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レティシア書房店長日誌

高橋源一郎「DJヒロヒト」
 
 
高橋源一郎、6年ぶりの大長編小説です。本の厚さ約4cm、645ページ。いやあ〜時間はかかりました。でも、この分厚さに値する傑作でした。(古書3300円)タイトルからしてすごい!「DJヒロヒト」ですよ。そう昭和天皇のことです。作品の中でも登場します。そして、なんとDJなんです(?)「ボクノ話ヲ聞イトクレ…….D…….J…….ヒロヒト…….オールナイトニッポン....…デハ、マズハ一曲」(天皇の言葉は全てカタカナ表記です)

 物語は壮大で複雑で、時空を飛び越えて展開します。読みにくくはないの?と思われるかもしれませんが、ドンドン読んでいけます。著者の評論やエッセイは、新刊が出ればすぐに読むファンなのですが、なぜか小説は肌に合いませんでした。今回もこの分厚さで、改行なしのページが延々と続くスタイルに二の足を踏んだのですが、面白くなければ途中で放り出せばいいや、と思って読み始めたら止まらんのです、これが。
 この本に登場するのは、大岡昇平、折口信夫、北杜夫、志賀直哉、寺田寅彦、夏目漱石、永井荷風、中島敦、森鴎外、林芙美子らの文学者。南方熊楠、朝永真一郎、湯川秀樹らの自然科学者。東郷平八郎、山県有朋、そして昭和天皇ヒロヒト、その父親の大正天皇らの昭和史を語るための重要人物。それに、ウォルト・ディズニーやらディートリッヒまで登場してきます。
 描かれるのは、「昭和」であり、全ての人々が巻き込まれた「戦争」です。正確に言えば「教育勅語」が出来上がるまでを細かく描いているので、明治から昭和への日本で、右往左往する人々の姿かもしれません。
 多分、こんなスタイルで一つの時代を描いた小説は初めてではないでしょうか。DJがレコードを自由自在にサンプリングし、リミックスすることで新しい音楽をクリエイトするように、著者は自由自在に人物やその背景をリミックスしていきます。
「ラジオをお聴きのあらゆる人類のみなさま、聴くということは、なんと素晴らしいことでしょうか。確かに、時空間が若干歪んで、過去・現在・未来の放送が入り交じり、そればかりか現実と虚構も入り交じり、混乱しているとしても、なにより、音楽と声さえあれば、われわれは生きていける、きっとずっともっと。」第4章「戦争ミュージカル南太平洋」に登場する、DJの言葉です。日本が戦時中に占拠していた各地から聞こえてくるDJの声。これが本作を象徴しているように聞こえてきます。
 著者がターンテーブルに「昭和」を載せて、自由に大胆にアレンジしてゆくさまを楽しむ大河小説です。
「ヒロヒトは、ポケットから鍵を出し、会議室の横にある通信室のドアを押し開けた。闇の中でも、目を瞑っていてもそのドアなら開けることはできた。会議室は、終戦を決める御前会議が開催された部屋であった。」
そうして深夜、ヒロヒトはDJブースに向かいます。さて、彼は何を語ったのか?興味ありますね。

レティシア書房ギャラリー案内
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」
4/10(水)〜4/21(日)下森きよみ 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
中野徹「この座右の銘が効きまっせ」(1760円)
青山ゆみこ「元気じゃないけど、悪くない」(2090円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)




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