見出し画像

レティシア書房店長日誌

アナグマのいる空間
  
 
アナグマの本を2冊紹介します。1冊目はパトリック・バーカム著「アナグマ国へ」(古書2600円)です。精緻な自然描写と丹念な取材活動から生まれた、英国ネイチャーライティングの傑作と評価されています。
 

 梨木香歩が帯に「どうすればいいのか、途方に暮れる、ふと目を上げる。そこに、アナグマ国への入り口はある」と書いています。
 著者は元々アナグマ保護活動家だった祖母の足跡を辿ってゆく中で、その生態と受難の歴史を知ることになります。害獣のごとき扱いだったり、アナグマ捕獲がスポーツ化されたり、お互いを喧嘩させて賭けの対象にしたりと散々な目にあったのですが、ケネス・グレアムの書いた児童文学の傑作「たのしい川べ」で人気者になります。しかし、今度はウシ型結核の温床だと騒がれ、イギリス中を巻き込む論争に発展するという、アナグマにとっては与り知らぬところで大問題になった歴史をつぶさに検証しながら、アナグマの存在をどう捉えるかを見つめます。
 「ケネス・グレアムのおかげで、アナグマは頼りがいがあり、確固たる倫理観を持った動物というイメージが人々の間で根付き、イギリスにおける信頼の象徴の一部となった。」
 実際に「ハリーポッター」のハッフルパフ寮の紋章の中心になっていますし、自然保護財団の自然保護のシンボルにも選ばれています。日本にいると、アナグマは縁遠い存在ですが、英国では全く異なっています。もし、「たのしい川べ」という本が登場しなかったら、アナグマは相変わらず追い回され、殺され続けていた可能性があったかもしれません。
 
 もう一冊は絵本です。ハンス・テン・ドウルンカート・作、しもかわらゆみ・絵による「おやつにしましょう」(新刊1650円)。おやつの時間に沸かしていたお湯が、遊びに夢中のなっているうちにやかんから逃げ出します。雲になった湯気を追って、林を駆け抜け、山を登り、雲を捕まえようとするアナグマ、うさぎ、きつね、ハリネズミ、リスの仲良しの5匹。愛くるしい表情の動物たちに心癒されるのですが、彼らが雲を求めて一気に駆け出すシーンがいいのです。身体いっぱい使って追っかけるぞ!という躍動感溢れる場面です。山の上で、雲が雪になって彼らの上に降ってくるときの5匹の表情も可愛らしい。雪をかき集めてやかんにつめて帰り、お湯を沸かし、やっとアナグマの焼いたケーキでおやつにしましょう、というところで絵本は幕を閉じます。
 しもかわらゆみは「ほしをさがしに」「ごちそうたべにきてください」「もりのおへやをしょうかいします」といった絵本で注目の作家です。どれも森の動物たちが主人公です。


●レティシア書房ギャラリー案内
4/10(水)〜4/21(日) 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
平田提「武庫之荘で暮らす」(1000円)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)
島田潤一郎「長い読書」(2530円
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)

書いた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?