライ語は理解できないので、何を言っているのかわからないが、雰囲気からは罵声だったと思う。憎しみの感情が空気のようにその街を支配していた。
 パレスチナ、ガザとはなんなのか。雑誌『世界』1月号の岡真理さんの説明を引用する。「ただ、明らかなことは、一九四八年のナクバ(…)でパレスチナ人七五万人が家を、故郷を、パレスチナを追われて難民となり、うち一九万人が当時人口八万人のガザにやって来て、ガザ自体がひとつの巨大な難民キャンプとなった、そのガザが、二〇〇七年に始まる完全封鎖により『世界最大の野外監獄』と化し、そして今、この大量殺戮攻撃によって『二一世紀の絶滅収容所』、ひいては一つの巨大な集団墓地、とりわけ子どもたちのそれとなったことだ。破壊されたガザの大地に転がるのは、西洋近代が掲げてきた『普遍主義』なるものの瓦礫でもある」。メディアの報道だけでは、ハマスという「悪」に対するイスラエルの自衛戦争とも受け止めてしまいそうになる。しかし、歴史的経緯を少し見るだけでもそうでないことは明らかだ。同じ『世界』で岡さんは指摘する。「これは、メディアが信じ込ませたがっているような『ハマス』とイスラエルの戦争ではない。住民を民族浄化して創られた入植者による植民地国家と、その支配の頸木(くびき)からの解放と独立を目指す人間たちの戦争である」
 イスラエルのガラント国防相はパレスチナの人々を「動物のような人間」と表象した。関東大震災で、日本人は朝鮮人を「不逞鮮人」として虐殺した。1994年のルワンダ大虐殺でも、フツ族がツチ族を「ゴキブリ」と呼び、80万人もの人を虐殺した。相手は自分とは別の人間。だから、殺そうが、殺されようが、関係がないということだ。直接的に殺し、殺されるという関係ではないが、日本の原発問題も根は同じなのではないだろうか?
 1月1日の能登半島地震で、多くの集落が孤立した。半島には北陸電力志賀原発がある。北陸電力が事前に想定していなかった複数の活断層が連動した。つまり、耐震設計の基となる基準地震動を定めたところで、それ以上の地震は起こるということだ。また、多くの道路が寸断され、避難計画がまったく役に立たないことも白日の下に晒された。にもかかわらず、政府も原子力規制委員会も現在稼働中の原発を止めようとはしない。再び事故が起これば、「想定外だった」で済ますのだろう。
 都心部で大雪が降りそうとなれば、大騒ぎをする。交通が麻痺すれば、日本全国に影響が及ぶ可能性があることは否定しない。しかし。もし、原発が都心部にあれば、今も原発は稼働しているだろうか? 原発があるのは、「地方」だ。一方、電力会社は「中央」にあり、電力会社の儲けのほとんどが地元には落ちず、「中央」に流れていく。わたしたちは収奪されているだけだ。だから、国は甚大な被害をもたらしかねない原発を漫然と運転できる。私たち、地方に住む者の生を軽視しているのだ。
 遠く離れていれば、他人事になってしまう。ヨルダン川西岸地区に行って以降、パレスチナ関連の記事は読むようにしていてたつもりだが、深く考えることはなかった。自分には関係のないことだという意識があった。しかし、今回のイスラエルのガザでの虐殺を目にし、また、『世界』や『現代思想』などを読み、私が生きる今とパレスチナの今は隔絶されているのではなく、地続きなのだと痛感させられた。
 一人ひとりの命の儚さ、脆さ、尊さに想像が及べば、土地から民を追い出し、入植するという行為はなかったはずだ。であれば、ガザは「天井のない監獄」でもなく、2023年10月7日が起こることもなかった。そして、土地を汚染し、居住できないような地を生み出しうる原発を動かすこともできないはずだ。

 パレスチナ子どものキャンペーン」の協力の下、2月1日からパレスチナ写真展を開催した。引き続き、パレスチナ関連の書籍を取り揃えます。

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