letter from books selva01

 あぁ、売れないなぁ……。海外小説を並べた棚を見て、本には悪いと思いつつ、こんな言葉が漏れる。しかし、どうしても発注してしまう。強風のなか、手巻きタバコを巻いてしまうような感覚だ。運が悪いと、葉っぱが飛んでいってしまう。
 こりゃ、おもろい、と最初に感じた海外の小説は、『ラ・カテドラルでの対話』。ノーベル賞作家、バルガス=リョサの「独裁政権下ペルーの腐敗しきった社会の現実を多面的に描き出」(岩波ホームページ)した長編。「これまでに書いたすべての作品の中から一冊だけ,火事場から救い出せるのだとしたら,私はこの作品を救い出すだろう」(バルガス=リョサ)。おすすめは、旦敬介氏訳の岩波文庫版。文体について、旦氏は「ひとつの句点にいたるまでの過程で、話法がつぎつぎに変化して、激しく文の視点が運動しているのだ。彼のやっていることは(…)きわめてダイナミックな話法すなわち視点の運動」と解説。「自由間接話法の楽しみを生かすことを試みたのが今回の翻訳」という。最初は読みにくかったが、読み進めていくうちに良い波に乗っているかのように物語に引き込まれていく。この本をきっかけに、さまざまな国の小説に手を出した。チベット、アルバニア、ルーマニア……。どれも、それぞれの味わいがある。もちろん、さっぱり意味がわからない本もあったが、それはそれで良し。数年後にはわかるかもしれないし、わからなさも、本の醍醐味だ。
 最近、CDを6枚買った。ディスク・ユニオンで、最大9割引のセールがあったため、1000円未満のCDを探し、見つけたのが、この6枚。『UNA ROSA 』( XENIA RUBINOS)▽『AXEL TOSCA LAUGART』(AXEL TOSCA LAUGART)▽『IIII+IIII』(IFE)▽『CAMBIOS』(JUAN TORRES FERNANDEZ )▽『AMI』(MALIBRA)▽『SAXOFONES LIVE SESSIONS』(CUBAN SAX QUINTET)──。聞いたこともないアーティストばかり。10秒ほど視聴をして、購入を決めた。本で言えば、ちょっと読んで、購入するようなものだ。そして、年末に届く。どれも割と良い。中でも気になったのは、MALIBRA。何語で歌っているのかさっぱりわからない。しかし、耳に残る不思議な音韻だ。頭の中で何度も「エベンヤコ エベンヤコ」がこだまする。ディスク・ユニオンの商品紹介には、「西アフリカで広く使われているジュラ語で歌われて」いると書かれている。
 ん? ジュラ語? なんじゃそりゃ。愛用する大辞林では「アフリカのマンデ系諸語から派生した言語。コートジボワール、特にアビジャン市では共通語となっているが、商用語として西アフリカ西域で広く通用」と説明されている。マンデ系諸語って、なんなんだ? とにかく、西アフリカで話されている言語ということはわかった。
普段、聞いたこともない音楽を聴くだけでも、新たな発見があるし、刺激にもなる。本も同じ。何かしら、新たな気づきがある。それが本を読む楽しみの一つだと思っている。が、いかがだろうか? とは言え、絶対におもしろいものなどはない。おもしろいかどうかは主観。そりゃ、お前が好きなだけだろ、と言われれば、そりゃそうだ、と答えるしかない。わたしが好きな商品はことごとく、生産・販売中止になる。先日も、某ファストフード店で好きだった商品がなくなっていた。だから、わたしが勧めるものは、多くの人にとっては好きではないのかもしれない。(まだ生産中止になっていないのは、某スーパーが販売している焼酎。安いにもかかわらず、うまい)
 ということで、海外の小説がおもしろく感じない人もいるだろう。しかし、いつ、どこで、おもしろくなるかはわからない。一度は読みきれなかったとしても、10年、20年後にふと手にとると、ハマってしまうかもしれない。そんな幸運な再会ができるのは、書物というブツがあるからだ。電子書籍を読んだことがないので、わからないが、電子書籍だとそうはならないのではないか。やはり、ブツとしての重み、厚み、手触り。そういう感覚が、もう一度読んでみよう、と思わせるのだろう。
 会社を辞めたのは、組織にからめとられて、個として責任ある行動をとる自信がなかったからだ。辞めた後、少し時間があったので、10年ほど前に本棚に差し込んだままになっていたワシーリー・グロスマンの『人生と運命』(全3巻)(みすず書房)を読んだ。栞は70ページに挟まったままだった。個として生きることの難しさを身をもって体験し、また、日本社会が個を蔑ろにする風潮が強まっていたからだろう。登場人物は多いが、個の弱さ、強さが描かれており、作品に入り込むことができた。人生の立ち位置、社会情勢によって、するっと読めることがある。だからこそ、小説は面白く、深い、のだと思う。
 国というよくわからない存在に個が飲み込まれつつある今こそ、物語が読まれてほしい、と思っている。そんなわけで、求められていないかもしれませんが、これからも文学、特に海外文学をプッシュしていきます。鹿児島市でも大型書店が閉店しました。ここ、名山堀で本を打っていくことで、なにかが変わることを信じています。

※月に1回のペースで、フリーペーパーを制作します。部数はかなり限られますが、本をご購入いただいた方に配布します。ここでは前月分を掲載していきます。

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