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レティシア書房店長日誌

被災物ワークショップ「被災物」
 
 
本書は、2019年12月に気仙沼のリアス・アーク美術館を訪れて、震災の被害物展示に驚愕した作家の姜信子の呼びかけでスタートした「『被害物』への応答の試み、名づけて『被害物ワークショップ』の記録です。」(「あとがき」より/ 新刊3850円)

 姜信子はここで見た被災物についてこう語っています。
「リアス・アーク美術館で『被災物』に囲まれれば、それが単なる瓦礫でも、残骸でも、ましてやゴミなどではないことは、ありありとわかる。『被災物』は『モノ』なんですよ。人々と暮らしを共にし、人々と共に大地震と津波を経験し、人々と記憶を分かち合い、人々と共に生きてきた記憶を孕み、人々と共に生きてゆく祈りを宿す、そのような意味において、魂ある『モノ』なんです。気配をたたえた『モノ』なんです。もしかしたら、すでにモノノケ化している『モノ』かもしれない。見事にそのように展示が企まれていることに、驚いたんです。」
 この美術館の山内宏泰館長は、被災現場調査員として現場に足を踏み入れて、震災後のヘドロの大地には飴のようにねじ曲がった鉄骨や家の一部、船の残骸、ドラム缶、自動車、家具、衣類、書籍、ぬいぐるみなどが漂着し複雑に絡まり合っている姿を見て呆然としました。「『自分が失ったものもどこかでこのような姿になっているのだろう』という、モノに対する哀れみの情と愛おしさ」を強く持ちます。
 これらのモノを「ガレキ」という言葉でひとつに括ることに違和感を持った館長は、比喩的表現として「瓦礫」が「価値のないもの・つまらないもの」という意味を持つことを知り、この言葉の使用を禁止します。そうして生まれたのが「被災物」です。被災した人を被災者と呼ぶように、被災したものは被災物と呼ぶことにしました。
 本には多くの被災物の写真が載っています。そして、そのモノへの記憶を綴った文章が添えられています。しかし、誰のものか判別できないモノに誰が書いたのか?
 「実を言えば、その記憶のすべてを山内館長が書いている。つまりフィクション。いや、でも、フイクションと言い切れるのか。自身も被災者である学芸員たちが、収集時に収集現場で被災物を前にしてイメージしたことを『被災資料』に書きこんで、それをみなで共有し、最終的に館長がひとつひとつの被災物に宿る記憶の『モノ語り』として書きおこしていったのだというんですから。」と姜信子は説明しています。形状は千差万別ですが、無数のモノたちをじっくりと見つめることで、聞こえてくる遠い日の記憶に耳を傾けることができます。
 「気仙沼でも南三陸でも、私たちが旅ゆく道は、巨大な防潮堤で海と隔てられていた。ときおり小さな覗き穴のような窓が開けられているだけ。まるで陸と海の分断壁。そして人は牢獄に住んでいるかのよう。自然災害に対して、人工物ではなく人の知恵で、記憶で、身を守ることを考えなければいけない。そう思わずにはいられなかった。 国や政治が言う『復興』は、そこに住む人々の本当の力を奪い、惑わせる。たとえ嵩上げでかつての町が埋められてしまっても、土の下に生きていたすべての『モノ』のことを思いつづけたい、『モノ』語っていきたい。そう全身で感じた。」これは、ワークショップに参加した深田純子のレポートの最後の文章です。心に留め置きたい、忘れてはならないことだと思いました。
 

レティシア書房ギャラリー案内
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」
4/10(水)〜4/21(日)下森きよみ 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
中野徹「この座右の銘が効きまっせ」(1760円)
青山ゆみこ「元気じゃないけど、悪くない」(2090円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)


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