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レティシア書房店長日誌

澤口たまみ「自然をこんなふうに見てごらん」

 澤口たまみさんは、盛岡生まれのエッセイスト&絵本作家です。郷土の先輩である宮沢賢治の研究と、その世界の魅力を発信し続けておられます。「新版・宮沢賢治 愛の歌」発行時には、当店でも郷土の言葉で賢治作品の朗読をしていただきました。
 今回ご紹介するのは、賢治の作品を通して、私たちの周囲の自然を見る視点をちょっと変えてみる、タイトル通り「こんなふうに見てごらん」と優しく語りかける本です。

 「自然界の面白さや美しさに触れてこころを動かされたとき、賢治はそれを、どうやって魅力的な言葉にしてやろうかと、愛用のシャープペンシルの先を舐め舐め思案したに違いありません。その表現は、一度なるほどと納得してしまうと、もうその言葉しか出てこなくなるほど、的を射ています。」と、著者は独特の賢治の表現方法を説明します。
 私も賢治の作品は数多く読んできて、今も本を開くことがあります。童話はまだしも、詩作品になると、その変幻自在な言葉使いに眩暈を覚えることが多々ありました。理解できた、とは言えないものもたくさんあるのですが、それでも何度も読み返してしまう魅力があります。心象スケッチ「春と修羅」に入っている長編の詩「小岩井農場」が登場します。
「ひばり ひばり 銀の微塵のちらばるそらへ たったいまのぼった ひばりなのだ くろくてすばやくきんいろだ そらでやる Brownian movement」
 この「Brownian movement」は、「ブラウン運動」のことで、著者はかつて化学の授業で習ったと前置きして説明してくれます。「気体や液体のなかに粒子が浮かんでいる状態をコロイドと言い、その粒子が水などの分子に衝突されて不規則に動いているとき、それを発見者ロバート・ブラウンの名前にちなんで、ブラウン運動と呼んだのでした。」賢治は、大気もコロイド状態で、粒子が浮かんでいることを踏まえて「銀の微塵のちらばるそら」と表現したと著者は考えます。
 「朝や夕方に、雲の切れ間からこぼれて地上に降り注ぐ薄明光線は美しいものですが、あの光の筋も、大気中に浮遊している霧や煙などの粒子が照らされることによって、光の通り道が可視化されたものです。賢治は薄明光線を『光のパイプオルガン』と呼んでいました。」初めてこの詩に出会ったとき、突如英語が飛び出す言葉に脳内が???になったことを思い出します。
 賢治が、1921年ごろに書いた童話「ひのきとひなげし」で、今の時代なら当たり前になった言葉「生物多様性」の重要性を語っています。また、1934年に発表された「フランドン農学校の夜」では、「アニマルウエルフェア」という考え方を提示しています。これは「動物が生活し、死亡するまでの身体的、心理的な状態が快適に保たれること」を意味していて、今では家畜の生活を考える指針になっています。
 ナチュラリストで科学者の宮沢賢治は、未来の言葉をすでに自分のものにしていたのですね。

レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」(1980円)
青木新兵&海青子「山學ノオトvol4」(2200円)
蟹の親子「脳のお休み」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
「古本屋台2」(サイン入り/1650円)
RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)






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