見出し画像

レティシア書房店長日記

酒井順子「本棚には裏がある」
 
 
本書(古書1300円)は、「週刊文春」連載の「私の読書日記」のうち2014年10月〜2023年4月分の回から39編を選び、再構成したものです。「女と仕事と人生と」「暮らしを巡る本」「歴史に中へ、社会の中へ」「旅の空から」の五章に分かれて著者の読んだ本が紹介されています。

 やはり、気合いが入っているのは、第1章の「女と仕事と人生と」ですね。
「市井にも、必死な女はたくさんいる。そしてそんな女をいつも救ってくれるのが伊藤比呂美であり、今度の本は、『女の一生』(岩波新書)。 新書というと「役に立つ本」というイメージがあるが、この本はまさに役に立つ一冊。必死な女達の様々な悩みに、伊藤比呂美は見事に回答を与えるのだ。 摂食障害も不倫も妊娠も中絶も出産も子育ても介護も、『女の一生』の様々なメニューを体験している伊藤比呂美の回答は、爽快かつ実践的。不倫のやめ方も水子供養をすべきか否かも離婚すべきかどうかも、ここには書いてありますよ。」と、ズバッと評しています。
 マイケ・ファン・デン・ボーム著「世界幸福度ランキング上位13ヵ国を旅してわかったこと」では、死を捉えるメキシコ人の独特の感性になるほど!と共感を寄せます。メキシコ人は死を「軽やかな皮肉で対処する」と、この本の著者ボームは書いていて、それを受けて酒井はこんなふうに結びます。「死者を偲ぶ日には、墓でテキーラを飲みながら親族で夜中まで笑い合うのだそうで、『死を笑うことのできる人は、生を笑うことなど簡単』という記述に、うなずいた。」
 ちなみに本書によると、ランキング上位は、北欧の国々に混じって、決して経済的に豊かではないメキシコ、コロンビアがランクインしているそうです。
 当ブログでも書いたことのある、山内マリコ著「すべてのことはメッセージ 小説ユーミン」は、一人の少女のシンデレラストーリーです。シンデレラと同じように、この小説も王子様と結ばれるところでフィナーレを迎えますが、「シンデレラの物語とは違って、『成功』は少女にとってのピークでもなければ終わりでもないのだ。 王子様とお姫様が『幸せに暮らしました』では物語が終わらなくなってきた時代の先端を走り続ける女性の、最初の十九年間を描いた本書。姫として生まれてスターとなった彼女が光を求める物語は、この先もまだまだ続くに違いない。」
 昨今、ハロウィンが異様に盛り上がっています。なんで?と思っていた私にも、なるほど!と思っていた本が紹介されています。それは、堀井憲一郎「愛と狂灡のメリークリスマス」です。日本では、明治以降。明治初期には、すでにクリスマスを祝う風習があり、昭和初期にはクリスマスの夜の街で、日本人は馬鹿騒ぎを繰り広げていました。戦争で騒ぎは途絶えますが、敗戦後に復活。キャバレーで大騒ぎしていた男達から、70年代、主役は若者にバトンタッチ。聖夜は若者が愛を語る日になりました。しかし、「時代によって転々と変化するクリスマスを、著者は『日本社会の玩具』と記す。2010年代ともなれば、若者達がクリスマスの『ロマンチック戦線から離脱』。恋人がいなくても楽しむことができるハロウィンが盛り上がるのも時代の流れなのであり、日本人の玩具・クリスマスがこの先どこに漂着するのか、気になるところである。」
 本書を読んでいると、そうか!と思うところが多々ありました。単なる本の紹介ではなく、著者がものの見事に、私たちを取り巻くこの世界の??に切り込んでゆく、極めて面白い書評集でした。

レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(野菜画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(著者サイン入り!)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?